それをあなたが仰るの
お読み頂き有り難う御座います。
お仕えする家の事に関わらずお仕えするお守り令嬢です。
しかし、ロイド様は57?60人?だかの肉食系先輩……いえ、先任の侍女を退任された子爵令嬢を袖になさったの……。吃驚ですわ。
我が国にそんなに沢山の子爵階級の娘さんが居られましたのね……。でも、ウチも4人兄弟だし……余所様も5、6人居られるかもしれないわ。
そう考えると、普通なのかしら。人数にすると物凄い数だけれど……。
ぶっちゃけ、お勤め先で裕福で安泰な嫁ぎ先ゲット……いえ、良縁を得たいと思われる肉食系も居ても不思議では有りませんわね。周りにご迷惑な。
親が嫁ぎ先を用意してくれない場合のお立場なら腹立つ主人の婚約者をタラし込んで……と。重ねて思いますがご迷惑ですわよねー。
……まあ、自分の足固めに必死なのは分からなくもないですけれど、そのお考えが揃って57人って……。
最早全員でネタ合わせかマニュアル化でもしているのかしら?異常ですわ……。
そして、その度重なるテンプレ化とクソガキお嬢様に悩んで……侍女長のハモニア様はメンタルを病んでしまわれた&婚約者様は麻痺してしまわれた、と。
……悲惨なお話ですわね。お気の毒です。
早くお金貯めませんとね……。
「だーかーらー!父上!今さっき!あの仏頂面の侍女が裏庭であの野郎とアハンウフンしてたんだって!!あの、裏門の薔薇のアーチのとこで!!」
待てやコラ。
折角ムカつきと怒りを飲み込みましたのに!
淑女を投げ棄てて怒鳴り込みそうな勢いで怒りが湧いてきましたわよ!?
「……メリリーン、落ち着きなさい」
「もーアイツクビにしろよー!あの役立たず婚約者もクビ!クービ!クービ!」
「いい加減にしなさい!!」
帰ってきたばかりの侯爵様に纏わりついて、本日も無駄に着飾ったお嬢様がギャワンギャワン喚いてらっしゃるのが、吹き抜けから眼下に見えますわ……。
……此処で、物語のように短絡的にキレたら……チートな能力でも目覚めれば……あのクソガキお嬢様に衝撃波でも当てて屋敷を壊して出ていけますのにね。現実は非情で非情で……!!つい握り締めたハンカチを引き千切りそうですわ!
あの能天気なクルクル頭にこの廊下を飾るお高そうなツボとか投げたいですわぁ……。私、投擲は中々のものなんですのよ本当に……。ああ、魅力的なツボ……。
「ロイドくんは一時間前に帰ったし、あの侍女は其処の2階でツボを拭いて居るだろうが!!裏庭から少なくとも15分は掛かるのに、嘘ばかり吐いて嘆かわしい!!ワープでもしたのか!?出来るのか!?」
あ、バレてましたわ!!良かった!凶行に走らなくて!!侯爵様、気配にお敏い!!
そしてハンカチ持ってて良かった!!ツボを拭いてましょう。洗えば済むんですから!
……よく見れば、他の侍女や執事も物陰から固唾を飲んで見守っていますわね。……良かったわ……!短気は損気でしたわ、本当に!!
「淡々と勤めてくれているシェリカ嬢の何が不満なんだ!!私がもう殆ど絶えた伝を辿って辿って勤めに出て貰ったんだぞ!?」
「な、何だよ……ふぇ、お父様がぁ」
「幾つだお前は!!都合の悪い時に泣くんじゃない!!」
……お嬢様が肩を不自然に震わせてらっしゃるわね。
昨日お聞きした侍女情報によると、この嘘泣きを繰り出して侯爵様やロイド様を丸め込むらしいんですけれど、今回の侯爵様は堪り兼ねたようですわ。
……そのブチギレ、3人目位の時にされておけば……いえ、私が雇われないから放置されていた方が良かったのかしら。人生ってままなりませんわね。
何年同じ手に引っ掛かっておられるのかしらね。殿方って……。
「もう我慢ならん、メリリーン!お前は」
「何でこれだけやってるのに、追い出さないんだよぉ!!
もぉいい!堪忍袋の緒が切れた!こんな能無しで分からず屋な家棄てる!縁切る!出てってやーるーーー!」
え?
「は?」
いや、何でお前がキレますのよ。
そもそも、堪忍袋の緒が切れる?ですの?
侯爵様も私含め周りの使用人も、開いた口が塞がりませんわ。それに縁切りって、その権利は……。
「二度と帰ってこねーから!あーばよ!」
え?
ポカーンとしている内に、お嬢様は出て行かれてしまわれました。
……あの動き難いドレスのまま転けつまろびつ……。
「……あの、お館様……お止めしないと」
「追いかけなくていい!!」
執事さんのご進言を切って棄てられた侯爵様……。
いや、そういう訳には参りませんでしょう。
あの方、家紋入りのブローチだの耳飾りだのお持ちでしたのに……。
売り払われて逃亡って、かなり不名誉では。
「……」
いや、それよりも。
私の仕える先が逃げたってことは……。
「わ、私は、クビ……!?」
そ、そんな……。あのクソガキお嬢様……いえ、もうお嬢様では有りませんわね。
追いかけなくていい、とご当主が仰ったのですもの。
と言うことは、早1ヶ月で、私の雇用は破綻したと……。
「……そんな」
「シェリカ……、大丈夫!?」
ハモニア様がいつの間にかいらして、肩を抱いてくださったけれど……。
私の、私の人生計画が……!!
「もう、シュートックに、頼る!」
は?
シュートック?ウチの家名を叫ばれる侯爵様のお声が聞こえた気がしましたけれど……。
ど、どういう事ですの!?
ツボの大きさはシェリカの胸くらいまでありました。