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99話 主役は遅れてやってきてた

 レドーク王国、宮廷魔術師第三位〈雷霆〉ランディ・ウォルト。

 彼は長いこと国内で中立を保っていたウォルト侯爵家の長子で、シキとの御前試合を契機に第一王女派への所属を決意した。


 シキの強力な精霊の力が王国の敵にならないよう、彼を派閥に取り込むのがランディの仕事だ。

 ただしそれは表向きの理由で、魔素を全く帯びない謎の精霊の正体を探りたい、というのがランディの本心である。


 第一王女派への所属が決まり、同派閥の重鎮たちとの面会で忙しい日々を過ごす。

 そしてようやく視察団と合流できるようになった。

 宮廷魔術師第三位のランディに護衛など不要なので、単身エンフィールド男爵領へ向かったはずだったのだが……。


「魔素が皆無な精霊ってあり得るのかしら? 乾いた水、くらい矛盾しているような気がするのだけれど」


 馬車の対面に座る女がランディに話しかけてくる。

 彼女の名前はレニアミルア・アミルアレニ。


 宮廷魔術師第二位で、水魔術を得意とする魔術師である。

 言いにくいし覚えにくいその奇妙な名前は、他国の辺境部族出身だからだ。

 彼女はランディの出立をどこからか嗅ぎ付けて、勝手に同行していた。


「俺の魔眼で見たから間違いない。視察団には各派閥の魔術師が帯同しているし、多少は研究が進んでいるといいんだが」


「あら、随分他人事じゃない。普段の貴方なら全部自分で解明しようと躍起になるくせに」


「シキ殿の精霊については、正直俺もお手上げだからな。二週間先行して研究している連中が何か掴んでいるならそれに越したことはない。精霊だけでなく樹海の調査もあるからあまり一つのことに注視もしてられん。時間を惜しく感じるのは久しぶりだよ」


「なら私の調査にも期待してくれていいのよ?」


「……祖国に持ち帰らないならな」


 ランディが威嚇するように魔術の構成を編む。

 馬車内で渦巻く魔素の奔流を感じ取りレニアが肩を竦める。


「そんなことするつもりなら、序列二位になんかならないわよ。私は研究者として知識欲を満たしたいだけ。故郷なんて関係ないわ」


「ふん、どうだかな。じゃああんたの予想を聞かせてくれ。考えが全くないわけではないんだろう?」


「そうね。魔素を全く帯びない物質がないわけじゃないわ。只の水が良い例ね」


 レニアが人差し指を立てると、その先で小さな水球が生まれた。


「魔術で扱う水は二種類。魔素で水そのものを創造するか、魔素を使って既にある水を周囲から集めるか」


 ランディが魔眼を使い、レニアの指先にある水球を観察する。

 それは後者で作られたものであった。


「相変わらず気色が悪い程の魔術制御だな。どこから集めた水か知らないが、魔眼で見ても魔素の痕跡すら感じない。やはりそれが答えなのか?」


「女性に向かって気色悪いなんて言っちゃ駄目よ? 確かにこうやって魔素の痕跡を残さずに物質を制御すること自体はできる。けどこれって凄い無駄なことなのよね。普通に魔素で水を作ったほうが手っ取り早いし、魔素を帯びていない物質では強化もままならないわ」


「確かに魔素無しでは集めた水は只の水でしかないな。やはり高度な魔素隠蔽、というのが最有力だろうか」


 高位の宮廷魔術師が二人いれば、魔術討論の議題には事欠かない。

 気が付けばエンフィールド男爵領の手前のタクティス子爵領に到着したが、この地では問題が発生していた。


 ランディとレニアは街道で魔獣に襲われていた商人の馬車を助けた。

 その商人によると魔獣の異常繁殖で騎士団と冒険者たちが総力戦を強いられているという。


 レドーク王国に所属する宮廷魔術師として国民の危機は見過ごせない。

 冒険者ギルドに赴き魔獣討伐に加勢することを表明する。

 〈雷霆〉と〈大瀑布〉の名を出し冒険者たちの士気を上げつつ、魔獣が異常繁殖している東部の森林地帯へとやってきた。


「この先はもうエンフィールド男爵領のはずだが、魔獣の異常繁殖は樹海と関係があるのか?」


「でもこの無節操な魔獣の種類は迷宮絡みじゃないかしら」


 レニアの言う通りタクティス子爵騎士団と冒険者の混成軍は、ゴブリン、グレイウルフ、キラービーの他に、ガーゴイル、ケルピー、ファイアリザードといった森林に生息していそうもない魔獣とも戦っているようだった。


「そうかもしれないな。とりあえず俺達で戦線を押し上げ……」


 ランディがそう言いかけたところで、戦線の右端で爆発が起きた。

 魔獣の群れの中でもひと際大きかったクレイゴーレムの核が破壊され、爆発四散したのだ。


 珍しい曲刀で核を真っ二つにしたのは長い黒髪の美女。

 濃い紅色のゆったりとしたズボンを履き、上は白い布で豊満な胸元を覆っているだけなので露出が多い。

 彼女は羽織った外套を靡かせて、次の獲物へと向かっていく。


「た、助かった……ありがとう。姉御!」


 グレイゴーレムの巨大な拳に潰されそうになっていた冒険者が叫ぶ。

 すると他の冒険者からも歓声が上がった。


「あれはスース殿か。なんだ、いたのか。これなら俺達の出番はないかもしれないな」


「え、何あれ……あねご?」


「レニア、早速観察できるかもしれないぞ。シキ殿の精霊をな」


 スースと呼ばれた美女の背後には、小柄な少年と宙に浮かぶ不思議な美女が控えていた。

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