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63話 よく訓練されている

 刺棘怪鳥を美味しく頂いた翌日、シキは〈SG-065 リューナ・ヘルカイト〉の元へ向かっている。

 眼下には樹海の木々が緑の絨毯のように広がっていて、普段なら小型情報端末(リーコン)から取得した映像を拡張画面のウィンドウから見ているところだが今日は違う。


 〈SG-070 エイヴェ・サリア〉の複座に座り、メインモニター越しに外の風景を見ていた。

 円形の空間に謎の計器や複数のモニターが並び、中央にエイヴェ、その後ろにシキという配置で座っている。

 操縦桿は手首まで包み込むタイプなので、エイヴェの腕の翼が少し窮屈そうだ。


 エイヴェはいわゆるハーピィのような姿をしていた。

 手足は鳥類のそれで鋭い爪が生えていて、手首から肘にかけては純白の翼に覆われている。

 セミロングの髪も翼同様に純白だが、毛先が徐々に赤に変わるという不思議な髪色だ。


『お兄様、春になるとあそこの草原には綺麗な花がたくさん咲くんですよ。今度ピクニックに行きましょう』


『へぇ、小高い丘になってるし気持ち良さそうだね』


 伊達に332年も樹海の防衛をしておらず、どのスプリガンも樹海の地理に明るい。

 そして樹海はどういう理屈か分からないが、他所よりも四季がはっきりしているという。

 エンフィールド男爵領は冬でも雪は滅多に降らないが、樹海の北部では豪雪地帯もあるとか。


 前世では雪国育ちだったシキなので、久しぶりに雪が見たいという気持ちが芽生えてくる。

 住んでいた頃は寒いし除雪も大変で鬱陶しいだけだったのだが、無ければ無いで恋しく感じてしまうのが不思議なものだ。


 暫く空の旅を楽しんでいると、荒涼とした山々が見えてきた。

 ここは樹海の防衛ラインの最北西、仮称:η(イータ)002、呼称:白銀狼と思われる大型魔獣の縄張りよりも樹海の奥側に進んだ位置だ。


 北には更に高い山々が見える。

 現在は初秋だが、冬になればあの山々も雪化粧をするのだろう。


『リューナの姿見えました』


 手前の山々の中腹に〈SG-065 リューナ・ヘルカイト〉の姿が見えた。

 そこは平場になっていて、いつぞやの機械仕掛けの竜に変形して待機している。


『このような所まで御足労いただきありがとうございます。ミロード』


『う、うん。それは問題ないよ。エイヴェの複座に座れたしね』


『はい。お兄様に乗ってもらえて嬉しいです』


『ミロード、私にも乗ってください』


『順番にね……全員に複座は付けたから』


 言い方をもう少しどうにかして欲しかったが、とりあえずスルーしてシキは今一番気になることを質問する。


『それで、リューナの隣にいる竜はどうしたの?』


 そこには先日上位精霊ロージャとの戦場から、リューナが首筋を咥えて連れ去っていた黒い竜の姿がある。

 漆黒の鱗に大きな翼。

 大きな顎には鋭い牙がずらりと並び、赤い瞳……のはずだが今は見えない。


 何故ならその竜は仰向けになって寝転がっていたからだ。

 いわゆるヘソ天状態で力なく四肢と首を放り出し、全力で無害をアピールしている。


『この竜は調教が完了しています。あとはミロードの御心のままに』


『ええ……』


 この竜の素材が欲しくてトドメを刺さずに拘束を頼んでいたはずなのだが、まさかここまで無抵抗の状態になっているとは。

 エイヴェが平場に着陸する。

 近くで見た竜は恐怖で小刻みに震えていた。


『調教って何をしたの?』


『どちらが上位の存在かわからせたまでです。治療薬を使い傷は治してありますので、素材としての品質は落ちていません』


『あ、うん。これはだめなやつだ』


 シキの倫理的には完全にアウトであった。


『この様子だと、もう完全に抵抗の意思はない感じ?』


『はい。ワイバーンと違ってかなり知能が高いようで、ある程度言葉を理解できるようです。調教の後半になるとこちらの指示に従うようになりました』


『聞けば聞くほどよくない……外に出たら危ないかな?』


『問題ありません。ですが万が一のため私の足元にいてください』


 シキは〈降機〉コマンドを使用する。

 視界が暗転し、一瞬の浮遊感の後にエイヴェの足元に転移していた。


 スプリガンに複座を追加したことにより、シキは自分自身に〈搭乗〉と〈降機〉が使えるようになったのだ。

 これはスプリガンのいる場所限定だが転移ができるようなもので、使い方によってはかなり移動が楽になるだろう。


 シキが竜形態のリューナの元へ移動すると、どこからともなくオルティエが現れた。


『マスター、私もお守りします』


『ありがとう』


 ゆっくり黒い竜の足元から横に回り込むとようやく顔が露わになる。

 体は一切動かさず視線だけでシキを見つめ返すのだが、前に遭遇した時は竜らしい強面だったのだが今は見る影もない。


 体を子犬のように小刻みに震わせたまま、赤い眼が必死に何かを訴えていた。

 眉なんてないのに眉尻が下がって見える。


『竜に対してはこの世界の言葉を使用しています。普通に話しかけてみてください』


『わかった』「えーっと、僕の言葉はわかるかな」


「Gyaooo」


「言うことを聞いてくれるなら、危害……痛いことはしないけど」


「Gya! Gya!」


 必死に首を小さく縦に動かして返事をする竜。

 その動きはシキの言葉を理解し、助命を嘆願しているかのようだった。

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