王子妃ではありませんよ?
お父様が陛下に安請け合いして、娘を第三王子の婚約者にあてがいやがった日から数年。
ギルバート殿下とはあれ以来、可もなく不可もない関係を維持しております。
陛下から叱責を受けて、私に対して暴言、暴力はなくなりました。相変わらず不遜な態度ですけどね。それと、驚いた事に、まともに教育課程を受けているそうです。受けさせていると言ったほうが正解でしょうけど。
まぁ、陛下も婿入りできる令嬢が少なくて必死なんでしょう。
私を逃したら下級貴族しか婿入り先がありませんものね。王族が下級貴族に婿入りなんて考えられません。かといって王族のままではいられませんし、周りも許さないでしょう。
王子といっても側妃腹の三番目です。
よほどの事が無い限り王位は巡ってきません。
それに、側妃様は元平民です。
側妃様を娶る時にもかなり揉めたと聞いておりますし、ギルバート殿下が成人したら、王位継承権を放棄して、我が家に婿入りする事は決定事項でしょうね。
正式な発表がありませんから、同年代や殿下自身はこのまま私が王家に嫁ぐものと思っているようですが、それは有り得ません。
私は王子妃教育など受けておりませんもの。
王族の妻というよりも、未来の侯爵夫人としての教育を施されてきましたから間違いありません。正確には、お飾りの夫を表に出して、妻として実質的な侯爵家の当主として裏で采配を採る教育なのですが。
なにせ、お父様ときたら。
――アナスタシアが実権を握るんだから、矢面に立つのは頭スカスカの方が都合がいいだろう?
とびきりの美人を用意してあげるよ。お飾りのお人形は綺麗な方がいいだろう――
これですからね。
陛下とは幼馴染の親友と聞いていますけど、お父様の王族への対応は不敬を通り越しています。
御自分が凄まじく失礼な事を言っている事をご理解していないんですもの。
まぁ、私も人の事をとやかく言えませんけどね。
ギルバート殿下との関係も成長するにつれ、マシになってきました。良くなったと言えないのが残念ですが、こればかりは仕方ありません。
何事も相性というものがありますからね。
王子として甘やかされてきたせいか、ワガママで尊大な処は直りませんでしたけど、初めに比べたら天と地ほどの違いはあります。それに王侯貴族の男性は総じて傲慢ですから、ギルバート殿下の態度は許容範囲内に収まるレベルになった事も僥倖でした。
これなら結婚しても我慢できるレベルなので、問題ありません。
幸か不幸か、私とギルバート殿下は二歳差。
学園在籍も一年被る程度でした。
それも良かったのでしょう。あまり長く共にいるとイライラしてしまいますからね。適切な距離感を取れれば何とかなります。
我がロージアナ王国は、貴族ならば六年間の王立学園に在籍しなければなりません。地方からの貴族のための寮も存在していました。
私は王都出身でしたから、実家からの登校でしたわ。十二歳での寮生活など寂しくて泣いてしまいますからホッとしたものです。
学園入学後も特に問題なく、といいますか、ギルバート殿下は男友達との遊びの方が楽しいらしく、月に一度お茶をするぐらいの関係に落ち着きました。
あら、少ない逢瀬でしょうか?
私も読みたい本が沢山ありましたから、ギルバート殿下の自慢話を聞く回数が減って安堵しました。一度話し出すと止まりませんからね。
私たちの距離感はこれぐらいが丁度良かったんです。
そう、それが壊れたのが十六歳になってからの事…学園に編入生が入って来てからおかしくなったのです。