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86話 貴族たちの回りくどい暗躍

 時はシキたちがタロと薬草採取をしている時まで遡る。

 リファの鼠型ドローンで監視しているのは、タクティス子爵家の屋敷だ。


 エンフィールド男爵家のものより豪奢で広い屋敷の一室に二人の人物がいる。

 ダスティン・タクティス子爵と娘のリティスだ。


 私室に備え付けられたソファーに座り紅茶を飲んで寛いでいる。

 薬草を刈る傍ら、拡張画面越しに見るダスティンの姿は、シキの記憶のものよりも幾分か痩せていた。


「シキ・エンフィールドに会ったそうだね」


「お父様がそう仕向けたのでしょう? 私が冒険者ギルドに出入りしていることも知っているのだから、侍女に報告させるだけで済むもの」


 シキが冒険者登録した翌日にリティスが現れたのは、ダスティンの仕業であった。

 多少騒ぎを起こしたとはいえシキは家名を名乗らなかったのに、その日中にダスティンまで情報が届くというのだから、優れた情報網を持っているようだ。


「それで彼とはどんな話をしたんだい?」


「もう知っているのでしょう? 私はお父様に教えられていた通り、ロナンド様は精霊使いではない。樹海から来る魔獣を防いでいる事実はない。よってエンフィールド男爵領で上質な魔獣の素材が取れるというのも嘘で、国を騙して視察団を呼んだのは罪だと声高に叫んで決闘を申し込み、見事に惨敗したわ。どうして私に嘘を教えたの?」


「嘘とは?」


「全部よ。本当はロナンド様が精霊使いだと知っていたのでしょう? お父様は」


「うーん、少し違うかな。ロナンド男爵は確かに魔獣を退ける力を持っているみたいだけど、普通の精霊の力とは違う気がするね。御前試合の結果を聞いてよりそう思ったね」


『なかなか勘の鋭い人物のようですね。ダスティン子爵は』


 一緒にドローンからの監視映像を見ていたオルティエの表情が少しだけ険しくなる。

 タロが近くにいたので声には出せなかったが、シキはオルティエを見て小さく頷いた。

 拡張画面の中のリティスは首を傾げている。


「精霊の力とは違う???」


「ああすまない、そこは気にしないでくれ。私がロナンド男爵が精霊使いではないと吹聴している理由だが……」


 ダスティンがリティスに説明したのは、シキたちも把握している寄親のフロント伯爵家からの指示であるということだ。


「何故フロント伯爵家はそのような指示を?」


「フロント伯爵は教えてくれなかったが、おそらくエンフィールド男爵領を寄子にしたかったんだろうね。ロナンド男爵には悪いけど、エンフィールドは何もないから誰からも見向きもされていなかった。その証拠にずっと無派閥だったわけだ。伯爵もその認識は変わらないから、具体的な目的があったわけではない。単にタクティス子爵領の隣に空白地帯があったから、とりあえず自分の派閥にしておこう、くらいの考えだったのだろう。代替わりした新伯爵殿が活発だと老体には堪えるよ」


 残念ながら途中で理解の範疇を超えてしまったのか、リティスはぽかんとしている。

 頭上に大量の疑問符が浮かんでいるのを、シキは拡張画面越しに幻視した。


「つまり私としてもエンフィールド男爵家を攻撃するのは不本意だったってことさ。だが寄親の命令は絶対だ。リティは不器用だから、このことを伝えたらまともに男爵家を攻撃できなくなるだろう? だから悪いけど騙していたのさ」


「そうかもしれないけど、そのせいで私はシキの前で大失態をしてしまったわ!」


 衆目の前で大泣きしてしまったことを思い出し、リティスの頬が羞恥で赤くなる。


「決闘に負けてなんでも言うことを聞くんだってね。何ならシキの元へ嫁ぐかい?」


「えっ、そ、そういうわけには……私には婚約者のフレデリク様がいるし」


 リティスの顔の赤みが別の理由で加速する。

 新たな外堀の誕生にシキの頬は引き攣り、オルティエの柳眉が吊り上がった。


「今後の状況次第で覆る可能性は十分あるけど今は置いておこう。その決闘に負けた結果、エンフィールド男爵領を見に行くんだってね。私からも正式に許可するから楽しんでくるといいよ」


「遊んでくるわけでは……あ、そういえばシキからお父様に伝言があるの」


「ほう、何かな?」


「隣人の庇護に感謝を、ですって。どういう意味かしら。お父様?」


 それを聞いたダスティンは思わず立ち上がっていた。

 そして腕を組み指で口髭を撫でながら考え込む。


「もしただの皮肉でなければ変更に気付いている? 王族と密になればそれも可能か」


「お父様?」


「ああ、すまない。私からも伝言があるんだが頼まれてくれるかい。内容は―――」






『結局伯爵家の指示が変わったことをリティに伝えなかったね。タクティス子爵は』


『リティスは不器用とのことですから、余計なことを知らせてそれが態度に出ることを避けたのでしょう』


 リファとエルに合図すると、二人は左右からタロの両脇を抱えて次の採取ポイントへ走っていった。

 タロが「ちょっ、はやっ」と慌てていたので、シキは心の中で「ごめんね」と謝った。

 おかげでオルティエと意見交換ができる。


『探り込みの伝言だったけど、あの反応と返事の伝言からしてオルティエの予測が当たっていそうだね』


『はい。王家が目をかけているエンフィールド男爵家に、タクティス子爵家は寄親であるフロント伯爵家の指示で攻撃をしています。その指示は既に懐柔策へ変更されていますが、依然として攻撃の姿勢をやめていません。それは確実に王家の反感を買う行為であり、タクティス子爵家よりも指示を出したフロント伯爵家への印象がより悪くなるでしょう』


『要はタクティス子爵家はエンフィールド男爵家を攻撃すると見せかけて、フロント伯爵家を攻撃しているってことだよね』


『その理由はタクティス子爵からの伝言に隠されていそうですね。早速調べますか?』


『焦らずゆっくりやろう。現地に行く前に関係者に話も聞けそうだし』


『承知しました。マスター』


『さて、今は採取を頑張ろう。しっかり覚えないとね』


『マスター、タロが一度説明した薬草は全てスキャン済みですので、我々だけでも収集可能です』


『ええ……。これはいよいよ好待遇でタロを迎えないと、俺の良心が死んでしまう』


 決意を新たに、シキはタロたちを追いかけた。

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