婚約式に乱入者現る
お読み頂き有り難う御座います。
ちょっと時間が流れました。
「き、緊張するな……」
「さ、左様で御座いますわね」
さて……あれから2ヶ月が経ちました。
雲の切れ間から、天使が降りてきそうな神々しい光が見えてきそうな……まあ、要するに鈍曇りの曇り空ですわ。
えーと、お父様が元高位貴族の嫡男でやらかして……元お勤め先で婚約式をして……奥方様になるなんて……。
……どんな突貫工事のご都合主義の童話でも中々無い組み合わせの展開ですわね。大丈夫でしょうか。
これで私が類い希な美女とかならば、まだ……納得出来るんですが。
デビュタント……は一応古ーいクリーム色、いえ白のドレスでしておりましたけど、それ以来ですわね。こんな……滅茶苦茶気を遣いそうで引っ掛けそうな青いドレスは。
流行りは全く分かりませんが、高価そうな艶を放った胸から腰迄のレースが覆う、上品なドレスです。
こんな正装したこと有りませんわ。感動なんですが、こう……テンションが上がりすぎるのもいけませんので、押さえ付けて眉間とおでこにシワが寄ってませんかしら。
「よく似合っている、シェリカ……」
「有り難う御座います、ロイド様もよくお似合いですわ」
ロイド様はグレーの礼装で、シックな装いですわね。……婦人物以上に殿方のファッションの流行りは分かりませんけれど。
王都に年間1ヶ月しか居なかったもので、流行りを追い掛ける金銭的余裕も有りませんでしたわ。
「良かった……ウチが潰れずに……。本当にシュートックに任せて良かった」
「ええ、本当に……」
「……」
後ろにおいでのズガタカ侯爵夫妻の涙にくれたコメントが、多少居たたまれませんけれどね。
アンタの躾が招いたんだろ、等々と……色々申し上げたい事も有りました。けれど、このようなお目出度いお席に水は差せませんものね。お父様を散々罵りましたし、気は晴れましたわ。細かい事に拘っていてはいけません。前を向かなければ。
ロイド様も素敵な方ですし、婚約者のスライドチェンジ位全く許容範囲ですわ。
いい流れの内に流されて行くのが吉……。
侯爵夫妻の横にいるお父様のボヤーッとした笑顔が気になりますけれど。
「では、婚約指輪を」
「はい」
ああ、ボーッとしておりましたわ。
淡くピンクに光る金色に大きなルビーが飾られた指輪……。内側にはズガタカ侯爵家の紋章が。
赤がテーマカラーみたいですわね。そういえば、侯爵様は赤毛でしたわ。……色味を確認とか認識している心の余裕もありませんでしたわね。
「……これで、貴女は一年後に俺の妻に」
「待てコラ!!何ヒトの家と婚約者奪ってんだ!ドロボーか!?バーロォォーィ!!」
こ、この甲高い不必要にイラッとさせる柄の悪いお声は……。
いきなり開いた窓からは、私には見慣れたランクの装いの、モジャけた頭の方が入ってきました。
……手入れをしないとあの髪質は、あんなにモジャけるんですわね。威勢の割には顔色も宜しくありませんし。
「……誰だ、お前は。衛兵は何をしている」
「お、お父様!メリリーンだよ!?酷いよ!」
実のお父様なのに気付かないのですか!?
どう見てもそうでしょうに……!!
まるでペットですわ。
可愛がるだけ可愛がって躾をせず甘やかして嫌がる典型的なパターンですのね。
「そんな、メリリーン……」
お母様であらせられる夫人は、パッタリと倒れて責任取らず……。ちょっとムカムカして参りましたわよ?
「お前は何故戻ってきたのだ!出ていったのだから勘当したのだぞ!?」
「ち、違うよ!アチシ……わたし、妊娠したの!!其処のロイドの子供だよ!!だから、わたしが継ぐ!」
いえいえいえ、そんな馬鹿な……。少なくとも私の知る限りでは……出ていく前の日まで月の物来てたでしょうが。騒ぎに駆けつけた侍女長のハモニアさん(体調は治られたようで良かったですわ)も怪訝な顔をしていますし。
「……ロイド様、ご安心を。身の潔白は存じておりますわ」
「シェ……シェリカ」
お可哀想に、ショックで青褪めて震えていらっしゃるわ。冷たくなった手を思わず握ってしまいました。
「そもそも、出ていかれて2ヶ月程で妊娠は分かりますの?」
「アァ?んだよ!ドロボー!!大体誰だオメー!邪魔すんな青っちいブス!」
私が歩を進めると、お父様の笑みが深まりました。
……気に喰いませんけれど、対峙しますわ!
警備の不手際は権力による仕込みです。




