王子の恋人はモテモテ
そんな学園に入学したローズ嬢は平民出身という事で、悪い意味で注目を浴びたのは致し方のない事でしたが、彼女の可憐な容姿も注目される要因でもあったと思うのです。
ピンク色のサラサラの髪をなびかせて快活に笑い、零れ落ちそうな大きな青い目に見上げられ、悩ましいボディで腕に絡まれると男の欲望が沸き立つほどに。
そして貴族令嬢には見られない明け透けな物言いと屈託のない性格が、本心を押し殺しアルカイックスマイルを常備する貴族の女性を見続けてきた男達の目には新鮮で、さぞかし魅力的に映った事でしょう。
殿下もまたその一人でありました。
ローズ嬢に魅かれていくのに時間はかからなかったようです。
もっとも、殿下がローズ嬢に魅かれたのは彼女が側妃様に似ていたのも一因でしょう。
側妃様と同じ髪の色、同じ瞳の色、同じように愛らしい容貌、そして同じ境遇。親近感が最初からあったのかもしれません。
殿下が彼女に魅かれていく速度と共に、私たちの関係もそれに比例するかのように悪くなっていったのです。
男子に対する距離感をローズ嬢に注意すれば、虐めだと取られ、お茶会に突然参加であらわれた彼女に招待状が無い者は入れない事を教えると、嫌がらせだと言われ、廊下でいきなりぶつかってきた彼女が勝手に転べば、わざと転ばせたのだと責められました。
私を疎んじているギルバート殿下。
そんな殿下に、こちらが義理立てする必要性などありません。
私とギルバート殿下の婚約は、殿下有責での白紙が決まりました。
王家、正確には国王陛下が我が侯爵家への賠償金と慰謝料を支払う事で合意したのです。
その額は陛下の個人資産を吹き飛ばしたとかなんとか…
国王陛下は事の責任を取るため近々退位し側妃様と共に離宮に隠居する事が決まりました。たかが臣下の娘との婚約破棄に有り得ない厳しさだと感じる者もおりましょう。
それもやむを得ない事。
本来は貴族の手本にならねばならぬ王族の醜態。それは確実に貴族たちからの信頼を損ねる行為であり、しかもこれで二度目ともなると、もはや後はありません。やらかした王子が側腹であった事も大いに影響しているのです。
これだから平民出身の王子は……と、多くの者が思った事でしょう。
そして同時に過去の出来事も思い出した者も多かったはず。未だに風化しきれていない悪夢が蘇ったかのように、国王陛下への失望の声が囁かれるのです。
ある疑惑の声も多く聞かれ始めている状況なのです。
その疑惑を鎮めるためにも表舞台を退く決意をなさったのかもしれません。
あの第三王子は本当に王家の血を受け継いでいるのだろうか……という噂を。