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精霊仕い ~それは精霊ですか? いいえロボットです~  作者: 忌野希和
3章 迷宮の謎 樹海の謎 両親の謎
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120話 新たな優しい先輩?

『過去トラ、水平展開というのは、マスターの世界で使われている用語なのですか?』


「うん? そうだね。ちょっと専門色の強い用語だけど、内容は汎用的なんだ。昔取った杵柄ってやつだね」


 Break off Online の世界でも聞きなれない用語だったのだろう。

 背後から聞こえてきたオルティエの質問にシキが答える。


 ジャンたちと別れたシキは、モンストランス・バットに倒された冒険者の遺品を回収しにやってきていた。

 十字路と鐘楼の中間地点の通路には、迷宮に取り込まれて破損した武具がいくつか転がっている。


「壁や床に接地した部分から吸収されたのかな? 剣や盾も端っこしか残ってないや」


 木製の盾の留め具と思われる金属片を拾って断面を確認すると、断面は溶かされたかのように綺麗だった。


「人の体が吸収されている場面は見たくないな……」


「この後は鐘楼に行くのかい? 大将」


「うーん、行ってもモンストランス・バットがいるだけで手応えがないだろうし、真っすぐ第三層を目指そうか」


「そうこなくっちゃ。早く手応えのあるやつと戦いたいぜ」


 フェリデアが獲物を狙う獰猛な肉食獣のように黄金の瞳を輝かせる。

 正直これで身元が分かるか怪しいが、ないよりはましだろうと割り切って遺品を回収。

 その足で第三層へと降りる階段を目指す。


 小型情報端末でスキャンしながらの移動なので、他の冒険者も魔獣の存在もリアルタイムで位置が捕捉できる。

 どちらと遭遇しても手間なので避けて通り、第三層の階段の前までやってきた。


「おや、見ない顔だね。〈星屑の迷宮〉は初めてかな?」


 そこで休憩していたのは男一人、女三人で構成された冒険者パーティーだった。

 さすがに階段前に陣取られると避けられず、金髪碧眼で顔立ちの良い男が先頭にいたフェリデアに話しかける。


「邪魔するぜ。そこを通してくれるかい」


「ああ、もちろんいいとも。通ってくれたまえ」


 質問を無視したフェリデアだったが、特に気にした様子もなく男が応じる。

 何故か男たちは階段の左右に二名ずつ分かれて座り込んでいるため、間を通り抜ける必要があった。


 男は騎士と言っても通用しそうな豪華な板金鎧(プレートメイル)を身に着け、凧形状の盾(カイトシールド)片手半剣(バスタードソード)を装備している。

 女たちはそれぞれ盗賊、神官、魔法使い風の服装の上からお揃いのマフラーを首に巻いていた。


「もしかしてパーティーリーダーはそちらの少年かな?」


「あ、はい。そうですけど」


 パーティー同士の不必要な接触はご法度なので、そのまま通り過ぎようとしたシキであったが男に声をかけられる。

 ベンジャミンの件もあり、親切にしてくれる先輩冒険を無下にするのも憚られたので立ち止まった。


「君は魔術師?」


「いえ、違いますね」


「ふむふむ。すると麗しいご令嬢たちも含めて、全員が近接職ということで合っているかな?」


 シキたちを観察し、詮索するような物言いにフェリデアの黄金の瞳がすっと細められる。

 腰に差したトンファーに手が伸びたところで男が降参とばかりに両手を上げた。


「こちらに敵意はないよ。ただ第三層について何も知らないようだから、先輩として助言しようと思っただけさ」


「確かに知らないですね。地図も初心者向けの第二層の分までしかないので」


「なら魔獣について情報提供しようと思うけどどうする? もちろん無料でいいよ」


 純粋な好意だと判断してシキが頷くと、男は第三層に出現する魔獣を三種挙げた。


 一つ目はヒュージ・バット。

 見た目はモンストランス・バットに似ているが、強さは三割減くらい。

 ただし群れで行動するので十分脅威であるという。


 二つ目はガーゴイル。

 インプの正統進化で鉈ではなく戦斧を振り回す。

 タクティス子爵領の迷宮から溢れ、リティスに襲い掛かっていた個体とほぼ同じのようだ。


 三つ目はレイス。

 実態を持たない幽霊のような魔獣で、とにかく物理攻撃がきかないそうだ。


『実物をスキャンしてからの判断になりますが、マスターの〈Mondlicht〉やアリエの携行型(ハンド)荷電粒子収束射出装置(ラプソディ)は通用すると思われます』


 すかさずオルティエの解説が入る。

 であれば周囲に他の冒険者がいなければ問題なしとシキは判断した。


「なるほど、つまり俺たちだとレイスの相手が厳しいということですね」


「そうなんだ。幸いにもレイスの数は少ないから、周囲に他のパーティーがいなければ逃げるのも手だよ」


「情報ありがとうございます。参考にさせてもらいます」


「うんうん、素直に聞いてくれると助言のし甲斐があるってものさ。僕はサーライトだ」


「シキです」


 そう名乗った男の握手にシキが応じる。

 見た目は線の細い好青年だったが、掌は剣だこで岩肌のようにごつごつしていた。


 サーライトに見送られながらシキたちは第三層へと下っていく。

 各層の階段は螺旋状で、体感としては二階分くらいの高低差があった。


 増えすぎて溢れる状況でもない限り、魔獣は滅多なことで階層移動はしないそうだ。

 なのでサーライトたちが階段の入口を背にして休憩するのは、そこらの通路よりも安全であるが……。


「あれは品定めね~。後から追いかけてこっちを襲うつもりよ」


「だな」


「背後の監視はお任せください。ミロード」


『魔術師の女が位置情報を探知する《追跡(トレース)》の魔術をマスターにかけました。抵抗(レジスト)も可能でしたが、相手に気付かれるため意図的に抵抗していません』


「ええ……」

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