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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
3章 迷宮の謎 樹海の謎 両親の謎
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123話 殴り甲斐のある邪悪

『皆の安全が最優先だけど、可能なら奴隷のような扱いを受けている女性たちだけでなく、サーライトも殺さずに捕まえたい。ごめん、我儘言ってるよね』


『いいえ、問題ありません。マスターの願いを叶えるのが我々スプリガンの使命です』


『オルティエの言う通りです。ミロードの思うがままにご命令ください。与えられた役目を完璧にこなしてみせましょう』


 申し訳なさそうに見上げるシキに向かって、オルティエとリューナは力強く頷いた。

 サーライトたちの実力は未知数だが、シキの義母で第二位階冒険者 〈剣姫〉エリンより上ということはないだろう。


 スプリガンたちは武装に制限を受けても尚、エリンに比肩する戦闘能力がある。

 今回はオルティエも精霊として参加させるつもりなので、こちらの敗北は万が一もない。


 ただ現時点で実害はないのだから(《追跡》の魔術はかけられたが)、サーライトたちは無視してさっさと迷宮を脱出するという選択肢もある。

 というかそれが正解だろう。


 世の中に悪人はごまんといるが、そのすべてを正そうと思うほどの高尚な正義心は持ち合わせていない。

 だからこそ中途半端に厄介ごとに頭を突っ込んでいる、という負い目をシキは感じていた。


 ジャンたちがサーライトに狙われる可能性はあるが、それもあくまで可能性である。

 冒険者に対してそこまで面倒を見ようとするのはある意味失礼だ。


『シキくん、こういう時はね「あいつ気に入らないからとっちめるぞ」でいいのよ。そしてとっちめ終わったらお姉さんにご褒美を頂戴~』


『俺はサーライトとタイマンさせてくれればそれでいいぜ。手ごたえのないレイスを相手にするのも飽きた。死なない程度に殴るのはいいんだろ?』


 既に別行動を取っているアリエとフェリデアからも、ボイスチャットでシキの行動を肯定する返事が届く。


『……わかったよ。ありがとう。それじゃあご褒美は別途考えるとして、芝居にもちゃんと付き合ってもらうよ』


 こうしてサーライトをとっちめる段取りが整った。

 彼らの動向は非表示設定の小型情報端末を使い、映像と音声をリアルタイムで監視しているため筒抜けだ。


 アリエたちのレイスに苦戦している演技を見たサーライトたちが、シキの部屋の手前までやってくる。

 シキたちもレイスに襲われているふりをして、サーライトたちを誘い出す。


「シキ少年は殺していいけど―――」


「は?」


「ちょ、リューナ落ち着いて。レイスが消滅しちゃう。手加減して」


 小型情報端末が拾ったサーライトの音声にリューナがキレた。

 サーベルを振るう速度が増し、レイスが消えかかるトラブルがあったが、なんとか小芝居を継続する。


『マスター。魔術師の女の周囲からエネルギー反応を探知しました。波長は違いますが《追跡》の魔術をかけられる前と状況が似ています。何かしらの魔術を発動する直前で温存している可能性があります』


「了解。油断しないようにしよう」


 宮廷魔術師第三位 〈雷霆〉ランディは高速詠唱を得意としていたが、単発限定とはいえ似たような芸当ができるということは、優秀な魔術師なのかもしれない。

 その後サーライトたちに助けられ、アリエたちも同様に助けてもらう話がついたところで、新たなトラブルが発生した。


「……旋火」


「逃げて!」


 それまで何もせず影の薄かった盗賊の女がシキを庇ったのだ。

 目の前で火柱が立ち昇り動揺したが、


『問題ありません。パルスシールドで防御済みです。このままシールド内に拘束します』


 さすがオルティエだとシキは胸を撫でおろす。

 ある程度予想はしていたが、やはりサーライトは盗賊の女が火柱に包まれて慌てるどころか、侮蔑の言葉を吐いた。


「ったく、これだから亜人は頭が悪くて嫌いなんだ」


 振り返るとサーライトはこれまでと変わらない、爽やかな笑みを浮かべている。

 先の言葉さえ聞かなければ好青年のままだった。


「どういうつもりですか?」


「意外と落ち着いているね。そうか、僕らは釣られたのか。折角親切にしたのに、先輩冒険者を騙すなんて悪いやつらだ」


「そういう貴方たちこそ俺たちを―――」


「やれ」


 シキの言い分を聞くつもりはないようで、サーライトの短い号令と共に戦闘が始まった。

 神官の女は背中に手を回しながらシキに接近し、踏み込むと同時にその手を水平に突き出してくる。


 手には刺突に特化した短剣(スティレット)が握られていた。

 聖職者らしからぬ刃物を使った接近戦に虚を突かれたが、躱せないほどではない。

 身長差もあり顔面目掛けて放たれた短剣は、首を傾けてやり過ごした。


 神官の女は短剣を引っ込めると、今度は体を屈ませながらその場で一回転する。

 地母神を信仰する者が纏う法衣が翻り、それを目くらましにして足払いを放ってきた。

 シキは脳内分泌の活性化により、体感時間が大幅に加速した世界で足払いを視認して飛び退く。


「首に〈隷属の円環〉があるんですよね? なんとかしますから引いてくれませんか?」


「もう何もかもが手遅れよ」


 シキの説得はにべもなく断られた。

 神官の女は泣きそうな顔をしているが、瞳だけはぎらついている。

 そこには殺人者に堕ちた懊悩と愉悦が同居していた。


 手遅れということは償いきれない程に罪を重ねてしまっているのだろう。

 捕まれば極刑は免れず、神官の女が生き残るためには今ここでシキたちを始末するしかない。


 罪を重ねてでも生きようとする神官の女を、シキは安易に責めることはできなかった。

 当たり前だが殺したくて殺しているわけではない。


 最も許されないのは〈隷属の円環〉で冒険者殺しを強要しているサーライトだ。


「万象の根源たる魔素よ 寄り合う焦熱を束ねて 彼の敵を貫き溶かせ」


 神官の女とは対称的にシキと距離を取った魔術師の女が、新たな魔術を放つ。

 掲げた杖の先に炎の槍が生まれると、矢のように撃ち出された。


「オルティエ」


 呼び声は防御魔術のように作用する。

 シキへと飛来した《炎槍》は、眼前で見えない壁に阻まれて消失した。


「……なにそれ」


 魔術師の女が驚き目を見開く。

 白黒(モノクローム)のドレス姿で顕現したオルティエが、シキを守るように立ちはだかった。


「まさか、あれは」


「よそ見してる暇はないぜ」


 リューナと斬り結んでいたサーライトだったが、不意に声がして反射的に凧形状の盾(カイトシールド)をその方向に構えた。


「ぐおっ」


 次の瞬間、盾に強烈な衝撃を受けて体が宙に浮き、数メートル弾き飛ばされる。

 サーライトがいた場所には、トンファーを振り抜いた姿勢のフェリデアがいて、獰猛な笑みを浮かべていた。


「レイスは殴りごたえがなくてつまらなかったが、あんたはどうだい?」

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