お父様は曾て平伏す御立場だった
お読み頂き有難う御座います。
今年もどうぞ良しなに。
鼻を明かしてザマァしたのはお父様でモヤッとするシェリカで御座います。
「あー!スッキリした!」
元お嬢様と、何故か侯爵夫妻が引っ立てられて行き……。
なーんかモヤモヤしてる此方に向かって開口一番、それですの!?お父様は何を考えてますのよ!!シェリカ、ブチ切れそうですわ!!
「スッキリしませんわよ!!何なんですか!?結局お父様が良いところをガサッと浚っていきましたわよね!?」
「シェリーナの若い頃に似てきたね、シェリカ。その怒鳴り方は懐かしいよ」
「あのお母様がこんな大声で怒鳴る訳有りませんでしょう!!」
それこそ静かーに見下ろすか、眉を上げるか、口を引き結ぶかしかイメージ有りませんわ!因みに全て静かーに怒っている時のお母様の全リアクションですのよ!
「誰も知らないシェリーナを知っているのは私だけなのさ。フフフ」
え、何ですキモ……!!
いえ、それを上回る腹立たしさですわ。どうなさったのお父様。年に1ヶ月程しか会いませんけどこんなキャラでしたかしら。
「何故あんな事をやらかすおつもりなら、事前に打ち合わせ……せめて、相談が有りませんのよ!!」
あまりの事に、外聞を憚らず怒鳴ってしまいました。ロイド様も肩を落としておられますし!!
「ええー?でも、苦労して情報収集したのお父様だけどなぁ。それでもシェリカは無料で教えろって?
どうしてそんな酷い考えの子になったんだい?」
「そ、それは……」
む、無料……。親子なんだからマケろとは言いづらい言い方ですわ。確かに、王都で情報収集は……大変そうですわ。田舎は勝手に噂が聞こえてきますから迂闊な事言えませんけれど。
「それにシェリカは公爵家から動こうにも動けなかったけど、そこのロイド君はキナ臭いと感じなかったのかな?
ホワー伯爵家の力量の範囲内で動けたね?」
「……っ、それは」
「頼りない限りだ。シェリカをお任せしていいのか心配になってきたな……」
「……不徳の、致す結果で……申し訳御座いません」
「お父様!」
ロイド様は酷く青ざめてしまわれた。それはそうですわよ。先程の事だってとてもショックでしたのに……何故追い討ちを掛けますの!!
「それとも、未だあの小汚ない綿埃娘に未練タラタラかな?それでも良いかと図々しく娘に甘えていたね。馬鹿にしているのかい?」
「違います!!いえ、シェリカ嬢に甘えてしまったのは、事実です」
顎を上げて……滅茶苦茶腹立ちますわねこのお父様のポーズ!!余計萎縮してしまわれたではありませんの!!
「ちょっと、お父様!!さっきの元お嬢様よりもキツイ追い討ちは止めてください!!」
「貴族として甘ちゃん過ぎるね。少し絞った程度でこれとは。蟻が寄ってきそうだ」
「……シェリカ、庇ってくれて嬉しいが、本当の事だ。
本来は私がメリリーンの横暴さを流さずキッパリと更正させ、出来なければ彼女の元を去るべきだった。それなのに君に甘え……」
「聞けば聞く程出来損ないだね」
「お父様黙ってらして!!」
「いいや、言わせて貰うね!
おお気持ちいい!!立場が変わるとこの爽快感!!何という!」
「はぁ?」
……何を言ってますのお父様。滅茶苦茶ノリノリでテンション高くておかしいとは思ってましたけれど。
「しかしシェリカ、情報を教えて打ち合わせしたとして、あそこまで自然に挙動不審に狼狽えられるかい?」
「挙動不審……狼狽え……いえ、その通りでしたけれど」
「シェリカは賢い子だから、事前情報が有ると無駄に落ち着きそうだろう?」
「うっ」
「そこのロイド君は顔芸披露になりそうだしね」
「……ううっ!!」
そ、それは否定出来ませんわ。其処もチャームポイントだとは、思うのですけれど。
「若いとはそう言うことなのさ。
後、君らがあの綿埃娘と侯爵達を直接コテンパンにやっつけるのは良くない」
「何故ですか。私は兎も角、ロイド様は散々な目に遭わされましたのよ」
「……」
でも、せめて自らの手でこう、ガツンガツンと!言葉の鉄槌で打ちのめし!!
……いえ、私利私欲はいけませんわね。私よりも長く苦しまれたロイド様がいらっしゃるのですから。
「鬱憤が晴れませんわ……!!せめてロイド様に……」
「シェリカ……」
「君らが侯爵家を継いだら、あの娘の周辺からも無駄な恨みを買うからね」
「そ、それは」
そう、なりますかしら。でも、確かに知り合いがハメられたら……真偽を知らなければ。
ハメた相手を胡乱な目で見てしまいますわ。で、でも……。
「高位貴族の練られた厭らしさを未だ若い君達に受け止められるかな?
そこのロイド君は、直ぐ凹んでシェリカを矢面に立たせた、役立たずな安物の盾だしね」
「おと……」
あんまりな言い種に、流石に怒鳴ろうとしましたら、目の前を凄い勢いで何かが横切りました。
え?
「カルバート様!!どうか、この私にご指導ご鞭撻の程を!!私は、頼れるシェリカの盾で有りたいのです!!」
……平伏されてますわ。
って、ええええ!?ロイド様がお父様の足元に平伏されて……!!
何て事!血の気がどんどん失せて参りますわ!!
「そんな事をなさらないでくださいませ、ロイド様!!」
「……十数年ぶりだ。こっちの立場に就任すると……何て、気持ちいい……」
「お父様は何を仰ってますのよ!!」
悦に入らないで頂きたいですわ!!
お父様、立場違いで追体験されたようです。




