マリッジブルー?いいえ違います
半年後には結婚式。
学園を卒業して直ぐの婚姻のせいか慌ただしい日々を送っております。
もっとも、忙しいのは屋敷の使用人たちで私ではありませんけど。
何しろ私は嫁ぐ側ではないのですから。
そう、一人娘である私は入り婿を取る側です。
結婚が近づいているせいか、何かと昔の事を思い出します。
名門の侯爵家に生まれ、何不自由なく育った私にとって、唯一の災難が男運の悪さだったと、しみじみ思い返しております。
正確には、父が選んだ男ですが……
そう、最初の婚約者は、この国の第三王子。
ギルバート・ロージアナ。
今の国王陛下と側室の間に誕生した美しい王子様。
僅か三歳で婚約した彼と会ったのは、私が五歳の時。王宮でのお茶会の時でした。
「お前が僕のこんやくしゃか? へいぼんな顔だな。僕はおかあ様のような美しいひとがいい!」
子供が何かほざいています。
「初めまして、ギルバート殿下。リマノヴァ侯爵家が娘、アナスタシア・リマノヴァと申します。以後お見知りおきを。早速でございますが、お美しい殿下の脳も、花の顔同様に綺麗なお花が咲いていらっしゃるようですね。流石は第三王子殿下でいらっしゃいます。生まれながらに侯爵家を背負っていく私とは違って、随分と軽いようで、羨ましい限りですわ」
アナスタシアは幼いながらに完璧なカーテシーを行い、毒を吐く。
「?なにをゆってるのだ??」
「……どうやらマトモな躾すら出来ていらっしゃらないようですわね」
「???」
国王陛下と側室が真っ青な顔になっていくのが分かります。
溺愛する王子を甘やかしている事は有名な話です。教育係を次々に辞めさせている事を知らないとでも思っているのでしょうか?
教育者として名高い方々が、第三王子の「厳しすぎる!もう嫌だ!」の言葉で次々とクビにされている事実は貴族社会で知らない者はおりません。
「あらあらあら、困った坊やですわ」
「だ、だれがぼうやじゃ!!!」
お顔を真っ赤にした、小生意気な王子様。
子供なので沸点が低いようですね。
「おまえとなんか、こんやくしねぇ!!!」
「まぁ、それはありがとうございます。私も殿下のお守をしなくてよいのですね。嬉しい限りですわ」
にっこりと微笑んで言ってやりました。
あら? 目に涙を浮かべてますわ。
見てくれだけは一級品なせいか、中々くるものがありますわね。加虐趣味は有りませんでしたけど。
「ぼくは王子なんだえらいんだぞ!!!」
「なら私が婚約者でなくてもよろしいですわね」
「あたっ「はははははっ、すまないな、アナスタシア嬢」…っおとう様?」
「ギルバートはまだまだ幼いのだ。私の方からよく言い聞かせておこう! これからよろしく頼むぞ」
「…かしこまりました」
国王陛下直々に頭を下げられては仕方ありません。
見てくれ王子も父親である陛下に片手で頭を押さえつけられていますから、憎まれ口も叩けないようですわ。
そうして、少々?トラブルがありましたけど、私と第三王子との婚約が相成りました。
今思えば、顔なじみになって、幼いうちから親しむようにするための王家と侯爵家の策略でしょう。そんな事も知らずに、美しい王子様に一瞬でも見惚れた私はアホです。
もっとも、中身がお子ちゃまでは話になりませんが。
あら? 殿下は紛れもなく子供だと?
そうですね、ただし私よりも二歳も年上の七歳ですけど。