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第4話 ティーナ「アアアアアアァァァァァアアアァッッ!!」


 5歳になって初めて認識し合った元クラスメイト、綾峰芽瑠あやみね める(ティーナ)。

 

 てっきり彼女も赤ん坊の頃から周囲の大人の会話を聞き、『マナナミ』が『テイルスフィア』に与える餌を育てる場所だと知っている……そう思っていたが、どうやら違ったようだ。


(……僕みたいに誘拐されたなら、さすがに気付くはず…。つまり、生まれた瞬間に攫われたか……もしくは、『マナナミ』で生まれた、か。……正直誘拐よりも『マナナミここ』で生んだ方が手っ取り早いし、誘拐というリスクを負うこともない……。…………まあ、その辺はおいおい考えるとして)



「………ねえ、何よ、『マナナミ』の正体って…」


 目を赤く腫らしたティーナが怪訝そうに聞いてくる。

 同じように全てを知っていると思い、「情報交換しようよ。『マナナミ』の正体を、知る者同士」と失言してしまった。

 

 どう説明したものか。真実を告げるか適当に言って誤魔化すか。誤魔化す場合、なんと言えばいいか。

 ぐるぐる思考を回している……と。


「ふんっ」

 とティーナが鼻を鳴らす。

「どうせ変な陰謀論考えてるんでしょ」


「……え」


「あんなぬるい先生達に何かあるわけないじゃない。……その辺はやっぱオタクね」

 言われっぱなしがやはり悔しかったのだろう。

 投げやりに言い返してきた。


「………んー、うるさいなー。……まあいいや」

 ティーナの態度に、ユーギは適当な返事で濁す。自ら勘違いしてくれるならと、ありがたく乗っからせてもらったのだ。

「それよりもさ、一応ルール決めておこうよ」


「ルール?」

 ユーギが話題を変えると、ティーナはあっさり食いついた。

 話題の変え方もかなり適当だったが、ティーナ自身〝『マナナミ』の正体〟という言葉に興味がなかったのだろう。


「まあルールと言うか、簡単な約束だよ。……このことは誰にも言わない、表では今まで通り接する、お互いが何かやっていることに気付いても不干渉を貫く。……言うまでもないことかもしれないけど、一応約束しておこうと思って」

 確かに、ユーギが述べた約束は言うまでもないことだ。

 

「……別に、いいけど…」

 特に異論などなく、ティーナが頷く。


「あ、もちろんヤシズやラッカに今までみたいに突っかかっても、やりすぎない限り横から何か言うこともないから、好きにして」


「うるさいッ!!!」


 ティーナは脊髄反射で叫び、……そのまま走り去ってしまった。


 それはもう勢いよく、何かから逃げるような懸命な走りだった。

 


(………………嫌な悩みの種抱えちゃったな~)


 ユーギは深々と溜息を吐いた。



 

 ◆ ◆ ◆




 5歳組の女子が住む平屋型のログハウス。

 綾峰芽瑠ティーナはログハウスの自室に戻り、ベッドに飛び込んだ。


「ど、どうしたの!? ティーナ!?」

 ティーナと同室で、取り巻きにしている少女の一人・ニーファが普段と違うティーナの行動に驚いている。


 しかし、相手する余裕のないティーナは「なんでもない!」と叫んで布団にくるまってしまう。

 

『異世界転生楽しんでるのそっちじゃん』

『大だいの大人が子供相手にもいっつもいっつもマウント取ってさー』

『………恥ずかしいにもほどがあるでしょ』

『薄っぺらい人間だなって思ってさ』

『君には柿波さんのご機嫌伺うこと以外何もなかったもんね』


(なんなのよッッッ! ほんとなんなのよアイツッッ!! 調子に乗って上からもの言ってッッ!! あそこまで言うッッ!? 無神経にもほどがあるでしょッッ!! アアアアアアァァァァァアアアァッッ!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァアァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!! )


 思い出すだけでも煮え滾る憤怒と背筋が凍るような嫌悪と……………見苦しい羞恥が襲ってくる。

 

(………………………………………………わかってるわよ……ッ。……自分が大人げないことしてるって………ッ)


 でも…。


(でも! 異世界転生ってそういうものなんじゃないのっっ!? 子供になれたんだから……ちょっとぐらい……ちょっとぐらい楽しんでも……いいじゃない……ッッ!!)

 



 ※ ※ ※ 


 …………綾峰芽瑠あやみね めるは、前世ではそれなりに楽しく過ごしていた。

 クラスの中心グループで、気の置ける仲間達と一緒に、カースト下位のクラスメイトを適当に弄りながら、そこそこ満喫した学校生活を送っていた。


『柿波さんに何か言われても薄っぺらい笑みを浮かべてうんうん頷いて、何か面倒なお願いごとされても〝もう仕方ないなー〟とか対等であることを表面上だけでも取り繕って、結局なんでもやってたもんね』


 ………わかっている。

 …楠翔の言う通り、そのグループの友情は、上っ面なものだなんて、わかっていた。


 高校二年に上がって偶然柿波或華と隣の席になり、そこから気に入られてクラスの中心グループに入れた。

 芽瑠もファッション誌とか読んでいてメイクや流行にそこそこ詳しかったから柿波に気に入られた……そう思っていた。


 だけど一緒に過ごしていく内になんとなくわかってきた。

 柿波は綾峰のことを都合の良い付き人程度にしか思っていない。


 何かあれば柿波は芽瑠にお願いし、少し渋ろうとするとすぐに不機嫌になる。

 ジュースを代わりに買ってくることや、クラスの仕事を任されるのはまだよかった。

 ……一番芽瑠が辛かったのは、柿波が気になる化粧品があった時に、芽瑠に最初買わせ、それを柿波が借りてから買うか決めることだった。


〝芽瑠これ気になる? 買う? えー、気になるなら買ってみようよ! ……あ、買ったらさ、少しでいいから貸してくれない? 私もそれちょっときになっててー……〟


 ……高校生に取って、多種ある化粧品の一つを買うことがどれだけ身を切ることか…。

 必死にバイトしたお金があっさり消えていく感覚は中々辛いものがあった。


 もちろん、辛いことだけではない。

 休みの日に服や化粧品を買いに行ったり、ファッションや好きな動画の話で盛り上がるのは本当に楽しい。 


 ………だから、良い化粧品を買ったと言い聞かせ、溜まったストレスを他のクラスメイトを貶して蔑むことで満たしてきた。

 ……皮肉なことに、人を馬鹿にすることも柿波とは非常に気が合った。


 


 …………そんな時だ。

 

 文化祭の役職決めの記憶を最期、芽瑠は気が付けば知らぬ世界に転生していた。


 赤ん坊だからか、目ははっきり見えず、周りの大人が何を言っているかも上手く聞き取れなかった。耳が発達していないとかではなく、知っている言語ではなかった。


(え!? なにこれ!? え!? え!?)


 最初は慌てた。何か言おうとしても「ぎゃあああああ」と甲高い動物のような泣き声しか出なかった。

 

 ……しかし、身動き取れない日々が続けば自分の状況と向き合う心の準備も整ってくるもので、次第に芽瑠は自分が転生したと悟った。

 

 両親や姉、柿波以外で仲良くしていた友達ともう会えないと自覚した時は本当に悲しかったし、また泣いた。……でも、それも時間が経てば自然と受け入れていくもので、今度こそしっかり外の世界に目を向けた。


 相変わらず目は見えないし、耳もまともに聞こえない。そんな状況でどうやって異世界だと認識したかと言えば………マナだ。

 泣き喚く芽瑠をあやす時、よく額に手を当てマナを注ぎ込まれて泣き止んでいたのだ。


 見聞きが難しい赤ん坊の芽瑠でも、魔法のような不思議な力が作用していることはわかった。

 

 揺り籠の中で何もすることのなかった芽瑠は、ふと、自分の内側に意識を集中してみた。

 私にも不思議な力ってあるのかな?という軽い気持ちだった。

 

 ……だがそこで芽瑠は思ったより強いエネルギーを体内に感じたのだ。

 何もできない内はそのエネルギーを意識し、感覚げエネルギーを練り上げた。


 

 ………そして成長した芽瑠はそのエネルギーがマナという世界樹『テイルスフィア』から生み出された不思議な力であることを知り、赤ん坊の頃からマナを練っていたおかげか、同年代の中でも頭一つ抜けた才覚を発揮した。


 みんなが自分を褒めてくれる。とてもとても気持ち良かった。

 

 調子に乗った芽瑠は次第に態度が大きくなり、子供相手に調子乗って貶した。……勢い任せに罵倒し、子供相手に口喧嘩で勝って、自覚するぐらい有頂天だった。


 最初は罪悪感があった。


 ……でも、前世の自分のように芽瑠に媚びる子供と、いつも笑顔で〝あんまり言い過ぎちゃダメだよ〟と大して叱らないぬるい先生が、芽瑠の行動にブレーキをかけることなくだんだんヒートアップさせていった。


 いつしか現5歳組の中で、前世の柿波或華のような中心グループを形成していたのだ。


 罪悪感もいつの間にか消え、綾峰芽瑠はティーナとして、マナの天才として、勝ち組確定の異世界新生活を送る………………………はずだった。


 

 そこへ、楠翔が現れた。

 ……前世でも、カースト下位のオタクの癖に、芽瑠や柿波相手に平然と言い返していた、ブレない男。


 ……………楠に心を丸裸にされ………芽瑠はこの異世界で積み上げた自我と自信が、崩壊していくのを感じた。




 ■ ■ ■




 ……楠翔ユーギと話してから、一週間が経った。

 

 そのかん芽瑠ティーナは体調を崩して寝込んでしまった。


 一日目は誰とも顔を合わせたくなくて仮病を使ったが、一睡もできず今後どうすべきか、どう振舞っていくべきか考えていた所為か、本当に熱を出してしまったのだ。

 知恵熱である。


 ずきずきと頭が痛み、起きているのも辛い状態が数日続いたが、先生達の看病のおかげで一週間経った今は特に苦しくはない。

 昨日で熱は引いたのだが念のためもう一日休んだのだ。


 いくらマナが宿ってるといっても、身体はまだ5歳。

 子供の高熱となると死にそうなほど辛かった……が、ティーナとしてはユーギと顔を合わせなくて済む口実ができて助かったところもある。……最初は仮病であったが…。



「んー、寝すぎて眠れない……」


 ティーナは今、同室のニーファに熱を移さないため、熱を出した子用のログハウスの一室で安静にしている。

 窓の外では、自由時間になった子供達が広場の各所で遊んでいた。


(……あ、楠…じゃなくて……ユーギ)

 

 遊ぶ子供達の中に、楠翔ことユーギの姿があった。

 ラッカ、ヤシズ、ルメといういつもの面子で過ごしている。

 

(………思い返してみれば、ユーギってどこか一線引いてる感じあったわよね…)


 これまでティーナがラッカやヤシズを弄っていて言い争いが激化してきた時、近くに年上組や先生がいない時は大体ユーギが淡々とした口調で「はいそこまでー」と喧嘩染みた空気をぶち壊すように仲裁していた。

 そういう、大人びていて〝ブレない〟部分を日頃から見ていたので、ティーナやラッカは弄っても、ユーギを弄ることはなかった。弄って面白くないと感じていたからだ。

 

 だが思えば、ユーギはラッカ達にも心開いていない感じはあった。

 大人びていると深く考えはしなかったが、全てを知った今、改めて考えると、ただ単に前世の記憶を持っているばかりに天真爛漫な子供達に紛れ込むことができなかったということか。

 

(……あ、そう言えば)

 ふと、ティーナが思った。

(ユーギ……あいつのマナの色って…本当にレッドなのかしら…? …………うっ、やっぱり考えないようにしよ…)


 私にできるならユーギにもできる気がする、一瞬そう思ってしまい、考えるとまた鬱ってしまいそうなので思考を放棄したのだ。


「はああぁ」

 

 何もかもが嫌になり、自然と溜息が出た。


 ………その時。



「あらどうしたの? 子供に溜息は似合わないわよ」



 淑やかな茶髪を靡かせた女性が、優しい笑みを浮かべてそこにいた。

「イリス先生!?」


 ティーナやユーギ達5歳組の先生、イリスだ。


「ノックはしたわよ?」


「あ、ご、ごめんなさい…っ」

 どうやら考えに没頭し過ぎてノックに気付かなかったようだ。




「ティーナちゃん。………ちょっと、お話しない?」


 イリス先生は、聖母のような笑みを浮かべて、そっと添えるように笑いかけてきた。



 いかがだったでしょうか?

 今回の題名は力作です!


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