婚約者の恋人は問題児
「ギルバート殿下、このように人目に付く場所での逢瀬はマナー違反でしてよ。相手の女性に対しても、私に対しても、配慮が欠けていらっしゃいますわ」
私の声に、抱き合って接吻を繰り返していた男女のカップルが振り向きました。
カップルの相手は、私の婚約者であるギルバート殿下。相変わらずの美貌が目に痛いですわ。嘗ての美少年は成長し、今では眩いばかりの美青年におなりです。しかも文武に優れておいでで、国民に人気の高い王族でもあります。幼少期のバカっぷりが嘘のようですわ。
そして浮気相手? 未来の愛人? は、ローズ・アムストア嬢。王族や貴族御用達の学園において、珍しい平民の学生。数年ぶりに特待生として入ってきた、ピンクブロンドに青い瞳を持つ庶民の少女。
彼女はギルバート殿下と同級で、学園に入るや否や、次々に有力貴族の子息を虜にしていったという“魔性の女”と専らの噂です。
その噂は、校舎も違えば学年も違う私の耳にも入ってくるのですから、相当ですわ。学園で彼女を知らない人はいないでしょう。なにしろ高位貴族を取り巻きにしているのです。嫌でも目立ちます。
私の婚約者である、第三王子のギルバート殿下。
宰相の長男であるチャールズ・ゴートン。
近衛騎士団団長の後継者であるヘンリー・アーダ-ソン。
公爵家次男であるアーサー・モリス。
揃いも揃って、婚約者のある身でありながらローズ嬢の傍に常に侍り、学園の風紀を乱しまくっている方々です。ローズ嬢の本命はギルバート殿下のようですが、他の方々とも何やら怪しい関係だと噂が立っている始末。
最近では学園中が彼らの行動に眉をひそめる者ばかり。
いい加減気付きそうなものなのに、全く気付く様子が無い彼らの神経の太さに呆れを通り越して感心してしまいます。
学園でも既に事の対応に追われて大忙しのようですわ。
各家庭に事の詳細を伝えており、特に、取り巻きと化している四人の家では、今もって対処に追われているとか。
それも仕方のない事です。
国内でも有数の貴族子息ばかりを周りに従えている少女は、他の女生徒から白い目で見られ、遠巻きにされているにも関わらず、全く態度を改める事が無いのですもの。加えて、少女と親しかった婚約者持ちの中には、婚約破棄をされた者もいるのですから。被害拡大を防ぎたい学園側の気持ちが痛いほど分かりますわ。
その頭脳を期待される特待生とはいえ、高位貴族や王族に媚びを売る平民の少女。その手練手管によって男子学生は骨抜き状態です。噂では教師も含まれているとか。
各家も問題視し始めた。
当然でしょう。
一時の気の迷い。若さゆえの過ちであればいい。
それが本気なら?
彼らがローズ嬢と婚姻を結びたいと考えていたら?
それが出来なくとも愛人にと望んだら?
一人の少女に複数の男性が群がっている状況なのです。
その少女が万が一妊娠していたら?
子供は果たして誰の子であるのか……