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真昼のお茶会

「それで、こんなところに連れてきて何が聞きたいんだ?」

 バードリーに連れられ、俺たちはあの通りから少し離れた喫茶店に来ていた。

 あの憲兵団の目的はわからないままであったが、彼らはいつの間にやら姿を眩ましていた。


「もう、せっかちな男の子はモテないよ〜?」

「バートリー、話を逸らさないでくれ」


「はいはいっと。頼まれたことは二つ。オリビアちゃんが持っているはずの魔石の回収と、可能であれば彼女を連れ戻すこと」

「──話を聞くだけで良いって話じゃなかったか?」

「そうだよー。持ってないなら私がここにいる意味もないし、駄目なら連れ戻す必要もないからね」

 届いた珈琲に足した過剰な砂糖をじゃりじゃりとスプーンでかき混ぜながら、バートリーは楽しげに語る。


「悪いが、魔石は俺たちの手元にないし、行方も知らない。──そうだろ、オリビア?」

「……はい」

 夥しい数の砂糖を溶かすバートリーを引き気味に見つめていたオリビアが重々しく頷く。


「それで?オリビアちゃんはそれをどう証明するつもりなのかな?」

「どうって……」

 持っていない事を証明する手段などそもそもあるはずがない。今は手元になくても、何処かに売っただの隠しただの難癖をつけられるだけだ。

 証明するのなら、それこそ本物を見つけでもしないといけないだろう。


「──俺たちに魔石を探せって言っているのか?」

「それは早とちりだよー。魔石はどうせすぐに出てくるだろうからさ。一緒にストルワルツに帰らない?」

「私は……」

 オリビアは困ったように眉尻を下げる。《ストルワルツ》に戻るということは、あの二人とも会わないといけないことを意味していたし、戻りたくない思いの方が強いのかもしれない。


「オリビアちゃんが望むのなら、あの二人をギルドから追放してもいい。なんだったら、私たち(ペルシャン・シャドウ)の手で相応の罰を与えることもできる」

「そんなこと、私は──!」

 そう叫ぶオリビアに、バートリーは愉しげに笑って返す。


「勿論望まないよね。でも、アンナちゃんはそれだけ本気だってこと。普段なら、私たちがここまで来ることなんてないんだよ?例えあの二人(主力メンバー)を失うことになっても、──それでも、オリビアちゃんだけは譲れないって」

 それがアンナの意思ということだろう。彼女はオリビアの才能を知ってか知らずか、かなり贔屓にしていたからな。


「破綻しているな。証明も何も、魔石を持っていないと自分の頭で理解できているではないか。話にもならん」

 ジャックさんはそう言って席を立とうとする。


「そう仰らずに。ようやく役者も揃ってきたのです」

「……役者、だと?」

 ジャックさんは怪訝な顔でバートリーを見つめる。事前に人払いをしていたからなのか、ここには俺たち以外の客は入っていないし、俺たちが席に着いてからも人の訪ねてくるようなことはなかったはずだ。


「はい。事前に待ち合わせをしておりましたので──ねぇ、イリマちゃん?」

「折角隠れててあげてたんだから、わざわざバラさないでよね」

 バートリーのすぐ後ろを通り過ぎようとしていた店員がため息まじりにそう漏らす。


 この店の制服と見られるエプロンに身を包んだ茶髪の少女は、瞬く間に白髪の女性へと姿を変えた。

 魔法というよりかは、何らかの能力なのだろう。

 一つ気になることがあるとすれば、バートリーがまるでイリマが初めからは居なかったかのような口ぶりだったことか。

 誰も気配に気づかなかった辺り、かなり暗殺向きの能力も持っているようだ。


「イリマ・グレーネか?」

「そうよ。この姿で会うのは初めてかしら?Mr.エキストラさん?」

 かなり含みのある言い方だ。もしかしたら、多少の俺の能力もバレているのかもしれないな。


「残りのメンバーもこっちに向かって来ているのか?」

「それはないよ。戦闘が始まるまでは来ないように言ってあるからね」

 この二人はあくまでも話し合いとやらをしたいらしい。


「気に入らんな」

 立ち上がったジャックさんは二人を一睨みすると、俺たちにも来るように視線で促してくる。


「力づくでもと言うなら、試してみれば良い。貴様らにそれができるならな」

「では、そうさせていただきま──」

「やめなさい、バートリー」

 意外にも、イリマがバートリーに制止をかけた。


「イリマちゃん?」

「彼はまだ手を出してないわ。あぁ見えて、彼も中々の役者みたいね」

 ジャックさんへ熱い視線を送り、イリマは口元を緩める。


「また会いましょう?Mr.エキストラさん」

「……あぁ」

 多分、その機会はないだろうけどな。


 店を出た後は、《スピリッツ・サーヴァント》のメンバーを探すことにする。

 町にいるであろう《中央の影》のメンバーに見つかっても厄介なので、早々に彼らを見つける必要があるだろう。


「アメリア。さっき俺の近くにいたエルフたちの位置はわかるか?」

「ん〜、あっちかな?」

 唇に手を当て、考えるように周囲を見回した彼女は、肩を指差して歩き始めた。

 先導するアメリアに続いて、人通りのない街道を進む。


「ジャックさん、先程はありがとうございました」

「気にするな。吐息を放った段階で結果は見えていた。ああいった輩など、どうせ指示があるまでは何もできはしまいからな」

 ジャックさんにそう言われ、納得する。確かに、ジャックさんは既に手を出していたが、それでもバートリーはすぐに戦闘を始めようとはしなかった。

 つまりはそういうことなのだろう。


 もしかしたら、力づくというよりかは、多少脅してでも連れ帰れみたいな指示だったのかもしれないな。


 《スピリッツ・サーヴァント》のメンバーは、歩いて十数分程の距離にある町の宿屋にいた。そこで一悶着あったものの、レオナが上手くアリスたちを説得してくれていたようで、レオナを含めた五人で西の国を目指す。


 ジャックさんに竜化してもらい、全員で彼の背中に乗り込むと、ジャックさんはゆっくりと翼を羽ばたかせて飛翔し始めた。


 ジャックさんの背は思ったよりも風当たりが強かったので、振り落とされないように風魔法で擬似的な【エルロン・スフィア】のようなものを作り、周囲を覆う。


「ところでルシェフ、そこの二人は?」

「左から、レオナとオリビアだ。オリビアに関しては、《沈黙の魔女》って言った方が分かりやすいか」

「あぁ、ストルワルツの金糸雀(ことり)ちゃんね」

 言いながら、アメリアが柔和な笑みを浮かべる。


「私はアメリア・ハーヴィ。西の国の冒険者で、《西の国の悪魔》の名前で通ってます。二人とも、よろしくね」

「はい!」

 返事をしたオリビアが、アメリアと握手をする。二人とも気質が近いから、波長が合うのかもしれないな。


「レオナちゃんも、よろしくね」

「……はい」

 レオナもアメリアと握手をするが、その表情はあまり優れない。手を離したレオナは、心なしか憂いを帯びた瞳を俺に向けていた。


「レオナ?」

「……何?」

「いや、どうかしたのか?」

「……別にどうもしてない」

 レオナが俯きながらそう答える。これ、絶対にどうかしただろ。


「あ!そういえば、今のうちに話さないといけないことがあったんです」

 不穏な空気を察したのか、オリビアが唐突にそう切り出してきた。


「悪いけど、今はそれど──」

「私たちが拘束されていた時なんですけど、実は二人と話していたことがありまして!」

 俺の声に被せるように、オリビアは無理矢理話を進めにかかる。

 彼女に抗議の視線を送ると、オリビアは察しろよと言わんばかりに、アイコンタクトで何かを伝えようとしてきたので、一度折れることにした。


◇ ◇ ◇


「──と、いうわけなんです」

「……は?」

 一通りオリビアの説明を聞いたわけだが、理解が追い付かずに、つい気の抜けた声をあげてしまう。


 オリビアの話を掻い摘まむとこうだ。

 俺が憲兵たちの相手をしているときに、ヘレンと対峙していたオリビアは、マルヴィナの奇襲によりレオナを拘束られ、彼女の作った【魔力断絶空間】により魔法を禁じられた。


 それならば、と普段スキルを行使するために内に留めている魔力を強制解放しての魔力放出による擬似的な身体強化を行い、ヘレンに近接戦で対抗しようとしたところ、さすがに無傷でオリビアを拘束するのは無理だと判断した彼が、戦闘を中断。

 後で頃合いを見て二人を逃がすつもりだというマルヴィナの作戦を開示し、後に解放することを条件に、一時的に拘束されていたようだ。


 ──何だこれ。俺が魔力を解放した意味が全くなかったんだが……。


「そろそろシャマに着く。適当なところで降りるからな」

 その後も、俺たちが話し込んでいるとジャックさんがシャマに着いたことを教えてくれた。


 流石、神話に残る黒竜の息子というだけあって、彼に乗ってから小一時間程でもう港町のシャマ付近まで来たようだった。

 ジャックさんに乗せてもらってから話したことだが、今日は取り敢えずシャマで一泊し、明日の早朝から西の国を目指すらしい。

 取り敢えず、朝食以降何も食べてなかったので、何か口にしたかった。


 シャマから少し離れた森に降りた俺たちは、黒竜の姿が見つからないようにするために、そこから徒歩でシャマに向かう。

 ここから徒歩だと、シャマまでは四時間ほどの距離らしい。

 ……どうやら、この様子だと昼食は諦めざる終えなさそうだ。


「……ブラウンさん、お腹空きませんか?」

「言うな。余計に腹が減るだけだ」

 全員で森の中を川沿いに進んでいると、俺と同じく朝食以降何も口にしていないオリビアが、愚痴るようにそう溢す。


「──ん?」

 ガサガサと近くの茂みから何かが走って近づいてくる音が聞こえ、間をおかずに茂みの中から無数の狼が飛び出してきた。


「⁉︎」

 こちらに向かってくる狼の群れを見た俺たちの間に戦慄が走る。あれは、フェリアエル・ウルフといって、この森の生態系の頂点に君臨するほど凶悪な魔物だ。


「──可愛い」

「は?」

 フェリアエル・ウルフを見たアメリアが、撫でようとしてか彼らに近づき、案の定、彼らに威嚇されている。


「おい!お前ら、うちの娘に吠えかかるなんて良い度胸じゃないか⁉︎」

「クゥーン……」

 フェリアエル・ウルフが吠えているのを見たジャックさんが叫ぶと、フェリアエル・ウルフが萎縮したのか一斉に身を縮める。


「すごいモフモフしてる~」

 近くにいた狼の一匹に無警戒で抱きついたアメリアが、そう漏らしながら狼を撫でる。その狼もジャックさんが怖いのか、されるがままになっていた。


「……ねぇ、この大きさなら、移動に使えない?」

 今まで無言だったレオナが、ジャックさんに萎縮している狼の群れの様子を見て、俺の袖を引っ張りながらそう伝えてくる。


「……確かに、彼らが協力してくれるなら、使えそうだな」

「それなら、移動も短くなるし一回休憩にしない?」

 俺たちの話を聞いていたアメリアの一言で、一度休憩を挟むことになった。

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