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青薔薇の女王

「見つけた」

 俺たちが“魔境キシマ”の主を探し始めてから二日が経ち、特にめぼしい成果も得られず、言いようのない焦燥に駆られながら捜索を続ける中、左方面に展開していた俺の索敵が、ついに主の反応を捉えた。


「左前方に主がいるみたいだ。すぐに向かおう」

 他のメンバーにそう伝え、別の方向に展開していた二人の俺には一度戻ってきてもらう。


「ブラウンさん」

 オリビアの索敵にも、主の反応があったようだ。


「あぁ。それが、“魔境キシマ”の主、青薔薇の女王だ」

 前に視線を向けたまま、後方にいるオリビアの声に応える。


「周囲にも複数のトレントがいるようだ。相手の能力もわかっていないから、気を引き閉めていくぞ」

 振り返り、各人が頷いたことを確認する。


 トレントというのは、魔素を吸収し過ぎた大木が変異した種である。彼らがどのようにして意思を持ち、行動することができるのかなどの経緯は専門家ではないので知らないが、魔素を吸った大木に精霊的な何かが寄生したという説が有力らしい。


 そして、《青薔薇の女王》の元へと進むこと十数分、ついに奴の姿を視認することが出来た。


 《青薔薇の女王》は、人間の女性と大差無い姿をしており、大きな青薔薇の花弁に腰かけ、同じく青い長髪を風に揺らしながら、ぼぅっとした様子であらぬ方向に目を向けていた。


 衣服を着ているわけではなかったが、奴の肢体には青薔薇の蔓が巻き付いており、奴の肌は完全に露出されているわけでもない。

 それでも、スレンダーな体型であることは窺え、それとは裏腹に出ているところはしっかりと出ており、どこか扇情的な姿をしている。

 情報通りアルラウネの変異種と見て間違いないだろう。


「ルシェフさん……!」

 突然の怒声に驚いて横を向くと、頬を膨らませているレオナの姿を確認できた。


「レオナ?あんまり騒ぐと──」

「今のは、ブラウンさんが悪いですよ」

「──え?」

 俺の言葉を遮りながら、オリビアに窘められた。

 知らぬ間に何かしてしまったのかもしれない。

 事情は良く分からないが、レオナには後で謝っておこう。


 《青薔薇の女王》たちに気づかれないギリギリの距離まで近づくと、先に二人の俺を先行させ、俺とアメリア、ニコがそれに続いて飛び出し、最後尾をオリビアとレオナ、四人目の俺が務める。

 今回は、相手の能力も良く分かっていないため、全員に【ロニギスメイシュ】をかけておいた。


「下だっ!」

 地面の微かな揺れに気づいた俺の声に全員が跳脚し、突如として地面を突き破って出てきた無数の蔓が、俺たちを貫かんと飛び出してきた。

 これは、アルラウネの得意とする奇襲手段の一つなので、やはり俺たちには気づかない振りをしていたようだ。


 《青薔薇の女王》は、俺たちが奇襲を避けたことを確認すると、こちらへと振り返り、俺の方を見て妖美な笑みを浮かべる。

 それと同時に、周囲にいた複数のトレントが俺たちの元へと駆けるような速度でにじり寄ってきた。


 それに対し、俺たちは当初の予定通りに左右のトレントを最前衛である二人の俺とオリビアに任せ、俺とアメリア、ニコは真っ直ぐにアルラウネを目指す。

 そして、《青薔薇の女王》の周囲にある蔓に関してはレオナが対応し、後衛二人の周辺の蔓と二人の護衛は四人目の俺に任せていた。


「جنس جنس──」

 《青薔薇の女王》がそっと立ち上がり、両手を前に出した。

 そのままゆったりと両手を胸の辺りへ当て、歌うかのように声を上げる。

 ──が、《青薔薇の女王》が何かをする前に、ニコの投げたナイフが奴の右手を突き刺さり、《青薔薇の女王》が短く悲鳴をあげた。


「ルシェフ!」

「わかってる!」

 アメリアの言葉にそう返し、好機(チャンス)とばかりに《青薔薇の女王》に接近する。


 《青薔薇の女王》の周囲の蔓が、慌てたように俺たちの前に集まるが、レオナが足元に展開している専用の魔方陣により、簡略化した詠唱を用いて連続で放たれる【炎の弓】によって、その全てが射抜かれ、焼き払われた。


「──‼︎」

 遠くて何を言っているのかまでは聞こえなかったが、レオナは何やら叫ぶのと共に、《青薔薇の女王》へ向け【アトラフェニクス】と同等の大きさを誇る極大の火球を撃ち出す。

 計画にはレオナから本体への攻撃が含まれていなかったが、周りの蔦は対応してくれていたので、問題ないだろう。


「愛されてるね……」

「そう、なのか?」

 アメリアが乾いた笑みを浮かべる。半竜人である彼女にはレオナの叫びが聞き取れたのかもしれなかった。


「الحروق تؤ‼︎」

 火球の直撃した《青薔薇の女王》が断末魔を上げる。自在に扱えるのが蔦と周囲にいるトレントくらいしかないであろう彼女には、あの圧倒的な質量を持つ火球を止めることなどできるはずがなかった。


 先程までの妖美な笑みは何処へやら、憤慨して我を忘れたように見える《青薔薇の女王》が、自身に巻き付いていた蔓を伸ばし、俺たちを貫かんとする。


「アメリア!」

「うん!」

 俺の意図を察したアメリアが頷いたことを確認すると、彼女にかかった【ロニギスメイシュ】を解いて【リズスワデ・スマアベル】をかけ直し、俺が先行して向かいくる全ての蔓を斬り落とす。

 そして、俺の後ろから飛び出したアメリアが、力一杯に振り上げたハルバートを振り下ろし、《青薔薇の女王》の本体を両断した。


「こっちも終わりました!」

 全てのトレントを倒したらしいオリビアが、安堵の笑みを浮かべながら手を振っている。


「そうか。周囲に敵のいる様子もないし、ここで一回昼食にしよう」

 索敵にも反応が無いので三人の俺を戻してそう告げる。


「ねぇ、これ」

 後衛のレオナと《青薔薇の女王》の魔石を回収しに離れていたニコも合流し、何かを見つけたらしいニコが、それを見せてきた。


「……体液か何かか?」

「わからない。ギルドで鑑定して貰った方がいいかも」

「そうだな……」

 劇物の類だったら嫌だしな。何より、変異種から手に入れたものだ。下手に手を出して価値を下げたくはないのもあるが。


 一日夜営し、次の日の昼過ぎには町へと戻ってきた俺たちは、一度宿に戻ってから、少し時間を置いて近くの喫茶店で夕食を済ませる。

 酒場を選ぶとオリビアが自然に飲む状況になってしまうし、いくら東の国がバーガーを主食としているとはいえ、いつもバーガーだと飽きるからな。


 このままギルドに行くことも考えたが、少し野営も続いてしまったし、今日は仕事のことは忘れて宿で大人しく休むことにした。

 王女への報告も必要だろうが、彼女のことだ。どうせ時間を見計らって顔を見せに来るだろうから、その時に報告をしておけば大丈夫だろう。

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