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76話 樹海の外の魔獣

 辛うじて間に合った。

 ローナに選んでもらった初心者向けの薬草採取依頼をシキとスースがこなしていた時のことだ。


 上空のスプリガンが散布していた小型情報端末(リーコン)が、魔獣に襲われている冒険者たちを探知する。

 追い詰められているようなので助太刀しようと駆け付けると、昨日因縁を付けてきたゴードンたちだったので驚いた。


 スースがゴードンの正面にいたリーフマンティスを白鞘の刀で一刀両断にする。

 ゴードンは左腕を深く切られ今にも失血死しそうになっているが、死んでいなければどうということはない。


 シキは視界に広がる拡張画面のメニューから治療薬を購入する。

 空中に出現した小箱を掴み梱包を素早く開けると、気を失い倒れているゴードンの腕に振りかけた。


 ナノマシン入りの緑色の粉が傷口に触れて反応が起こる。

 何かが溶けるような、もしくは焼けるような音と共に白煙が上がり、深い傷口があっという間に塞がった。


 ゴードンを治療しているシキの元へ他のリーフマンティスたちが殺到する。

 シキの右側にいたリーフマンティスが鎌を振るうが、至近距離だったにも関わらず攻撃が空振りした。


 何故ならば振るう前の時点で、既にスースの一太刀によってリーフマンティスの前脚が根元付近から切断されていたからだ。

 地面に落ちた自身の前脚に気付かず、切断面を見つめて不思議そうに首を傾げるリーフマンティス。


 そこにスースが容赦なく二の太刀を浴びせると、このリーフマンティスも縦に真っ二つになった。

 半透明な体液を撒き散らしながら、左右の体が折り重なるように地面に倒れる。

 暫くじたばたともがいていたが、やがて動かなくなった。


 昆虫型の魔獣は手足が多少もげても活動をやめないが、さすがに真っ二つにされてはひとたまりもない。

 スースは最小の手数で、効率よくリーフマンティスを倒していた。


 一方で手数を必要としているのはオルティエだ。

 大型拳銃〈アーク・ファルコン〉の銃口が火を噴き、シキへ襲い掛かろうとするリーフマンティスに無数の穴を開けていた。


 威力自体は申し分ないので、手数がかかるだけで対処は十分できている。

 オルティエは攻撃判定以外のすべてを非表示設定にしているため、軍服姿は見えなければ銃声も聞こえない。

 虚空から突然銃弾が飛んでくるような状態なので、察知して回避することは非常に困難だ。


 0.39マグナム弾で頭部を貫かれても尚、前進しようとするリーフマンティス。

 それに対してオルティエは後脚を銃撃で破壊して強引に転倒させた。


「あ、まずい。多少は証拠として素材を残しておかないと。スース、これ使って」


 シキはストレージボックスからブロードソード(幅広の剣)を取り出してスースに向かって投げる。


「西洋剣は得意ではないのですが」


 などと言いつつもスースは受け取ったブロードソードを巧みに操り、オルティエによって穴だらけにされ、地面に倒れもがいているリーフマンティスの背中を斬りつけた。


 昆虫は心臓がない代わりに背脈管という太い血管のようなものが背中にあった。

 これが破壊されると全身に酸素や体液を運べなくなり死に至る。


 スプリガンがこのアトルランと呼ばれる異世界の生物を倒すと、死体は消えてBreak off Online内の通貨であるCRに変換される。

 死体消失の回避手段としてトドメをスプリガン以外の誰かに任せる以外に、この世界の武器を使うという方法があった。


 ちなみに木も生物のはずだが、スプリガンが伐採しても消失しなかった。

 一方で木の魔獣であるトレントを倒すと消失する。


 ではただの木とトレントの差は何かといえば、内包している魔素の量が違った。

 木と比べるとトレントの魔素は濃密だ。


 動物も同様に内包する魔素の量の差で、魔獣かそうでないかを識別しているのだが、不思議なことにスプリガンが普通の動物を倒すと消失してしまう。

 ということは消失するしないの境界は単純な魔素量の差ではなさそうなのだが、これがわからない。


 シキはただ単に()()()()()()なだけだという気がしていたが。

 などと考えているうちに、最後のリーフマンティスもオルティエの凶弾とスースの凶刃によって倒れた。


「やはり樹海の魔獣と比べると手ごたえがありませんね」


『樹海に生息する、呼称:リーフマンティスと比べると体長は六割くらいでしょうか』


「うーむ、やっぱり準備無しに樹海に冒険者を投入したら、大変なことになりそうだね。初めのうちは保護者代わりに上位冒険者を同行させるとか、戦闘訓練を充実させるとか」


「う………俺は、生きて…いるのか?」


 リーフマンティスの素材をストレージボックスに回収していると、ゴードンが目を覚ました。


「ゴードンさん、大丈夫ですか? どこか体に異常はありませんか?」


「あ、ああ。大丈夫だ……え、なんで大丈夫なんだ? 腕が千切れかかっていたはずなのに。これ全部俺の血だよな?」


 ゴードンはふらつくことなく真っすぐ立ち上がると、斬られたはずの左腕をさする。

 腕自体は怪我ひとつないが、袖は千切れ血まみれで、地面にも大量出血の跡が残っていた。


「えーっと、高級な治療の霊薬を使ったので、今回の怪我だけでなく古傷も全部治ってると思いますよ」


「……は?」


 シキに言われてゴードンは真っ先に痛めていた利き腕の状態を確認する。

 落ちていた自分の剣を拾い、数度素振りしたところで乾いた笑いを漏らした。


「は、ははは。痛くないどころか五歳は若返ったかのように腕が軽い。お前、いや、貴女様は何者なんだ」


「我々はエンフィールド男爵領からやってきた旅の姉弟。それだけだ」


「こちらが姉のスース、僕が弟のシキです。偶然近くで薬草採取をしていたら戦闘音が聞こえたので駆け付けた次第です」


「俺の名前を知っているということは、ローナから聞いているのだろう。まず礼を言わせてくれ。助かった、ありがとう。いったいどれだけ高価な霊薬を使ってくれたのかわからないが、俺の残りの人生すべてを使ってでも費用は返済する。あと昨日のことも謝らせてくれ。すまなかった。なんでもするから許してほしい」


「ほう、なんでもするか」


「お、おう。冒険者に二言はねえ」


 不敵な笑みを浮かべたスースにゴードンは一瞬怯んだが、すぐに顎を引いて頷いた。


「それじゃあ……」


 スースがシキを見る。

 シキはゴードンを見てニヤリと笑った。


「まずは街に帰りますか。詳しい話は落ち着いた場所でしましょう」

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