252話 身体は闘争を求める
「遘した◆縺の。故縺ョ謨を��繧定ソ返せ」
『うるせえ』
暗黒龍の吐息を紙一重で回避したフェリデアが、グラップルクローを胴体に突き立てる。
すると弾丸代わりにもなるような頑丈な鱗が、易々と引き剝がされた。
「かなり際どかったけどあの吐息、スプリガンが直撃しても大丈夫なの?」
「シールドなしであれば一発は耐えられるでしょうか」
「ええ、危ないじゃん」
改めて危険な状況にあるのだと実感するシキであったが、スプリガンたちに緊張した様子は見られない。
「ここは戦場で危険なのは当然です。マスター、我々スプリガンはメナスと戦うために造られた軍人です。ようやく本領を発揮できる局面になったのですから、どうか心配ではなく応援して頂けないでしょうか」
「そうか……これが皆の本気か」
思えばエンフィールド大樹海の防衛だって、スプリガンにしたら退屈だったのだろう。
稀に山崩しのような強力な魔獣が出るが、それでもメナスと比べれば随分と格下だ。
確かにここは皆を信じて、どんと構えているのがマスターの役目だとシキは理解した。
『みんな、頑張って!』
応援の効果は抜群だ。
全員から怒号のような応答を受けて、シキの鼓膜にガード不可のダメージが入った。
暗黒龍の鱗は再生するそばから破壊されるため、弾幕としての役割はもう果たしていない。
スプリガンたちに身体を削られ、黒いオイルのような血が宇宙空間に大量に漂っていた。
「宇宙空間の液体ってすぐ蒸発しちゃうよね? あの血は液体に見えるけど液体じゃないのかな」
少し前に身をもって経験しかけたからね、とは言えないシキである。
「通常の液体であればそうなりますが、メナスの場合は少々特殊です。機械に棲む骸と書いて機棲骸と読みますが、取り込んだ機械を動かしているのが、あの黒い血なのです。ですから宇宙空間でも血の役割を果たせるよう、液体を保つようにできています」
「へ~、それなら」
血が出るなら殺せる、はメナス相手でも適用されるようだ。
そうシキが言いかけたところで、暗黒龍からノイズのような咆哮が放たれた。
「蝸壼�諞弱″萓オ略者共よ。」惜し�や縲∝ソ�★蜿悶j謌サ縺�」
断末魔かと思われたが、何やら様子がおかしい。
暗黒龍の片眼から何かが零れ落ちる。
涙のように見えたが、オルティエが拡大して拡張画面に映すと、それは瞳孔の中に四つあった小さな眼のうちの一つだった。
その眼は紅い輝きを放つと、心臓のように脈打ち鼓動を始める。
鼓動に反応して周囲に漂っていた黒い血が蠢き、眼の元へ集まっていく。
血は鱗へ変化したように、今度は翼の生えた怪物へと形を変えた。
漆黒の体と黒曜石のように輝く鋭い爪。
背中から飛び出している羽は蝙蝠のそれ。
垂れ下がっている尻尾は椎骨が連結したような外見で、まるで背骨が外に飛び出しているかのよう。
龍の頭部には、紅玉のように輝く眼が二つ。
龍脈にいた祖龍の姿だ。
ただし大きさは換装式汎用人型機動兵器に匹敵する。
『おっ、ついに本体が出たな』
『フェリデア、先走るな』
スースの制止も聞かず、フェリデアがブースターを吹かして疾走する。
自ら斬り刻んでいた暗黒龍の体の上をだ。
加速したグラップルクローの一撃を、フェリデアが本体と呼んだ祖龍は自らの爪で受け止めた。
爪と爪が交錯する。
祖龍は前傾姿勢だが二本足で直立していた。
その姿は龍というよりも悪魔に近いかもしれない。
だから爪を防がれたと同時に放ったフェリデアの蹴りを、祖龍は同じ動きで蹴り上げて防いだ。
『はっ、やるじゃねぇか』
声を弾ませたフェリデアと祖龍の格闘戦が始まった。
お互いに放つ爪と蹴りを受け流す、組み手のような応酬だ。
純粋な技量はフェリデアが勝るようだが、祖龍は手数でカバーしていた。
フェリデアがバック宙をしながら蹴りを放つと、祖龍の両腕のガードが弾かれる。
がら空きになった胴を狙って、一回転したフェリデアが懐に飛び込んだ。
しかし側面から尻尾が槍のように繰り出されたので、サブブースターの瞬間加速を使って直角に回避した。
『フェリデア、上よ』
『ちぃっ』
祖龍の手数になるものは他にもある。
フェリデアの頭上でゆらめいていた暗黒龍の胴体から複数の鱗が発射された。
オルティエの警告を受けて、再び瞬間加速で回避を試みたが、一枚の鱗が右膝に着弾。
膝から先が千切れて宇宙空間に舞った。
バランスを崩し隙だらけになったフェリデアの胴体に、祖龍がお返しとばかりに爪を突き出す。
『フェリデア!』
『そうやって目の前の敵に夢中になるのは悪い癖』
シキが叫んだのと同時にスプリガンが一機、フェリデアと祖龍の間に割り込む。
〈SG-069 プリマ・グリエ〉だ。
プリマは腕部に装備している反重力フィールドで、祖龍の爪を受け止める。
すると爪は突き出したモーションを逆再生するかのようにして弾かれた。
その隙にオルティエは〈ユニット転送〉を発動。
〈SG-063 フェリデア・ティーガ〉はシキたち後衛がいる地点へ転送された。
オルティエは背後からシキを抱きかかえたままだが、スプリガンたちを常に監視・制御している。
その証拠にオルティエの網膜をよく見ると、各スプリガンのステータスや指示コマンドが映っていた。
「ほっ、よかった。反重力フィールドって無重力下だとどう作用するの?」
「重力とはすなわち位置エネルギーのことで、反重力フィールドはエネルギーを反転させます。無重力だと重力の影響を受けませんので、エネルギーのほぼ100%を効率よく反射できるでしょう」
「おおー」
『くそっ、すまねぇ大将。次は油断しないから足を修理してくれ』
『次はないわ、フェリデア』
『なんだと!』
『だってもう準備は完了したもの―――総員退避よ』




