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22話 幼馴染と護衛

「シキ?」


 不意に名前を呼ばれて拡張画面から視線を左にずらす。

 すると一人の少女が座り込むシキの顔を覗き込んでいた。


 燃えるような赤髪を肩口で切り揃えていて、髪色と同じ赤い目は驚きで見開かれている。

 白い上等な生地の法衣を纏い、自身の身長よりも長い杖を抱えるように持っていた。


 とはいえ少女はシキより小柄なので、杖が特段長いわけではなく単に大人用サイズなだけのようだ。

 服装はすっかり見違えたが、体は三年前と比べても全然変わっていなかったので、すぐに誰だかわかった。


「あ、ウル姉、久しぶり」


「……うん!」


 目尻に涙をためたままシキに抱き着こうとしたが、背後にいた人物に抱えている杖を掴まれ体も止まった。


「相手が少年とはいえ、みだりに抱き着いてはいけません。ウルティア様」


「……アルネイズ」


 振り返り恨めし気にウル姉ことウルティアが見上げる。

 そこにいるのは金属鎧を着こんだ偉丈夫、ではなく美女だった。


 編み込んだ金髪をサイドアップにしていて、綺麗な碧眼はシキを射貫くかのように睨みつけている。

 身長が高く体格も良いため、首から下だけなら最初にシキが見間違えたように、偉丈夫と言って差し支えなかった。


「彼が噂のシキ少年ですか。ウルティア様が地母神より授かった〈神託〉によると、貴方は将来救国の英雄になるのだとか」


「えっ、その話をまだ言いふらしてたの!?」


 今度はシキが驚く番だ。

 シキとウルティアは三年前まで同じ孤児院で暮らしていた。


 物心がつく前から孤児院にいたシキにとって、四つ年上のウルティアは幼馴染且つ姉のような存在だ。

 物静かだが面倒見の良い性格で、シキを含めた年下の子供たちの世話もしっかりしてくれた。

 ただひとつだけ懸念点があるとすれば……。


「だって本当のことだもん。シキは大人になったらこの国を救う英雄になるんだよ」


 ウルティアは強力な【地母神の加護】の持ち主で、若くして神聖魔術の扱いに長けているだけでなく、地母神からの神託を授かることもできた。

 そんな稀有な存在を地母神を信仰する地神教が見過ごすわけもない。


 ウルティアはシキがエンフィールド家の養子として貰われていった三年前と同時期、十三歳の頃に地神教の神殿に引き取られた。

 神託の内容は助言から予言と様々らしいのだが、ウルティアが初めて授かった神託がシキの件だったのだ。


 最初はウル姉が変なこと言ってる、くらいにしか孤児院の皆は思わなかった。

 ところがある日、地神教の司祭が慈善活動で孤児院を訪れた際、ウルティアの才能が発覚して事態は急変したのであった。


「なんというか、お互い出世したね。でも……」


 手紙のやり取りをしていたのでお互いの状況は把握していたが、実際に会うのは孤児院を出てからは初めてだ。

 神殿に引き取られ聖女となったウルティアの服装は、孤児院時代からは見違えている。

 しかしウルティアの姿は三年前、つまり十三歳の頃から変わっていない。


「私がちっとも成長してないって言いたいんでしょう? 加護が強力すぎて成長が止まってるんだって」


「えっ、それって大丈夫なの?」


「もちろん問題ありません。厳密には成長が止まっているのではなく、神力によりウルティア様の寿命が伸びて、成長速度が遅くなっているだけですから」


 アルネイズの補足説明を聞く限り、ウルティアの体に害があるわけではないようで、シキは胸をなでおろした。


「そうなんだ……なんか大変だね」


「そうなの。大変なの。だから神託通りシキが救国の英雄になったら私も助けてね」


「英雄ねえ」


 昔は聞き流していたウルティアの神託だったが、ロナンドから精霊の加護を引き継いだ今となっては現実味を帯びてきてしまった。


『御屋形様が英雄ですか。なかなか分かっていますね、この娘は』


「ウルティア様を守るのは我々護衛騎士で十分です。地母神の神託を疑うわけではありませんが、この少年が英雄になるのでしょうか? 覇気も何も感じません。神託による未来予知は可能性のひとつですので、もしかしたら違う未来が訪れるかもしれませんね」


『こっちの女は分かっていませんね。斬っていいですか斬ります』


 妙にシキを敵視するアルネイズの物言いに、背後で控えていたスースがキレた。

 今にも抜刀しそうなので、慌てて右手を広げて前に出ないよう阻止する。

 スースの存在はシキ以外に認識できないので、変な動きを誤魔化すように左手も広げて、困っているかのように肩をすくめた。


「予知が外れるならそれに越したことはないですよ。救国の英雄ということは、この国が救われるような状況になってしまうというわけで」


「ううん、この神託は当たってると思う」


 ウルティアの赤い瞳がじっとシキの方を見つめる。

 その視線が微妙に自分からずれていることと、背後のオルティエがこれまでに見たことのない表情をしていることに、シキは気が付かなかった。


 何故ならキレたスースを抑えるのに精一杯だったからだ。

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