133話 機棲骸
機棲骸と書いてメナスと読む。
それは様々な機械や構造物を寄せ集めてくっつけたような外見の惑星外生命体で、文字通り機械に棲む骸なのだという。
メナスはある日突然現れ、あらゆる機械と構造物を吸収、取り込みながら人類に襲い掛かってきた。
遭遇黎明期は人類の兵器では脅威に対抗できず蹂躙され、世界の人口が三割以下にまで追い詰められる。
このまま人類の黄昏を迎えてしまうと思われた時、ようやく鹵獲したメナスの技術を使った人類初の人型兵器、鎖纏鎧が完成。
一転攻勢とまではいかなかったが、じわじわとメナスの侵略を押し返すことに成功した。
メナスとの戦いは何世紀も続く。
その歴史の中で換装式汎用人型機動兵器が生まれた。
「ムハイがメナスだっていうけど、全然機械っぽくないね?」
『取り込む機械や構造物がないからでしょう。エネルギー反応の適合率は20%未満のため完全一致からは程遠いものの、スキャンした結果メナス同様に核を発見しました』
シキの視界に映る拡張画面に小型情報端末によるスキャン結果が表示された。
まるで本当に真っ二つにしたかのようなムハイの断面図が映り、下半身の中心部に脈打つ宝石のようなものがある。
人そっくりの歯が並ぶ口の奥の方だ。
『メナスは核を破壊すれば活動が停止します』
「どうやって破壊するんだ?」
『外皮を破壊し核を露出させてから直接攻撃を加えるか、外側から外皮ごと核を貫くかの二択となります。前者ならアリエの荷電粒子収束射出装置による広範囲攻撃、後者ならエイヴェのライフル〈LR-017 RHODES〉による狙撃が適任です。どちらにしますか?』
「えっ」
急に選択を迫られシキは考え込む。
そういえば荷電粒子収束射出装置は高威力だが、土木工事でしか使っていないことを思い出す。
魔獣に向かって撃った場合、どうなるのか興味があった。
「それじゃあアリエに頼もうかな」
『了解しました。アリエ、出番ですよ』
『はいは~い。ご指名ありがとうございま~す。お姉さんにお任せよ~』
『お兄様ぁぁぁぁっ!? どうしてエイヴェを選んでくれないのですかっ!』
『うわっ。ご、ごめん。今度埋め合わせするからさ』
『本当ですか? 言質取りましたからね? お兄様』
悲痛な叫びから一転してご機嫌になったエイヴェにシキがほっとしていると、上空に〈SG-068 アリエ・オービス〉が転送されてきた。
アリエは重量二脚の機体で、やや丸みを帯びたフォルムをしている。
真ん中で折れた鉄骨のようなものを背負っていて、それが荷電粒子収束射出装置だ。
背中から取り外すと折れた部分が連結され、アリエより長い艶消し黒の砲身が完成する。
構えて射撃準備を始めると、砲身の縦に入っているスリットが赤く輝き始めた。
その間もスース、プリマ、シアニスは戦い続けているが、時間を稼ぎながら少しずつムハイから距離を取り始めている。
具体的にはアリエの小型情報端末から発射された、防磁繭という電磁フィールド発生装置の外側へだ。
『準備できたわ。みんな下がって』
アリエの号令で全員が一気にムハイから離脱した。
それぞれを八本の足が追いかけるが、先に荷電粒子収束射出装置が発動する。
発射音はシアニスのショットガン〈MLK:N4800〉と比べると非常に小さく、電子音のようだった。
砲身から赤い光線が放たれると、ムハイの体に当たる直前で全方位に拡散する。
シキの視界が赤い閃光で染まり、世界のすべてが覆われたかのように錯覚したが、実際は防磁繭で覆われたムハイの周辺だけだった。
「Blooooooooooooooooow!」
ムハイの全身を収束した荷電粒子が蹂躙した。
まず最初に上半身の人型が。
次いで足の先端が消滅し、体の中心に向かって伝播していく。
丈夫な歯だけは荷電粒子に耐え、周囲の支えていた部分がなくなると地面に落下していった。
荷電粒子収束射出装置を撃つにはチャージが必要なだけでなく、〈SG-068 アリエ・オービス〉のエネルギーも大量に消費するため一日に数度しか撃てない。
その代わりに威力は絶大だ。
ムハイの体は中心部の僅かな触手を残して消滅。
触手の塊から黄色く輝く宝石のような核が露出していた。
見た目は硬そうな宝石だというのに、心臓のように脈打っている。
宝石にまとわりつく触手が少しずつ再生し、核を覆い隠そうとしているが、当然そうはさせない。
『そ~れっ』
荷電粒子収束射出装置を発射後、砲身を二つに折って背負いなおしたアリエがブーストで加速してムハイの核に突っ込んだ。
左腕装備のレーザーブレード……は使わず、加速した勢いのまま膝を繰り出す。
重量二脚を用いた質量のある膝蹴りは核にクリーンヒット。
粉々に砕け散ると破片はクレーターに向かって落ちていくが、途中で空気に溶けるように消えてしまった。
『ムハイのエネルギー反応、完全に消失しました』
「お、終わった」
結果的には完勝だったが、未知の怖気や非表示設定が通用せず無意識に緊張していたようだ。
シキは強張っていた体を弛緩させて、複座のシートに背中を預ける。
『一時はどうなることかと思ったけど、強さ自体はたいしたことなかった?』
『はい。スプリガンの敵ではありませんでした』
『そっか。みんなありがと……う!?』
『マスター、どうかしましたか?』
何かに驚いて絶句するシキの顔をオルティエが心配そうに覗き込む。
シキの視界に広がるメニュー画面に変化があった。
新規取得を知らせる〇印がこれまで見たことのない位置に付いている。
「え、無償チップが増えてる」
*誤字報告ありがとうございます*