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婚約者からの婚約破棄


「アナスタシア、何だ急に。不敬だぞ」


「殿下、このような人目のある場所で堂々と淫らな行為に及ぶのは如何なものでしょうか」


「何が言いたい」


「戯れで野に咲く花を手折る行為は紳士のなさる事ではありません」


「なんだと!」


「しかも、場所が屋外である事も品性の下劣さを感じさせますのでお止めください」


「アナスタシア!!!」


ギルバート殿下の激昂したお顔は真っ赤になっています。睨みつけてくるエメラルドの瞳に私に対する情は一切見受けられません。

これが長年の婚約者に対する態度ですか?

まったく。今まで被っていた猫を自ら脱いでどうするのです? 

お馬鹿さんですね。


「一時の戯れであったとしても、女性にとっては致命的な問題です。あらぬ噂でこの先の人生が台無しになる恐れがございます。どうぞご自重ください」


貴族令嬢にとって貞淑さは大事な事です。あらぬ疑いをかけられたら、それだけで商品価値が落ちるのですから。市井ではそうでもないようですけど、ここは貴族専用の学校でもあるのです。

郷に入っては郷に従え、そうでしょう?


「一時の戯れだと…そう申すか」


「はい、違いますの?」


「違うと言えば如何する」



宝石のような目が冷ややかに私を捉えます。


「俺はローズを妻に迎えるつもりだ」


真剣な顔でお馬鹿な事を言いだす殿下。

そんな事が出来ると思っているのでしょうか?


「そのような事、我が父が許すと思いますか?」


「何故そこに侯爵が出てくる? 父上にお頼みすればよいだけだ」


あらあら、我が侯爵家の入り婿の分際で何を言ってるんでしょう。

それとも侯爵家の乗っ取りでも考えているのでしょうか?


「殿下はお忘れかも知れませんが、私たちは婚約してますのよ?」


「勿論、そのために父上にお願いするのだ。俺達の婚約を白紙に戻してもらえるようにな。その後で、ローズを王子妃として娶ればよいだけだ」


思っていた通りの馬鹿です。

御自分が婿入りする事を御存知ないようですね。

まぁ、ギルバート殿下を猫可愛がりしている陛下ですから、ギリギリまで仰らないとは予想していましたけれど。

これは酷いですわ。

やはりキチンと教え込んでおかないといけません。


「殿下、彼女は平民出身ですよ」


「知っている。だがそれがなんだ。貴族の養女にすれば何の問題もない!

ローズが貴族令嬢になれば身分の問題は解決して娶れるだろ! 俺は母上もそのようにして父上と婚姻したと聞いたぞ!」


ああ~、このバカ王子は何も分かっていらっしゃらない……


何一つ……


「たとえ貴族の養女になる事が出来たとしても彼女の元の身分は変えられませんわ。彼女を望みますの?」


「無論だ! くだらない身分制度で愛し合う者同士が一緒になれないのはおかしい! 本来、結婚とは愛し合う者とするものだ!」


「……本気で言ってらっしゃいます?」


「本気だとも!」


ギルバート殿下は何故そんな事も分からないのかというように、見下すように私を見下ろしていますけど、分かっていないのは貴男の方ですよ。


陛下の寵愛深い側妃様は確かに元平民出身。

王宮にあげるために、側妃様を娶るために陛下は無理を通して貴族の養女にしたのです。

そこにあった過程を殿下は何もご存じない。


「それでは殿下は私との婚約を破棄して、ローズ嬢と御結婚なさるおつもりなのですね?」


確認のために問うのです。

答えは分かっていますが、念には念にと言いますからね。

後から、「間違いだった」と言われても私が困るのですよ。

ギルバート殿下は腕の中のローズ嬢にとろけるような笑みを見せると、私に向きあい、そして。


「そのつもりだ」


と、宣言なさった。


「さようでございますか。殿下のお気持ちはよく分かりましたわ。

殿下からそのようなお申し出があった事を我が父に伝えておきます。明後日にでも王宮にて話し合いが行われると思いますので、よろしくお願いしますわ」


「あぁ、アナスタシアなら分かってくれると思っていた! 君も愛する人を見つけてくれ!」


「……はい、私も今度は()()()()()()()()()()を見つけますわ」


「それがいい! 互いに幸せになろう!」


殿下に囲われていたローズ嬢が、一瞬ニヤリと勝ち誇ったかのような微笑みを向けてきました。

哀れな方です。

たった一人の少女のせいで、そう思うと少々胸が痛みますわ。

どうやら長年の付き合いで、私も殿下に()というものを持っていたようです。

けれど感傷に浸ってもいられません。

私は侯爵家の娘としてやらなければならない事があるのですから。


「ではお先に失礼させていただきます。ごきげんよう」


殿下に対して()()()()()()()()をすると踵を返して立ち去りました。

さようなら、ギルバート殿下。

私は振り返りませんわ。

ですから、殿下も決して振り返らずに突き進んでください。


近くに待機していた護衛に指示すると、目立たないように自宅へと向うように命じます。

事の顛末を父に報告するために。

そして、これから起こるであろう事態に備えるために。


「セシル、私は暫く学園を休学いたします」


「アナスタシア様。何時までとお聞きしても宜しいでしょうか?」


「全てが落ち着くまでと言いたいですわね。尤もそれが何時になるのかは未定ですけど、恐らくそう長くはかからないと思うわ」


「畏まりました。他の者達も全て引き上げさせておきましょう」


「頼みますね。それと例の者達はそのままでお願いするわ」


「承知いたしました。ではそのように手配いたします」


そうして、私は学園を後にしたのです。


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