第三王子の死
一ヶ月後、ギルバート殿下は亡くなりました。
護衛のヘンリー・アーダーソンと共にスラム街で見つかったのです。
何故そんな処に、と思うかもしれませんが、ギルバート殿下は“さぼり癖”があったのです。学園の授業をさぼって、ローズ嬢との密会に勤しんでおられたようです。
その日もローズ嬢との密会場所に行く途中に、ならず者らに拉致され数日間行方不明の状態でした。見つかった時は既に事切れており、美しかった美貌が見るも無残な事になっていたと聞きます。護衛として共にいたヘンリーも命だけは無事でしたが精神崩壊を起こしていて、とても話が聞ける状態ではないそうです。
悲しい結果になりました。
国民は愛すべき王子の死を悼み、喪に服したのです。
ギルバート殿下の葬儀は厳かに行われました。
豪華な棺に眠る美しい王子の存在に皆が涙に暮れています。
いえ、生前の美貌の王子の面影を思い出して泣いていると言った方が正しいでしょう。
顔の半分は焼けただれ、青痣だらけの体には無数の傷跡があり、拘束されていたであろう痕までがクッキリと残ったままだという噂です。
そのため、棺は開かれる事はなく、固く閉ざされたまま。
聞いた話では棺の中は全身を覆うようにぎっしりと花々で埋め尽くされたそうです。
私は以前見た、ギルバート殿下と少女が愛し合っている姿を思い出していました。
あの時、花々に囲まれて、殿下は幸せそうに愛する少女を腕に抱いていました。幸せな夢の中にいらしたのでしょう。
私との婚約破棄が無ければ、彼らは今も微笑んでいたのかもしれません。
ですが、どの道、訪れる未来は同じだったでしょう。それが早いか遅いかの違いだけで。
今、この場にギルバート殿下が愛した少女はいません。
平民の恋人が王家の葬儀に来られるわけがないのです。
しかもギルバート殿下の死の原因ともなった曰く付きの少女の存在など、認められるわけがありません。
葬儀は滞りなく進んでいき、ギルバート殿下への哀悼の目録が読み上げられます。
薄いヴェールから、参列している国王陛下を見ると、愛する息子の死を嘆き悲しんでいました。側妃様はショックで寝込んでいらっしゃるため葬儀には欠席しています。
随分と憔悴した姿の陛下の横には、慰めている王妃殿下の姿が目に映りました。慈愛溢れるその姿はどんな場所であっても変わりません。
そっと隣の父を見ると、何の感情も見えない静かな表情の中にうっすらとした喜びの色があったのです。
前を向き、再び嘆き悲しむ国王陛下を見つめます。
お可哀そうな陛下。
何故お父様が味方だと思われたのですか。
幼馴染だから?
親友だから?
だから何だというのでしょう。
お忘れですか?
お父様の妻、私のお母様が誰であるのか。
王妃様はお父様の実の姉君である事を忘れたのですか?
嘗てのお母様にした仕打ち。そして姉を不幸にして、長年に渡って蔑ろにしてきた男を、たとえ国王であろうともお父様が許すはずありません。
棺の中のギルバート殿下の遺体は二目と見られない醜い姿だけではないでしょう。
数多の凌辱の痕があったと報告されています。
行方不明の間にあらん限りの屈辱を味わわされたようですね。ご愁傷さまです。
でも感謝してくださいよ。
あなたが王子でなければ、そのような目にあったという箝口令は敷かれなかったのですから。
ちゃんと“悲劇の王子さま”で終わられたんですよ。
野ざらしにされてなくて良かったですね。
ただ、この葬儀を執り行っている者はお父様の手の者達ばかり。果たして、王家の墓地にいつまで入っていられる事か……
鎮魂の歌が流れてきます。
私は知っていました。
知っていて黙っていたのです。
仕方ありません、私は父の娘。
侯爵家の娘なのです。
でも、安心してくださいね。
ギルバート殿下のためにも私は幸せになってみせますわ。
だって、言ってくださいましたもの「互いに幸せになろう」って。あれが貴男の命運が切れた瞬間でもあり、私が自由になった瞬間でもあります。
鎮魂の鐘の音が聞こえてきます。
私にはそれが一つの復讐が終わった音に聞こえたのです。