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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
3章 迷宮の謎 樹海の謎 両親の謎
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129話 Overed Boost

 〈SG-062 ルミナ・ヴィオス〉が本領を発揮する。

 タレットの十字砲火に加えて、未使用だった右腕装備のハンドミサイルをムハイ本体をロックオンした。


 ハンドミサイルは卵を横に寝かせたような、丸みを帯びた銃身をしている。

 銃身の天面には正六角形の射出口がハチの巣状に並んでいて、ルミナが引き金を引くと七発の小型ミサイルが一斉に発射された。


 奇しくもミサイルの弾道はムハイの触手と同じで、一度周囲に広がった後に集約してムハイに着弾する。

 ムハイの球体の体の表面で連鎖的に爆発が起こり、上半分を吹き飛ばした。

 大量の触手が四散し周囲に汚泥が飛び散る。


『あっ、ごめんなさい。ミサイルはよくないですね。タレットとシールドでいきます』


『ルーちゃん援護するね』


 〈SG-071 シアニス・エルプス〉は突撃銃(アサルトライフル)を発砲する。

 3点バーストの小気味良い銃声が立て続けに鳴り響き、ムハイの体にいくつもの穴を開けた。


「おお……臨場感がすごい」


 シキが複座に搭乗したままの戦闘は初めてである。

 メインモニターの照準(レティクル)で狙った通りの位置に着弾して、触手が弾け飛ぶ光景を見て興奮の色を隠せない。


 シアニスは非表示設定のままなので、ムハイは着弾するまで攻撃されたことにすら気付けない。

 その一方でシキは発砲音だけでなく機体に伝わってくる振動まで感じ取っていた。


 四方からの猛攻にムハイが堪らず初めて回避行動を取る。

 左斜め前方へ転がり粘液を滴らせながら逃れると、ずりゅ、と触手を一瞬で再生させた。


『ムハイのエネルギー消耗量が五割を超えました』


 オルティエのアナウンスが合図になったかのように、ムハイの攻撃パターンが変化した。

 複数の触手をある程度伸ばしたところで止まり、触手の先端が四股に裂けて捲れると銃口のような穴が出来上がる。

 そしてそこから粘液を弾丸のように飛ばしてきた。


『あ、だめっ』


 〈SG-062 ルミナ・ヴィオス〉本体はプラズマシールドで防げば問題ないが、無防備なタレットに粘液弾が直撃してしまう。

 武器とは得てして精密機械であるため、耐久性はスプリガンの装甲と比べるべくもない。


 酸性の粘液が金属を溶かし内部へ浸食。

 タレット二機はあっさり破壊されてしまった。


「こいつ賢いし手強い!?」


『問題ありませんマスター。設置型タレットとは少々相性が悪かったのは事実ですが、それだけです。ルミナ、やっておしまいなさい』


『はいっ!』


 ルミナは元気よく返事をすると、ブースターの出力()()を上げていく。

 マニュアル自動車でいうところの、ギアをニュートラルに入れたままアクセルだけ踏んでエンジンの回転数を上げている状態だ。


 キィィィン、というスプリガンの動力であるジェネレーターの唸り声が最高潮に達したところで、ルミナは貯め込んだエネルギーをブースターの推進機関に送り込む。


 次の瞬間の〈SG-062 ルミナ・ヴィオス〉の動きに、ムハイとシキは反応できなかった。


 上空でプラズマシールドを構えたルミナが、光のような速さでムハイへとぶつかる。

 ブースターの青白い炎が尾を引き、まるで流星だった。


 プラズマシールドがムハイを押し潰しながら地面に突き刺さる。

 スプリガンの超重量とすさまじい速度が掛け合わさり、膨大な運動エネルギーが発生。

 ルミナの着地地点を中心にして地面が捲れ上がり、後を追うように衝撃波が襲ってきた。


「うおおおおお」


 巻き上げられた土砂に覆われ、シアニスのコックピット内が暗くなる。

 銃撃のそれとは比べ物にならないくらいの衝撃と轟音が伝わってきて、シキは怖くなって思わず声が出た。


 永遠にも感じるような嵐の時間が終わると、今度は静寂がやってくる。

 視界の回復したモニターには巨大なクレーターが出現していた。


『ル、ルミナ。大丈夫?』


『はい、大丈夫です! 私こう見えても頑丈なので』


 恐る恐るシキが声をかけると、クレーターの中心でこちらを見上げているルミナが手を振っていた。

 コアAIとスプリガン、どちらも無事のようだ。


『いやいや、頑丈で済まされるレベルじゃないよ? あんな速度で動いたら人間の体なんて重力で内臓が破裂しちゃうよ』


『スプリガンのコックピットには強力な衝撃制御装置が搭載されています』


『そうなの? その割に銃撃の振動とかも伝わってくるけど』


『微細な振動も戦闘においては重要な情報となります。従って身体に支障をきたさない程度の衝撃は意図的に制御対象外にしてあります』


『スプリガンはよくできてるなぁ』


 細かいシステムに改めてシキは感心すると同時に、前から思っていたある疑問が頭の中で再浮上する。

 スプリガンとは本当にロボットなのだろうか? と。


 未知の力……仮に神々が使う魔法だとして、魔法でロボットそのものを再現しているのか、それともロボットの外見や性能に見せかけただけの魔法生物(ゴーレム)なのか。

 元日本人からすれば謎理論、謎物質、謎エネルギーで動いている時点でロボットという存在自体がファンタジーで、自動車や飛行機のように機械として成立しているかなんてわからない。


 また Break off Online というゲームを模しているため、シキの視界に映るメニュー画面から操作できる〈搭乗〉〈降機〉〈ユニット転送〉〈ショップ〉などはロボットの性能とは全く別物の権能だ。


 そう考えると魔法生物説が濃厚な気もする。

 でもゲームにしては設定が細かすぎる。


 スプリガンや武装の構造をオルティエに語らせたら、一晩どころか一か月あっても足りないだろう。

 コアAIたちにはゲーム以前の、物心ついた頃からの記憶がある。

 彼女たちは間違いなく()()()()()


 別に魔法生物であることと、設定が細かいことが両立しないわけではないが……。

 うまく言葉にできない違和感を覚えていた。


『ムハイのエネルギー反応、消失しました』


 オルティエの言葉で我に返り、シキがモニターへ視線を戻す。

 クレーターの中央、ルミナの足元に汚泥のシミが残っていた。

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