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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
5章 奈落にて星辰は揺蕩う

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252話 身体は闘争を求める

「遘した◆縺の。故縺ョ謨を��繧定ソ返せ」


『うるせえ』


 暗黒龍の吐息を紙一重で回避したフェリデアが、グラップルクローを胴体に突き立てる。

 すると弾丸代わりにもなるような頑丈な鱗が、易々と引き剝がされた。


「かなり際どかったけどあの吐息、スプリガンが直撃しても大丈夫なの?」


「シールドなしであれば一発は耐えられるでしょうか」


「ええ、危ないじゃん」


 改めて危険な状況にあるのだと実感するシキであったが、スプリガンたちに緊張した様子は見られない。


「ここは戦場で危険なのは当然です。マスター、我々スプリガンはメナスと戦うために造られた軍人です。ようやく本領を発揮できる局面になったのですから、どうか心配ではなく応援して頂けないでしょうか」


「そうか……これが皆の本気か」


 思えばエンフィールド大樹海の防衛だって、スプリガンにしたら退屈だったのだろう。

 稀に山崩しのような強力な魔獣が出るが、それでもメナスと比べれば随分と格下だ。

 確かにここは皆を信じて、どんと構えているのがマスターの役目だとシキは理解した。


『みんな、頑張って!』


 応援の効果は抜群だ。

 全員から怒号のような応答を受けて、シキの鼓膜にガード不可のダメージが入った。


 暗黒龍の鱗は再生するそばから破壊されるため、弾幕としての役割はもう果たしていない。

 スプリガンたちに身体を削られ、黒いオイルのような血が宇宙空間に大量に漂っていた。


「宇宙空間の液体ってすぐ蒸発しちゃうよね? あの血は液体に見えるけど液体じゃないのかな」


 少し前に身をもって経験しかけたからね、とは言えないシキである。


「通常の液体であればそうなりますが、メナスの場合は少々特殊です。機械に棲む骸と書いて機棲骸(メナス)と読みますが、取り込んだ機械を動かしているのが、あの黒い血(ダークマター)なのです。ですから宇宙空間でも血の役割を果たせるよう、液体を保つようにできています」


「へ~、それなら」


 血が出るなら殺せる、はメナス相手でも適用されるようだ。

 そうシキが言いかけたところで、暗黒龍からノイズのような咆哮が放たれた。


「蝸壼�諞弱″萓オ略者共よ。」惜し�や縲∝ソ�★蜿悶j謌サ縺�」


 断末魔かと思われたが、何やら様子がおかしい。

 暗黒龍の片眼から何かが零れ落ちる。


 涙のように見えたが、オルティエが拡大して拡張画面に映すと、それは瞳孔の中に四つあった小さな眼のうちの一つだった。

 その眼は紅い輝きを放つと、心臓のように脈打ち鼓動を始める。


 鼓動に反応して周囲に漂っていた黒い血が蠢き、眼の元へ集まっていく。

 血は鱗へ変化したように、今度は翼の生えた怪物へと形を変えた。


 漆黒の体と黒曜石のように輝く鋭い爪。

 背中から飛び出している羽は蝙蝠のそれ。


 垂れ下がっている尻尾は椎骨が連結したような外見で、まるで背骨が外に飛び出しているかのよう。

 龍の頭部には、紅玉のように輝く眼が二つ。


 龍脈にいた祖龍の姿だ。

 ただし大きさは換装式汎用人型機動兵(スプリガン)器に匹敵する。


『おっ、ついに本体が出たな』


『フェリデア、先走るな』


 スースの制止も聞かず、フェリデアがブースターを吹かして疾走する。

 自ら斬り刻んでいた暗黒龍の体の上をだ。


 加速したグラップルクローの一撃を、フェリデアが本体と呼んだ祖龍は自らの爪で受け止めた。

 爪と爪が交錯する。


 祖龍は前傾姿勢だが二本足で直立していた。

 その姿は龍というよりも悪魔(デーモン)に近いかもしれない。

 だから爪を防がれたと同時に放ったフェリデアの蹴りを、祖龍は同じ動きで蹴り上げて防いだ。


『はっ、やるじゃねぇか』


 声を弾ませたフェリデアと祖龍の格闘戦が始まった。

 お互いに放つ爪と蹴りを受け流す、組み手のような応酬だ。


 純粋な技量はフェリデアが勝るようだが、祖龍は手数でカバーしていた。

 フェリデアがバック宙をしながら蹴(サマーソルトキック)りを放つと、祖龍の両腕のガードが弾かれる。


 がら空きになった胴を狙って、一回転したフェリデアが懐に飛び込んだ。

 しかし側面から尻尾が槍のように繰り出されたので、サブブースターの瞬間加速(クイックブースト)を使って直角に回避した。


『フェリデア、上よ』


『ちぃっ』


 祖龍の手数になるものは他にもある。

 フェリデアの頭上でゆらめいていた()()()の胴体から複数の鱗が発射された。


 オルティエの警告を受けて、再び瞬間加速で回避を試みたが、一枚の鱗が右膝に着弾。

 膝から先が千切れて宇宙空間に舞った。

 バランスを崩し隙だらけになったフェリデアの胴体に、祖龍がお返しとばかりに爪を突き出す。


『フェリデア!』


『そうやって目の前の敵に夢中になるのは悪い癖』


 シキが叫んだのと同時にスプリガンが一機、フェリデアと祖龍の間に割り込む。

 〈SG-069 プリマ・グリエ〉だ。


 プリマは腕部に装備している反重力フィールドで、祖龍の爪を受け止める。

 すると爪は突き出したモーションを逆再生するかのようにして弾かれた。


 その隙にオルティエは〈ユニット転送〉を発動。

 〈SG-063 フェリデア・ティーガ〉はシキたち後衛がいる地点へ転送された。


 オルティエは背後からシキを抱きかかえたままだが、スプリガンたちを常に監視・制御している。

 その証拠にオルティエの網膜をよく見ると、各スプリガンのステータスや指示コマンドが映っていた。


「ほっ、よかった。反重力フィールドって無重力下だとどう作用するの?」


「重力とはすなわち位置エネルギーのことで、反重力フィールドはエネルギーを反転させます。無重力だと重力の影響を受けませんので、エネルギーのほぼ100%を効率よく反射できるでしょう」


「おおー」


『くそっ、すまねぇ大将。次は油断しないから足を修理してくれ』


『次はないわ、フェリデア』


『なんだと!』


『だってもう準備は完了したもの―――総員退避よ』

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