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46話 視察団との顔合わせ

「此度はこのような辺境にまでお越し頂きありがとうございます。何もありませんが、出来得る限りのおもてなしをさせて頂きます」


 会議用の広めの天幕に、視察団の主要メンバーが集結していた。

 一番身分の高いイルミナージェ第一王女を中央にして、左に第一王子派のスティーブ・アルノーン伯爵、右に第二王子派のジーナ・サンルスカ侯爵令嬢が並んで座っている。


「頭を上げてください。エンフィールド男爵。こちらこそこのような綺麗に整地された場所を提供してもらい感謝しています。視察団全員が入りきる程の広さですから、大変だったのではなくて?」


「ええと、それはですな、我が娘エリンの努力の賜物でして」


 跪いた姿勢のまま、ロナンドが隣に視線を送る。

 話を振られて、同じく跪いていたエリンが僅かに肩を震わせた。

 自身のことを話題にして欲しくなかったのだろう。 


「ほう、さすがは第二位階冒険者〈剣姫〉エリン殿だ。是非とも手合わせを願いたいな」


「……今回は魔獣との戦いばかりになりますので機会があるかわかりませんが、その時は是非」


 案の定話題に乗ってきたスティーブ・アルノーン伯爵に、エリンが表情を硬くして答えた。

 アルノーン伯爵は金髪を短く刈り揃えた偉丈夫で、貴族というよりは騎士のような雰囲気を醸しだしている。


 貴族としての社交より戦うことが好きで、実際に自領では騎士たちと共に巡回したり、魔獣討伐に参加したりしているらしい。

 結婚願望はあるが、伴侶に求めるのは共に戦場で肩を並べて戦える強さ。

 貴族令嬢にそんなものがあるわけもなく、三十歳になっても独身。


 視察団にわざわざ伯爵家領主が自らやってきたのも、強い魔獣と戦えることと、嫁探しであった。

 つまりエリンが狙われている。


 これらの情報は王城で諜報活動を続けるリファから入手済みなので、エリンが身構えるのも当然だ。

 ちなみに王城の侍女たちの間では「地位も見た目も良いのに性格が残念」という噂が流れている残念伯爵であった。


「まさか伐採した木の撤去や整地もエリン殿が?」


「いえ、それは……」


 エリンがロナンドの反対側に首を巡らせると、シキに視線が集中する。

 想定外のタイミングで精霊(スプリガン)の力が露見する羽目になってしまったが、用意していた回答で乗り切るしかない。


「それは私の精霊が行いました」


「ほう、精霊魔術はそんなこともできるのか。あの〈雷霆〉と互角の戦闘力というだけでも脅威だというのに」


「イルミナージェ第一王女殿下、発言をお許しください」


 脅威、という単語を聞いてイルミナージェが反論しようとしたところで、ジーナ・サンルスカ侯爵令嬢の背後に控えていたリーゼロッテが手を上げた。

 リーゼロッテも公爵家の娘ではあるが、宮廷魔術師として視察団に参加しているため貴族としては扱われていない。


「許しますが、まずはロナンドたちに椅子に座ってもらいましょう」





 一旦仕切り直しということでイルミナージェがロナンドたちを椅子に座らせ、侍女に紅茶を用意させた。

 それは王都でのお茶会で飲んだものと同じ高級な茶葉で、シキが舌鼓を打っているのを見てイルミナージェが微笑む。


「シキはその紅茶がお気に入りですね。この先エンフィールド男爵領が発展すれば交易で紅茶に限らず、美味しいものが手に入りますよ」


「!? それは楽しみです」


 前世の記憶がある故に舌が肥えているシキにとって、美味しいものを食べることは趣味の一つになっていた。

 最近は前世の弁当のような糧食も食べられるようになり日本人の舌が完全に蘇っていて、その欲求も増している。


 ここでそれまで黙って見ていたジーナ・サンルスカ侯爵令嬢が初めて発言した。


「あら、そのくらいでよければサンルスカ侯爵家もたくさん用意できるわよ」


「本当ですか? それはとても楽しみです」


 ジーナは王都から長距離の旅をしてきたとは思えない、まるで夜会に出るかのような露出度の高い漆黒のドレスで着飾っている。

 ゆるくフェーブのかかった褐色の髪(ブルネット)を揺らしながら立ち上がり、シキの前までやってくる。


「通常の交易はもちろん、もっと良いものもあるわよ。お姉さんと詳しく聞きたくない?」


 そしてむせかえるような甘い香りを漂わせ、見た目に負けずとも劣らない蠱惑的な声音で囁くとシキの頬を白い指で撫でた。

 その瞬間、周囲にいる数名の眉間がぴくりと動き、その場の気温が数度下がったような錯覚に陥る。

 ロナンドが寒さを紛らわすように紅茶を啜った。


 シキ当人は強烈な甘い香りをかいで、


(前世にもこんな人いたなあ。香水って付けてる本人は鼻が慣れるから、どんどんきつくなるんだよなあ)


 という関係ないことを考えていた。


 日頃から様々な美女と()()()()シキなので、この程度の色仕掛けは通用しない。

 ただし、


『〈精神攻撃〉を探知しました。サイコフィールドを展開します』


 というオルティエの言葉には思わずぎょっとした。

 僅かに肩を揺らしただけのシキを見て、ジーナが目を細める。


「ジーナ、エンフィールド男爵領との取引は王国全体の利益に繋がることです。抜け駆けは許されませんよ」


「いやですわ第一王女殿下、ちょっとした戯れですから本気になさらないで。また今度お話ししましょう、坊や」


 そう言って今度は子供に接するように、シキの頭をわしゃわしゃと撫でてから席に戻った。

 それはそれでやはり周囲の数名の眉が動く。

 再び寒気がしたロナンドは侍女に紅茶のおかわりを要求した。


「さて、今日は顔合わせですので具体的な打合せは明日にしたいと思いますが、最後にリーゼロッテ」


「はい、第一王女殿下」


 リーゼロッテはシキの前までやってくると、びしっと指差して言い放つ。


「私は宮廷魔術師第七位リーゼロッテ・ミゼット。貴方と同じ精霊使いよ。契約している精霊は〈風精霊シルファ〉。貴方の契約している精霊は何かしら?」


 あまりに直球な質問だったので鼻白むシキであったが、気を取り直して用意していた返事をする。


「すみませんちょっとわからないです」

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