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29話 王女シールド

「騙したような形になってしまいすまない、エンフィールド卿。戦う予定だった序列二十位の宮廷魔術師が急病で参加できなくなったため、〈雷霆〉に代理を頼んだのだよ。もちろん手加減してもらったとも」


 先日とは打って変わって、朗らかな笑顔を浮かべた宰相マティアスがシキの肩をポンと叩く。

 いや嘘つくなよ完全に殺しに来てただろ、と言いたくなるのをシキは我慢した。


「それで〈雷霆〉が戦うのなら観戦したいと国王陛下が申してな。急遽御前試合という形になったのだ」


「いいえ、こちらこそかの有名な〈雷霆〉様との手合わせの機会を賜りまして光栄です。情けをかけて頂き辛うじて引き分けとなったわけですが、当家の扱いはどうなるでしょうか……?」


 引き分けと聞いて先日の不本意な判定を思い出したのか、宰相の横にいるランディが僅かに顔を顰めている。

 こっちも我慢しているのだから、そっちも打合せ通り我慢してくれよとシキは思った。


「もちろん実力を認めるとも。最初は疑ってしまい悪かったな。だがそれも仕方がないのだよ。辺境の貴族は不正ばかりして国への貢献を怠る者ばかりで、まともに相手をする価値もないのだ。タクティス子爵からの報告もあてにならんものだ。あとは実際にエンフィールド男爵領の視察をして、魔獣の侵入を防いでいる事実を確認しなければならないが、君は信頼に値する。よって先んじてエンフィールド男爵家の存続を認めようではないか」


「本当ですか! ありがとうございます」


「視察自体がなくなるわけではないから勘違いはしないように。日程はこれから調整することになるが、視察団のリーダーには〈雷霆〉が就く予定だ」


「任せてください宰相殿。生息する魔獣の種類と素材の販売ルートを確認してきますよ」


「ああ頼むぞ。エンフィールド卿はいつまで王都に滞在するのかね?」


「すぐにでも帰ります。あまり領地を離れていると魔獣の侵入を許してしまいますので」


「それもそうか。ではこの盟約の証を返そう。今後も王国のために励むのだぞ」


 宰相が預けていた短剣を差し出してきたのでシキは恭しく受け取る。

 こうしてエンフィールド男爵家存続問題は一応の解決となったが、宰相の執務室を出て暫くしたところでランディから釘を刺される。


「言っておくが大変なのはこれからだ。俺相手にごか……ぐぎぎ、互角の立ち回りをしたんだから、他の貴族からの嫉妬による妨害や囲い込みが始まるぞ」


「どんだけ負けず嫌いなんですか。わかってますよ。今朝、早速知らない令嬢が宿まで押しかけてきましたから。もう宿がバレてるとか恐ろしいですね。早速王女様の名前を出してお引き取り願いましたけど」


 まあもっと恐ろしいのは〈SG-061 リファ・ロデンティア〉の情報収集能力なのだが。

 追い払った令嬢の後を鼠型ドローンが尾行し、どこの家の娘かは確認済みであった。


『にぃに! この娘はアリアン伯爵家の三女ドロシーって名前よ。親に言われて嫌々にぃにのところに行ったみたい。にぃににべもなく断られて文句を言っているわ。色々と許せないから処すね?』


『うん処さなくていいからドローンを戻してね。三女とはいえいきなり伯爵家の娘を差し出してくるのか……やっぱりさっさと自領に帰った方がいいね』


 なんてやり取りがすぐに行われていた。


「お互いに全く面識がないのに、本当にいきなり婚約を申し込んでくるんですね」


「本来は根回しありきだが、お前は王都の貴族の後ろ盾がないからな。陞爵前の男爵家の次期当主という立場は貴族の中でも底辺だし、ごり押しできると思ったんだろう」


 そこで対策として用意していたのが、「シキの婚約相手はイルミナージェ王女に一任している」というものであった。


 辺境領地で認知さえほぼされていなかったエンフィールド家は、当然王国の派閥には所属していない。

 しかし王女を暗殺者と魔獣から救い、王女の主導で宰相と面会している時点で実質王女の派閥所属であるといえなくもない。

 派閥に所属する貴族の面倒を見るのは当然派閥の長の役目だ。


「つまりお前の婚約者に名乗り出てもいいが、受付は王女ですあちらへどうぞってか。根回し先が王女じゃあ、侯爵家より下の家の娘は門前払いと同じだな。ひでえなあ」


「俺が断り切れなくて変に話がこじれるよりはましですよ」


 シキとしては断る明確な口実ができて助かったと思っている。

 その一方でイルミナージェも、スムーズにシキを自派閥に取り込むことができて安堵しているのであった。


「折角モテてるんだからハーレムでもいいだろ」


「いやですよ」


 ランディの背後で微笑を浮かべるオルティエの圧に負けて、食い気味に答えるシキであった。

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