恐怖は震えを止める
お読み頂き有難う御座います。
知っているけれどお会いしたことの無い方の前に連れてこられたシェリカで御座います。
めでたし、めでたし……と行きたいところですが。
そうは問屋が卸しませんの。卸してくださいな!!
「ズガタカ家は没落査定か。仕方有るまいな」
ななななななな、何故。何故ですの!?
何故、私は国王陛下の御前に立たされているのでしょうかしらあああああ!?
何時ものルーティン王都滞在中の夜会では、果てしなく離れておいでで……!ハッキリしたお顔立ちは肖像画でしか存じ上げませんのよ!?
はわあああああ!本当に口髭がクルッと巻いて天を向いておられる……。どうなってますのあのメカニズム!?はっ、まさか糊で固めて!?
「ぴえっ……ぴょっ……」
「シェリカ……だ、大丈夫か」
そう、この奇妙な音は!緊張しすぎてお腹が痛んで!さっきから喉が勝手にシャックリを致しますのよ!止まってええええ!
すみませんすみません!!だけれど、ロイド様のお手が!背中を優しく撫でてくださるお手が、本当に……優しくて!!
「初々しい我が娘で申し訳有りません」
「良い。またそなたの細君並の豪胆さを見せ付けられても困る」
「……ひっ!」
……おおおおお母様は、陛下に何をなさいましたの……。ああ恐ろしい!!想像を拒否するレベルで何て恐ろしいのでしょう!!
「すぅー……」
吸い込みすぎて脳貧血を起こしそうですわ。
あ、シャックリが止まってしまいました。恐怖でシャックリって止まりますのね。嫌な発見ですわ。
「次の家名はシューホワー家でいいか」
「そうですね。会議の結果、それが宜しいかと」
お父様は何故そんなにフッツーに陛下とお話をされてますの……。あっ、公爵家嫡男で準王族でしたわ。そりゃ知己の間柄ですわね。
……こう、実際に見るとペテンでも詐欺でもドッキリでも無かったんですのね。叔父様もメイクの上手い俳優とかではなくて良かったですわ。本当に。
どうも騙された感が強すぎるんですもの……。
「シェリカ、半年後……シューホワー侯爵家を我々が継ぐことになる。拙い我が身だが精進する故、支えて欲しい」
「ひょは、はい……」
シューホワー……。口を止め損ねて空に飛んでいった風船の擬音みたいな家名ですわね……。
……ではなく。え、ズガタカ侯爵家は?私達はズガタカ侯爵家を継ぐのではなく、新規の侯爵家を継ぐんですの!?
……お、お取り潰し!と、いうヤツですの!?
「クソガキを甘やかすと、碌でもない結果にしかならないからね!」
「……楽しそうだな、カルバート」
「ええ!ええ!義父殿にされて悔しかったですからね!!血反吐を吐いて底辺を転がり此処まで来ましたよ!!」
……義父と言うと、私のお祖父様……つまりお母様のお父様ですわよね。
もう私が生まれる前に亡くなられてますが。
一体、何をされたのかしら。何が起こったのかしら。聞きたいような聞いたら眠れなくなるような、そんな気が致しますわ。
「シェリカも本来の立場に返り咲けたし、真面目にやってきて良かったよ。これでシェリーナと愛の日々を続けられる」
「あの細君と愛の日々……よく送れるな。シュートックのシステムは大したものだ」
陛下のお言葉が気になりますわ。前半は……お母様と愛の日々?無理では?という意味で同意させて頂きますが、後半のお言葉は……?
あの食うや食わずレベルのド田舎で何かそんな……都会的なシステムとか有りましたかしら。それともお母様の飴と鞭?……飴が出てくる事自体稀ですけれど。
「システムに順応していける者しか、生き残れませんからね」
「い、生き残……!?」
「まあいいさ。ふたりで頑張りたまえ。ロイド君は明日からジョギングと薪割りだ!」
「はっ、はい!!」
「薪割り!?お父様、それ関係有りますの!?別宅の暖炉のお仕度を押し付けてはいけませんでしょう!!」
面倒だの何だの去年から仰ってましたものね!?油断も隙も有りませんわ!!
「いや、シェリカ。良いのだ。カルバート様へ私が望んだことなのだ。
物理的にも強くならねば……君を凍った海から助け出したり、炎の中から助け出したり、崖ダイブして助けたり出来ない!」
「普通に命を落としますし助け出せません!そんなことになったら捨て置いてくださいませ!!」
「愛するシェリカ!君を守りたいのだ」
「ア!?アィ……ウォ……アイするぅ!?ど、な、お父様!ロイド様に一体何を吹き込まれましたのよおおおお!!」
ちょっと偉そうで、でもお優しいギャップが有ったロイド様は一体何処へお出でになりましたのよ!?
す、素直な愛のお言葉は嬉しいですけれど……御前に陛下がああああ!!
次はラストですね。




