綺麗なお人形さんの婚約者
「いや~、一時はどうなるかと思ったけど、あの後仲良く遊んでいたし良かった良かった。ギルバート殿下もアナスタシアが気に入ってくれたようだしね」
「……」
王宮からの帰りの馬車の中で、お父様がアホな発言をなさいました。どこをどうしたら気に入るのです?
「でもね、始めの挨拶は不敬だったよ? あれでも一応王子様だからね」
「陛下からは事前に不問に処すとの許可を取ってたのはお父様ではありませんか」
「まあねぇ、ワガママ王子だと評判だったから保険は必要だろ?
後ろ盾を持たない劣り腹の王子であっても、腐っても王族だからね」
「……」
策士です。
流石は、王国を陰で操ると言われるリマノヴァ侯爵です。
「お父様」
「ん? 何だい?」
「本気でギルバート殿下との婚約を進めますの?」
「もちろんだよ~。そうじゃなかったら顔合わせなんてしないよ」
「そうですか……」
「あれ? 不満かい? 結構仲良くしていたのに」
あれで仲良くとは…お父様の目には仲良く映っていたのですか?
周りは顔面蒼白でしたよ。
ムリもありませんね。
「お互いをよく知るために」なんて言って、殿下に庭の案内をさせた大人たち。
のこのこついて行った私に待っていたのは殿下からの嫌がらせでしたわ。
あの馬鹿王子、落とし穴に私を落としやがったんですよ!
それ見て指さして笑うゲス野郎です。
ムカついたので殿下の足首捕まえて落としてやりましたわ。
どうやら、やり返される事には慣れていないのか落ちたら煩くギャン泣きされましたわよ。
あんまりにも煩いから鳩尾に一発くらわせて黙らせた後、殿下を踏み台にして穴から脱出しましたけど。おかげでドレスが汚れるし、髪もボロボロになるし、踏んだり蹴ったりです。
「でも、美しい王子だろう?」
「確かに綺麗でしたわ」
「そうだろう、そうだろう。アナスタシアは綺麗なものに目がないからね。きっと気に入ると思うよ」
何だか人形を与えられたような事を言われましたが、殿下は生き物ですよ? 分かってますか? お父様?
ですが、本当に綺麗でした。
悔しいですけど。
黄金の髪にエメラルドグリーンの瞳、陶器のような肌、整いすぎた顔立ち、まるで一流の人形師が丹精を込めて作った傑作の品のようでした。
流石は、国王陛下の寵愛を一身に受ける側妃を母に持つだけの事はあります。
王子は母親似だったのです。
そのため父親の国王陛下からも溺愛されていましたわ。
その分、躾がなってませんでしたけど。あれ、直りますの?