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神々の悪戯

「サンクレイア」

 食前の挨拶を済ませ、早速ゴランにパーティーでの様子を根掘り葉掘り聞き出すことにする。ゴランは少しだけ嫌そうな顔をしたし、変わらず芝居がかった口調ではあったが、質問の一つ一つに真摯に答えてくれた。


 休憩後は、再び馬車に乗り込んでアルフィードを目指す。今日は草原の中腹で夜営し、明日森の手前まで行くそうだ。


 今いるメンバーの中で一番就寝の遅い俺が一人で真火廣金(トゥルー・ヒヒロカネ)の生成をしていると、逃げるように床についていたゴランが起き出してきた。


「──約束、覚えていたんだな」

「これでも私は今宵の語らいを楽しみにしていたのです。──貴方は違うかもしれませんが」

 ゴランが不敵な笑みを浮かべる。言動も雰囲気も全く違うのに、何故かゲオギオスの姿がチラついた。


「そうか」

「浮かない顔ですね。今宵の語らいは貴方が望んだことでしょう。聞きたいことも山ほどあるのでは?──例えば、貴方と同じ師を仰いだヴィオラ・ナタリアの事とか」

「……聞けば話してくれるのか?」

 俺が話を切り出せずにいたのは、ゴラン・ザスタレスという人間がわからないからに他ならない。ただ、この半日の間彼はあくまでも紳士的に応えてくれている。


 前世では、どれだけ後悔しても叶わなかったが、勇者や魔王といった呪いのような宿命(あしかせ)もない今なら、彼ともまともな話し合いができそうだ。


「勿論ですとも。最も、私の知る限りのことだけですが」

 ゴランが馬車から降りる時に持ってきていたワインボトルを俺の目の前に差し出す。

 毒の類はなさそうだ。それを確認してから、【四次元空間】からグラスを二つ取り出した。


「神々の粋な悪戯(はからい)に」

「……」

 本意ではないが、ワインの注がれたグラスを鳴らす。

 ワインが安全であることを証明するかのように、ゴランは躊躇いもなくグラスを傾けた。


「──彼女、ヴィオラ・ナタリアを魔王軍に引き込んだのはダヴィドです。ヴィオラの類い稀なる剣捌きに、初め捕虜にした彼女をダヴィドは客将として迎えようとしました。勿論それは断られます。彼女は人間なのですから」

「だろうな」

 《烈火のダヴィド》。確かに彼ならヴィオラをさえ打倒し得ただろう。否──彼とゲオギオス以外のメンバーではそもそもヴィオラとはまともな打ち合いにすらならなかったはずだ。


「ただ、それでもダヴィドは諦めませんでした。神器無しで神器であるアギテルシアを持つダヴィドと対等に打ち合える程の剣士。それ程の人材を無為に殺すことはどうしても憚られたようで」

 ゴランの話を要約すると、ダヴィドは説得に説得を重ね、ヴィオラを魔王軍に引き抜いたらしいことがわかった。


 ある日は隠蔽された歴史の真実を語り、またある日は魔族の倫理観を説き、またある日は世界を統治した先の未来を語り──その先にある“争いのない世界”を見たヴィオラが魔王軍の元で剣を振るう道を選んだそうだ。

 その後、魔王城に召還された彼女はそこで【アクワグラシェリア】に見染められたらしい。


「彼女はよく尽くしてくれました──彼女の望む争いのない世界を実現するために」

 自身の手元に咲いていた花を慈しむように撫でたゴランは、一思いにワインを煽ると、ボトルから二杯目を注いだ。


 翌日、いつもより少し早めに目を覚ましたところで、既に起きているらしいリディアの姿が目に入った。


「おはよう」

「あぁ、おはよう。リディア」

 どうやら、彼女は朝の祈祷をしていたようだ。


「ねぇ、ルシェフ。昨日から聞きたいことがあったのだけど……」

 何か言い辛いことなのか、目を開けてこちらへと振り返ったリディアは俺の顔色を窺ってきている。


「何だ?」

「……その、レオナちゃんって、ルシェフの彼女さん?」

 リディアが俯き、寝ているレオナに目を向けながらそう告げた。


「そうだけど?」

 お互い明確にそう確認したわけではないが、そう見て問題はないだろう。他所ではどうかは知らないが、西や中央ではこれが普通だったしな。


「やっぱり、そうだよね……あれだけ時間が経ってれば、恋もするし、彼女の一人くらいは出来るもんね……」

 俯いたままで、リディアが捲し立てるようにそう漏らす。今の彼女が発する淡白な声からは、感情を読みとることができなかった。


「……」

 何となく気まずい雰囲気になり、小さく寝息をたてているアルマの方に視線を向ける。


「……お兄ちゃん?」

 視線に気づいたのか、半身を起こしたアルマが、小さくあくびをしている。寝起きだからということもあり、少しだけ寝癖がついていた。

 昨日は俺とゴランの話が終わるまで起きていたようだから、よく眠れていたようで安心する。


「悪い、起こしたか?」

「ううん、大丈夫……」

 俺の言葉にアルマが眠たそうな声でそう答えた。

 元々、他人からの視線や気配には敏感な節はあったため、起こしてしまったかもしれないな。


◇ ◇ ◇


 俺たちがアリオンを発ってから一週間ほどが経ち、昼過ぎにセンタリーに着いた俺たちは、今日は宿で休むことにした。商隊とは、明日の朝合流する予定だ。


 森を進む途中、件の敵に遭遇しないか内心少し不安があったが、【天啓】の能力を持っているらしいリディアが事前に敵の存在を察知し、それを商隊のまとめ役に伝えることで、迂回して回避することに成功する。

 商隊のまとめ役がリディアの話を信じてくれるかはかけだったが、どうやらリディアの能力は西の国でそれなりに有名だったようで、無事に信じてもらうことが出来ていた。


 無事に宿を見つけた後はオリビア達と別れ、レオナと二人で少し早めに夕食の買い出しに出ることにする。


「今から夕食の買い出しに行くけど、三人はどうする?」

「じゃあ、ついていこうかな」

 アルマは二人に目配せしてどうするのか確認し、その後でそう答える。


 アルマ自身、三人の中で一番若いため少し予想外ではあったが、会ってからの三人の様子を見ている限りだと、パーティーをまとめているのは彼女のようだ。


 三人ともついてくるようだったので、そのまま五人で買い出しに向かった。

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