異常なルーティン
お読み頂き有り難う御座います。
前回より少し時間が経っております。現状は変わらずですね。
「……」
うーん、今日も兵糧攻めをされて婚約者様にお会いしたのに、罵るだけ罵ったお嬢様が足音も荒く出ていってしまわれたわ。……ポジティブな婚約者様のお顔が暗い。
そりゃ、そうですわよね。
「メリリーンは、何時もああなのだ……」
ポジティブさも……今日はなりを潜めてしまわれたよう。侍女の私相手に、モノローグを始めてしまわれる位に……。
これ、ヤバイフラグが立ってますわよね。
以前から同情申し上げておりましたが、余所事ですからであって。
流石にお嬢様の婚約者様と手に手を取って、逃避行イエーイ!とかは出来ませんわよ。特集してた今すぐ出来る!駆け落ち特集!身の回り品の高額買取は此方!じゃあるまいし。
……都会は本当に面白い雑誌が多いんですわよね。田舎は貸本屋さんが年に2回位しか来ませんし。
「お茶のお代わりは如何でしょうか?」
「ここのお茶は大変芳しいが、今回は薄いな……」
……しまった、お湯が多すぎたんですわね!?
此処にお勤めして早1ヶ月!流石に弁明出来ませんわ!!
……ええ、そんなフラグは立ちません。ロイド様は侍女にも紳士的にお振る舞いですわ。
「直ぐにお取り替えを……」
「良い。構わん。そもそも……」
「あー!!オマエらミッツーしてんぞー!!父上ー!コイツのユーセキで婚約破棄だーーー!!」
…………は?
いやお嬢様、どちらから入ってこられたのよ。窓なの!?さっき出ていきましたわよね一方的に!
「構うな。新たな侍女が来たら、必ずメリリーンはああ言うんだ」
「あぁ?」
何ですって?
「失礼ながら、どう言うことで御座いましょうお嬢様。無理矢理退席為さったのは」
「ハーキ!ハーキ!」
「お嬢様のご都合ですわよね?」
「煩せー!オマエ、主人の婚約者寝取って居直りかー?給料無しな!」
他も聞き棄てならないけれど、何て仰いました?
私のお給料、無し!?
無しって、はあああああ!?この、クソガキ……!!
ブッチ……ィ!!と頭の血管全てが引き千切られたような音が脳裏に響き渡りました。
ええ、無事でしたけれどね。
「誰が、誰の給料を無しにするって仰いました?」
「あー?」
この甘えて弛んだマヌケ面。今すぐゴミ棄て場に摘まんで畳んで捻って棄ててやりたい……!!
「私は、お嬢様の稼ぎで雇われてる訳では御座いませんよね?」
「な、何だよ……」
ですけれど、短気は……いけません。
私には、出稼ぎに来たと言う実績が要るのです。
「私は侯爵家にお仕えしています。お嬢様の個人資産にお仕えしたつもりは御座いませんが?」
「な、何だよ……。難しーことばっか……!この年増!!」
「私は、お嬢様より、歳・下ですが?」
お前の方が歳上だろ慮外者が。と、お母様ならお返しになるのでしょうね……。
そう、お母様なら……。そう考えるとスッと怒りも解けるものよ。心にお母様を宿し、迫力を!
そして科白にスタッカートを無闇に付けることね。
「……お、お父様に言いつけてやる!!色目使いやがって!色魔!」
「……一字一句違わず、よくも毎回言えるものだ」
バタバタと埃を立てて、お嬢様が逃げて行きました。え、一字一句違わない?テンプレを毎回言ってるって事すか!?何の為にですの!?
「……大体、侍女は泣くか逃げ出すのだが……お前は凄いな」
感心している場合なのですか、この方。
メリリーン様にゾッコンだかベッコンだか知りませんけれど……苦言を呈していらっしゃるのも分かりますけれど、弱腰なのでは?
「……恐れながら、ロイド様……」
「何だ、俺に何か言いたいことがあるのか?良かろう、聞いてやろう」
「僭越ながら、ロイド様は曲がったことがお嫌いそうに見えましたわ……。
こんなにも沢山の侍女が虐められているのを認識なさって、お止めになられない理由をお聞かせ頂けますか?」
「……各々庇ったさ。だが、侍女は必ず俺にすり寄るか、しなだれかかって来たのだ」
聞かなきゃ良かった。
……碌でもない事を掘り出してしまったわ。と言うか……お嬢様に意地悪されて去っていった先輩は……言うに憚る肉食系でしたのね、私の見知らぬ方々は。
「君は義勇心が強いようだな」
「いえまあ、それ程でも御座いませんわ」
「選ばれし侍女のようだ。……メリリーンを頼む」
「……」
け、健気……!この方、侯爵家に弱味でも握られているのかしら。
麻痺してますね……。