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プロローグ2 ニジサリット大王国の表

 

 ニジサリット大王国。

 広大な大陸全土を占める、世界の中心とも称される国である。


 そのニジサリット大王国の王都エニカリアでは国王であるアラオーリム・ディ=リーア・ニジサリットによる演説が行われていた。

 齢60を越える、威厳と気品溢れる白い長髭がよく似合う好々爺とした初老の御仁である。

 王都エニカリアの広場にある演説用の塔の頂上で、アラオーリムが拡声機能のある道具を通して声を張り上げていた。


『……以上、他大陸からの侵攻が未だ絶えないのが現状である! しかし! 我が騎士団『桜流星(さくらりゅうせい)』の尽力の賜物で当分の危機は去った! 我が国の民よ! どうか安心してほしい! 我が国の宝! マナを生み出す大樹『テイルスフィア』は誰にも渡さぬ! 我らこそが世界の頂点! 世界の中心である!!』


「「「「「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!!!」」」」」


 広場やその周囲の窓・ベランダに集まった国民が王様の演説に歓喜と感激の歓声を上げた。

 どれほど国王が国民から慕われているか伝わってくる、感慨深い光景が広がっていた。

 



 ■ ■ ■



 

「お疲れ様です。陛下。国民の心をばっちり掴んでおりました」


「儂はただ実績を述べたまでだ。その実績は他でもない、お主ら『桜流星』のおかげではないか。イラヒート」


「ありがたき言葉。その温情だけで我ら騎士は満足でございます」


 演説を終えたアラオーリムを、王室騎士団『桜流星』の騎士団長イラヒート・デンセールが出迎える。

 190を越える高身長に、砂漠地帯で育ったと認識させる褐色の肌が特徴的な、忠誠心の厚い男性だ。

『桜流星』の正装である青色と桃色を基調とした鎧とマントが燦然と輝いて見える。


「そうだ、イラヒート」

 アラオーリムが思い出したように言う。

「お主、子は無事に生まれたのか?」


「はい。昨晩、嫁の実家から手紙が届きました。男児です」

 イラヒートの言葉にアラオーリムが笑顔になる。


「おう! そうかそうか! 先日生まれた儂の孫とは同年代ということになるな! 名はなんと言うのだ?」

「ジロックと、申します」

「儂の孫はカヤトと言う。仲良くしてくれ」

「将来、カヤト様の専属騎士を務められるよう教育致します」

「それはよいな!」


 ……アラオーリムとイラヒートが雑談に花を咲かせていると。


「……陛下。申し訳ありませんが、このまま王城へ向かってもらいます。門長もんちょう会議の時間が迫っております」


 アラオーリムのスケジュールを管理する宰相のアジール・イートリが声をかけてきた。

 40前後の真面目で見るからに頭の固い男性である。金色の刺繍が施された宰相専用のローブを纏っている。


 ちなみに門長会議とはニジサリット大王国の内政・外交・領主などの国を司る代表達の会議のことだ。騎士団長であるイラヒートもこの門長会議のメンバーだ。


「そうだな。では儂の場所だけ急がせよう。イラヒート、お主も遅れぬよう、馬で並走するように」


「畏まりました」



 ■ ■ ■



 王城にある巨大会議室には、50人を越えるこの国の貴族・賢人達が集っていた。


 階段構造の室内には下から順番に重要度の高い役職を担う者達が並び座り、その全員の視線を受ける形で一番前にアラオーリムが座っている。


「ふむ…。他大陸からの侵攻を警戒するのは当然として、もう一つの目下の懸念事項はやはりマナの枯渇か…」


 アラオーリムの言葉に、何人かの大臣や領主が反応する。


「はい。マナ濃度が昨年より4パーセントほどですが、薄まっています。ここ三年の総合では15パーセント、濃度が低下しております」

「我が国が他国より優勢に立てているのは武力や技術力ではなく、それら全てを支えるマナ。この問題を看過するわけにはいかないと思われます」


 そこで、ほぼ全員の視線が改めてアラオーリム国王に向く。


 そのうちの一人が皆の思いを代表して、緊張で生唾を飲み込んでから進言した。


「……陛下。どうか、世界樹『テイルスフィア』の『植栽(ファーミング)』に我々も参加させては頂けないでしょうか?」


 …………て会議室に重い空気が流れる。



 世界樹『テイルスフィア』。

 それはマナという超常のエネルギーを生み出す、山にも匹敵する大木のことである。


 マナは人間に特殊な力を与え、世界の技術水準を大きく引き上げた。


 より良質なマナを放出するために『植栽(ファーミング)』という『テイルスフィア』を育てる作業を必要とする。それは水の量や温度、含有物などの細かい調節から始まり、肥料には何がいいか、どの土だと根をはり栄養を吸収させやすいか、草木にストレスを与えない気温と風量の管理、共に住まわす益虫の種類・数の追求など、一言に〝育てる〟と言っても、その作業は多大な量を極める。


 枯らさないのは当然のこと、こうした繊細な計算と作業を経て、より良質なマナを『テイルスフィア』は生み出してくれる。


『テイルスフィア』は一つではない。確認されているだけでも世界に五つある。

 しかし、この『植栽(ファーミング)』の腕前によって、良質なマナの恩恵に授かれる国の差が生まれる。

 そして、ニジサリット大王国は世界一の『植栽(ファーミング)』の技術を誇る。


 これこそ、ニジサリットが『世界の中心』と称される所以である。



 ちなみに、ニジサリット大王国の『テイルスフィア』は王城の裏にある、大都市一つほどの広さを持つクレーターの中にある『ヴォルータ大森林』に生えている。

『ヴォルータ大森林』は王都エニカリアの半分を占めるような形で生え、その周囲は30メートル以上の塀に囲まれている。


 凹んだ空間(クレーター)の外を塀で覆っても尚、世界樹『テイルスフィア』はエニカリアを見下ろすほどの高さを持つ。

 この空に広がる葉花一枚一枚からマナが放出され、大陸全土に広がって人々にマナを宿すのである。



「……現在、『植栽(ファーミング)』は王族と宰相であらせるアジール・イートリ様の一族のみが管理に携わっています。『ヴォルータ大森林』の最奥へは王族とイートリ家以外立ち入り禁止。『テイルスフィア』の根本で行われる『植栽(ファーミング)』は我々門長会議のメンバーですら知りえない。先祖代々続くその機密性に不服などございません。どこから秘密が漏れるかわからないですから。

 

 ……しかし、二割近くマナが低下するということは、お二方の一族だけでは管理が行き届かなくなっているのではないでしょうか?


 この場の全員とは申しません。アラオーリム様、アジール様が選定して頂いて構いませんので、『植栽(ファーミング)』のお手伝いをさせては頂けませんか?」


 それはこの場にいる全員の総意であった。



「……(みな)の気持ち、(しか)と受け取った」


 アラオーリム様が頷き。

「だがしかし、この場で容易に決められるものではない。……はっきり申して、我が祖先が編み出した『植栽(ファーミング)』だけが他国に劣らない唯一の点である。もちろん、皆を疑っているわけではないが、言うてた通り、王として常に背信の可能性は念頭に置かねばならぬのだ。


植栽(ファーミング)』に関する情報はこの国ニジサリットとの命と言っても過言ではない。この命は、この場の誰よりも、この私の命よりも重いと、そう思っている。王族とイートリ家以外にも明かす件、今一度アジールと共に真剣に話し合うが……、お主らの期待に沿えない結論が出る可能性が高いこと、先に述べて置く。………どうか、この国の命、もうしばらく我らに預けてはくれぬか?」


「「「「「……………………」」」」」


 アラオーリムの、取り繕ずに配下の者と真摯に向き合った誠実な回答に、門長会議のメンバーは静かに受け入れるしかなかった。



 いかがだったでしょうか?

 元々は次話のプロローグ3とまとまっていたのですが、長いので分割しました。

 

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