過去の因縁
三ヶ月後――
新国王の戴冠式が盛大に行われました。
王妃様が産んだ第一王子殿下。この国の正当なる王太子が漸く玉座に就いたのです。
これほど喜ばしい事はありません。
参列する王侯貴族は知っています。
これが本来の正しい姿である事を――
戴冠式に、先代国王陛下と側妃様のお姿はありません。
一足先に隠居先の離宮へと赴いております。
この晴れやかな日に水を差す無粋な者達など必要ないのです。
結局、ギルバート殿下は何も知らないままでした。
当時、第二王子でいらした先代国王陛下。
その婚約者は私の母だったのですよ?
しかも公爵令嬢である母との婚約は王命でもありました。にも拘わらず、学園で出会った平民出の特別学生と恋に落ち、母を蔑ろにしたのです。
ふふっ。どこかで聞いたような話ですわね。
もっとも、その後の展開はギルバート殿下よりも酷い有り様。
瑕疵のない母を陥れようと画策するのですから。
当時の王太子妃が母の冤罪計画を未然に防いでくださらなければ、どうなっていた事か。第二王子とその一派は親たちに厳しく叱責され、再教育を施されたのですが…彼らは愚かでした。あろう事か逆恨みしたのです。第二王子たちは、母にならず者を嗾けたのです。父が機転を利かせて間一髪で間に合ったものの、それ以来、人に怯えてしまわれましたわ。
当然、第二王子とお母様の婚約は破棄されました。母はその後、父と結婚しましたが、事態はそれだけでは終わりませんでした。
王太子殿下が急死したのです。
死因は突然死。
そのせいで、本来なら王家から排斥されるはずだった第二王子が王太子となったのです。
当時の国王陛下が病気がちであった事もあり、王家には二人の兄弟しかいなかったための決断でした。しかし愚王になるであろう第二王子に実権をゆだねる事だけは出来ません。
そのため、王太子妃、つまり兄嫁を妻にする事が条件とされました。
王家としても苦肉の策だったのでしょう。愚王になると分かっている第二王子に政治を任すわけにはいきません。それに、亡き王太子と王太子妃の間には幼い二人の王子がいたのです。王子達の成長までの中継ぎにとの考えもあったのでしょう。
王太子妃との結婚は書類上のものであり“白い結婚”である事を知らない貴族はおりません。
第二王子も恋人を側妃に出来るならと、その条件を呑んで王太子になったのです。
王太子妃は疑いました。
いえ、皆が疑問視していたでしょう。
あまりにも第二王子に都合のいい展開なのですから。
王太子の突然の死は第二王子とその一派の仕業ではないか、と密かに噂されていました。
ですが確たる証拠もなく、医師が「不審な点は見当たらない」と言うのです。
自国の王子であり、次期国王にそのような疑いをかけられるはずありません。王宮では誰もがその話題を避けたのです。
全ては国の安寧のために。
時を置かず側妃様に王子が誕生しました。側妃様にそっくりの美しい王子殿下が。
その王子の出生を誰もが疑った事も事実です。
王宮に身を置いた期間と出産期間が計算にあわないのです。早産であるのかもしれません。あるいは婚前交渉があったからかもしれません。
誕生した王子の目はエメラルドグリーン。
王家にはない色の目でした。
そして側妃様とも違う色の目です。
偶然にも、その目によく似た者が側妃様の傍にいた事も問題でした。
王太子になった第二王子の側近の中に、二人ほど、その色の目を持つ者がいたのです。
出自の怪しい王子……
誰もが王家の目を気にしてそれを言う者はおりませんでしたが、疑いが晴れる事もありませんでした。