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62話 冒険者ギルド職員の評価

「査定お願いしまーす」


「えっ、何これ? 魔獣? の何? どこの部位? 」


 開拓地の広場に放り出された刺棘怪鳥の胴体を見上げて、視察団と共にやってきた冒険者ギルド職員の頭上には大量の疑問符が浮かんでいる。

 野次馬の騎士たちもどよめいていた。


「とても大きいですが、これも魔獣なのですよね? 丸くてふわふわしていて可愛いです」


「刺棘怪鳥という空を飛ばずに地面を走る鳥の胴体です。首と両足が斬り落としてあります。あの斜め上の凍っている部分が首の付け根です」


「……え」


 原型を把握していなかったイルミナージェがほのぼのとした感想を述べたが、シキが容赦なく真実を教えたため一気に顔色が青ざめていく。


「姫様、あちらでご休憩なさってはいかがでしょうか」


「そ、そうね。ドロシー……は置いていきましょう」


 テレーズに肩を支えられながら、早々にイルミナージェが退場していく。

 気にかけていたドロシーは刺棘怪鳥そっちのけで、〈表示設定:オン〉にして顕現しているオルティエに熱視線を送っていた。

 血走った目で「ふひひ」と口から零しながら、イースターガチャ仕様のゆるふわドレス姿をスケッチしている。


『この様子だと今夜は徹夜しそうだね』


『治療薬を混入させた紅茶を提供済みですので、体力的には問題ありません』


『体力は誤魔化せても寿命が縮まってそうじゃない?』


 まさか目の前で自身の心配をされているとも知らず、ドロシーは黒チョークを動かし続けている。

 先ほど悪戯心でオルティエを非表示にしたら、ドロシーから眼光だけで人を射殺せるのではないか、というほど睨まれてしまった。


 本気で取り組んでいる相手を揶揄ってはいけない。

 シキは学びを得た。


『まぁ解体と査定の間は付き合ってあげようか』


 オルティエもスケッチされるのは満更でもないようで、たまにリクエストに応えて(シキ経由)後ろを向いたりポーズを取ったりしている。

 コアAIたちも他者と交流したほうが良いと思うのだが、まず樹海の防衛で忙しい。


 それに精霊として姿を見せられるのはオルティエだけだった。

 何故かといえばコアAIたちは人族や亜人に準ずる姿をしているので、精霊と言い張るには無理があるからだ。


 オルティエは空気中の分子で造形し投影された立体映像で宙に浮いており、見た目はアトルラン世界における精霊と類似点が多い。

 なので辛うじて精霊として認められている……はず。


 コアAIたちを男爵領でお披露目するには住人になってもらうしかないが、同時に人としての生活も必要になってしまう。

 日常生活を偽装するのは手間がかかるし、それだけに労力を割くのは効率が悪い。


『いや待てよ、樹海に住んでいる設定ならいけるかな? 樹海の深めの場所に住んでいて、男爵領にはたまにふらっとやってくる感じで』


『それは良い案ですね。部外者が近寄れない場所に、実際に秘密基地を作ってはいかがでしょうか』


『秘密……基地』


 その単語はシキの琴線に触れた。

 スプリガンたちだけで使うなら、CRで購入できる物資や機材で近代的な拠点を作ったら楽しいかも……。


「シキ様、樹海の魔獣はみなこのように巨大なのですか?」


 張り切って拡張画面のウィンドウから物資を選んでいると、冒険者ギルド職員の一人から声をかけられた。


「樹海は魔素が濃いので魔獣が良く育ちます。体が大きくなるだけでなく、大きさはそのままに戦闘能力が向上した個体もいました」


「これは樹海専用の討伐依頼基準を設定しなければなりませんね。あと素材の査定価格もですか」


「価格は上方修正ってことでいいんですよね?」


「もちろんですとも。素材は巨大化しているだけでなく、内包している魔素量も多いでしょうから、武具や魔術具の材料としての価値は計り知れません。もっとサンプルが欲しいですね」


 他所とは勝手が違うということで色々と手間はかかるようだが、十分利益は出せるようだ。

 エンフィールド男爵領にも無事冒険者ギルド支店ができそうでシキは安堵する。


「サンプルはクリフィン様たちに頑張ってもらいましょう。さて、素材はいいみたいだけど肉はどうかな? 生き物は大きくなると大味になるなんて言うけど」


 羽と棘を毟られ、刺棘怪鳥はクリスマスのターキーのようになっていた。

 さすがにこの巨体を丸焼きにはできないので、細かく切り分けて視察団や領民たちに振る舞う。


 シキも胸肉と思われる部分を串に刺して焼いてみる。

 見た目は普通の鶏肉と同様に白身で、屋外に用意された焼き台に乗せると、肉汁が焦げる音と共に香ばしい匂いが漂ってきた。


「これは絶対美味しいわね」


 横でエリンが整った鼻をすんすんさせている。

 シキはしっかり焼けたのを確認してから肉を火から降ろし、塩を振ってから頬張った。


 刺棘怪鳥の胸肉は柔らかくて癖がなく、塩がいいアクセントになっている。

 それは前世の焼き鳥を彷彿とさせる懐かしい味だった。


「ううむ、美味い」


「ほんとね! いくらでも食べられそう」


「調味料が塩のみなのが悔やまれる。焼き鳥のたれって醤油とみりんと砂糖だっけ? 作れる気がしない……」


 少しばかりホームシックならぬ前世シックになるシキであった。

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