103話 あったよ迷宮が!でかした!!
レニアミルア・アミルアレニ。
彼女は宮廷魔術師の序列第二位の水魔術の使い手である。
純粋な戦闘能力は第三位のランディに劣ると言われているが、それは扱う魔術の相性によるものが大きい。
にも関わらずランディより上の序列にいるのは、戦闘能力だけでなく水魔術によるレドーク王国への貢献が評価されているからだ。
水は良くも悪くも生命を支配する。
適度な雨は恵みとなるが、降り過ぎれば害となってしまう。
レニアミルアは魔素から水を生成するだけでなく、空気中の水蒸気に干渉することにも長けていた。
自身の魔力で広域の水蒸気を操り、集め、雲を生み出す。
それが上空で冷えると雨になる。
条件や制約が全くないわけではないが、レニアミルアは狙った場所に雨を降らすことができる。
逆に雨雲を散らすことも可能だ。
レニアミルアは水を介して生命を支配する。
干ばつ地域に恵みの雨をもたらし、雨続きで洪水が起きた地域には晴れをもたらす。
かつて王弟と呼ばれた存在がまだ表舞台にいた頃、レニアミルアは彼の未来予知と協力して干ばつと洪水被害を未然に防いでいた。
その成果が彼女を宮廷魔術師の序列第二位に君臨させている理由の一つだ。
ちなみに〈大瀑布〉という二つ名は、魔素から生成した水を滝のように放出して敵を押し流すところからきている。
「迷宮の入り口は当然中と繋がっているわ。つまり空気中の水蒸気も出入りしているということよ」
レニアミルアが天に向かって両手をかざしている。
手の平から薄く伸ばされた魔力が空気中に散布されているのを、ランディの魔眼が捉えていた。
こうやって森林地帯に漂う水蒸気伝いにレニアミルアの魔力が浸透していく。
「………森の東側で不自然な水蒸気の消失を感知したわ」
『なるほど。要は普通の洞窟を探すのと変わらないということですね。リファのドローンを使用して森林地帯全域をスキャンします―――完了しました。風の流れが途切れている不自然な場所を発見。座標を表示します』
「ええ……はやい……」
シキだけに見える拡張画面に森林地帯の映像が映し出される。
地上から三メートルくらいの位置、何もない空間に迷宮の入口と思われる平べったい黒穴が開いていた。
「どうした? シキ殿」
「や、なんでもないです」
どう考えてもレニアミルアの見せ場なので、空気を読み先に迷宮の入口を見つけたことは黙っておくシキだった。
ドローンの持ち主であるリファが何か言いたげにしているので、
「リファのドローンは優秀だね。俺はわかってるから」
と耳元で小声で囁いて頭を撫でた。
「えへへ、にぃにが褒めてくれた」
そう言って気持ち良さそうに目を細めたので、どうやら満足してくれたようだ。
「ある程度場所が絞れたので、移動しましょう」
探知に集中しているレニアミルアを皆で守りながら森を移動する。
森全体に魔力を巡らせるとさすがに精度が落ちるようで、目星を付けた場所周辺に範囲を絞って再探知、というのを三度続けたところで迷宮の入口を発見。
シキの拡張画面に移っている場所と、肉眼で見えている場所が一致した。
「ついに見つけたわ」
『スプリガンの性能をもってすれば一撃です』
「ずいぶん高い位置にありますね」
空中で腰に手を当て胸を張り、ドヤ顔を決めているオルティエはスルーして、シキは迷宮の入口を見上げた。
「迷宮の入口には様々な種類があるけれど、空中に浮かんでいるのは初めて見るわね」
「まさかタクティス子爵領に迷宮があっただなんて……」
「迷宮の中身次第では莫大な利益を生み出すかもしれないぞ、リティス嬢。まずは足場を作ろう」
ランディが短く「土よ成れ」と唱えると地面が盛り上がり、迷宮へと続く階段が出来上がる。
迷宮の入口である穴は長手方向が二メートルくらいの楕円形なのだが、シキはふと疑問に思った。
「この狭い入口からスースが倒したような巨大なゴーレムが出てこれるんですか?」
「次元収納と同じで、でかいのは萎んで出てくるんだ」
そう説明しながらランディが階段を登り、迷宮の入口に頭を突っ込んだ。
頭が平面の黒穴に吸い込まれて首無し状態になっていたが、ランディはすぐに頭を出した。
「一層目は古き良き石造りのダンジョンって感じだな。魔獣はあらかた出尽くしたのか確認できない。この新発見の迷宮を探索するにせよ、封鎖するにせよ、まずはタクティス子爵に報告しないとな」
階段を降りてきたランディがリティスや騎士団長のヴィフリートと今後についての打ち合わせを始めた。
「迷宮かぁ」
『マスターは迷宮に興味がおありですか?』
「まぁね。樹海の魔獣とは違って、財宝の類も手に入るだろうしね」
『樹海にも未発見の迷宮が眠っているかもしれませんよ? 探知の仕方は今回で把握しましたので、早速防衛ラインに配置している小型情報端末を使って調べてみましょう』
「さすがにそう簡単には見つからな―――」
『ありました』
「ええ……あるんだ……」