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26話 宮廷魔術師との攻防

 ランディは魔眼持ちである。

 魔眼は神から与えられた【智慧神の加護】の副次効果(サイドエフェクト)で、空気中に漂う魔素を視認できた。


 魔素は万物に宿る。

 シキの体からも魔素が風呂上りの湯気のように、うっすらと立ち昇っているのが見えた。


 シキが魔術を使えば魔素のゆらぎで判別できるが、それもない。

 つまり魔術を使った痕跡がないのに、ランディの放った魔術 《(ライトニング)(ストライク)》は不可視の壁に阻まれて消えたのだ。


(姿が見えないから使役する精霊が自発的に防御したとは考えにくい。なら仮に魔素を完璧に制御して揺らぎもなく、且つ無詠唱で俺の魔術を察知して防御したというのか? 奴が俺より遥かに優れた魔術師という前提なら不可能ではない。だが《雷撃》を防いだ魔素を一切含まない透明な壁。あれは異常だ)


 ランディは飛び退いてシキから距離を取る。

 未知の力を使う驚異の存在として認識を改めた。


「お前は一体何者だ? それは精霊魔術じゃないだろう」


「他の人はどうか知りませんが、エンフィールド家に代々伝わる精霊魔術で間違いないですよ。次はこちらの番です」


 シキが手を翳すと、斜め後ろの空間から何かが射出された。


「《(シェル)》!」


 秒速20メートルという低速で飛来したそれを、ランディは咄嗟に張った障壁で防御した。


(無詠唱の《石弾(ストーンバレット)》か? 相変わらず魔素の動きは見えないが、威力は大したことない……なんだこれは?)


 弾かれて地面に落ちたそれは見たことのない円筒状の物体で、僅かな間を置いて発火すると、もくもくと黒煙を放ち始めた。


(煙幕!? ただの《石弾》ではないのか。錬金魔術との複合魔術だとでもいうのか)


 その正体は、シキの背後に控えたオルティエが撃った信号弾である。

 発砲に使っているのは、かつての戦時中の日本で実際に使われた信号拳銃と呼ばれるものだ。


 もちろん殺傷能力は低く、Break(ブレイク) off(オフ) Online(オンライン)においても主力兵器でもない、いわゆるジョークグッズであった。

 それでも35×120mm信号弾本体が人体に当たれば、投石程度の威力は発揮するので侮れないのだが。


 装弾数1発の信号拳銃にオルティエは素早く次弾を装填、ランディに向かって発砲する。

 シキにしか見えていないが、その()()も相まってなかなかにシュールな光景になっていた。


 黒と黄の煙、更には赤と白に発光する信号弾が次々に放たれ、闘技場の舞台の上が彩られる。

 シキとランディ、お互いの姿が見えなくなる中で、後者の詠唱が聞こえてきた。


「万象の根源たる魔素(マナ)よ 普遍に(わた)る大気に (あまね)坩堝(るつぼ)を巻き起こせ」


 無風だった舞台上に風が吹き始める。

 漂う煙がランディに吸い寄せられるように集められ、渦を巻き、竜巻となってシキに襲い掛かった。


 今度は構成をしっかりと編み、完全詠唱した威力重視の魔術だ。

 信号弾の煙を吸ってカラフルになった竜巻が、シキの周囲に展開されているパルスシールドと衝突。

 魔術 《風嵐(ワールウィンド)》の風の刃が表面を削りガリガリと音を立てるが、シキにはそよ風ひとつ届かなかった。


 だがそれもランディの想定内であった。

 竜巻が信号弾の煙を上空へと攫い、視界が戻る頃には次の魔術の詠唱が完了している。


「万象の根源たる魔素よ 長久たる地維(ちい)に隆起を賦し 堅牢たる鉾と成り穿ち射貫け」


 その魔術はシキの足元で発現した。

 闘技場の舞台の石畳が泥のように形を崩したかと思った瞬間、鋭い槍のように伸びてシキへと迫る。

 魔術 《地槍(アーススパイク)》の起点はパルスシールドの内側であり、シキを守るものは何もない。


「おわっ」


 間の抜けた声を地上に残して、シキの体が急上昇する。

 そのおかげで《地槍》は紙一重で回避できた。


『マスター、お願いします』


『わかった』


 〈設定:オブジェクト〉項目の〈キャラクター表示〉をオンにすれば、シキを空中へと誘った主の姿が露わになる。

 シキを抱きかかえているのは、純白のドレスに身を包んだ美女であった。

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