表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
8/50

第8話 数合わせ合コン(その3)

 他六人が色んな話をしながら、(そして俺と先生は、互いに石になっている間)、アルコールのお代わりが三週目に突入する頃だ。

 鉄乃先生の隣に座っていた「二年生です」と言った吉川愛華さんが俺の方を見た。


「稲村司君、だっけ?君は慶麗大の一年生なんだよね?」


「あ、は、はぃ~」


 俺の声が小さくなった。


「ちなみに現役?浪人?」


 ここはやはり実年齢に近い方がいいだろう。


「現役……です」


「じゃあアタシと一歳しか違わないんだよね~」


 そう言った彼女の目はトロンとしている。


「司くんってキリッと整っているけど、可愛い顔してるよね」


「そうですか?どうもありがとう」


「年上の女性ってどう思う?」


「え?」


「何歳くらい上までOKかって事?」


 この人、けっこう酔っているんじゃないか?

 俺は視線を先生の方にスライドした。

 先生はグラスに口を付けながら、横目で吉川さんを見ている。


「別に好きならば、相手の年齢は関係ないんじゃないですか?」


 俺がそう答えると吉川さんは「バン、バン」と嬉しそうにテーブルを叩いた。


「そうだよね~。相手が好きなら年齢なんて関係ないよね~。いや、良かった。『年上は嫌だ』なんて言われたら、アタシ達全員対象外にされちゃうもんね」


 すると吉川さんのさらに横にいた斉藤みなみさんも話に入って来た。


「うんうん、たまに居るんだよね。『俺は年下がいい』って男。そういうロリコン野郎はコッチも願い下げだけどね。司君はその点、解ってるね!今度、お姉さんとも遊びに行こう!」


「ちょっとぉ、斉藤さん。アタシが先に司君に目を付けたんだから、横からちょっかい出さないで下さいよぉ」


 吉川さんはそう言うと、飲みかけのぶどうハイのグラスを俺の方に突き出した。


「司君、飲め!」


「ハイ?」


「アタシ、君の事を気に言った。特別に間接キスを許す。このグラスで飲め!」


「いや、俺、未成年だし」


「構わん構わん、誰も見てないって。アタシだって二十歳になる前から飲んでいたよ!」


 いや、学校の先生が目の前で見てるんだよ。

 ヘタしたら俺は退学だ。


「お、司君の間接キスを独り占めしようとしているな?許さないよ。公平に私のも飲んで、飲んで」


 そう言ってビールのジョッキを差し出したのは斉藤みなみさんだ。

 だがその様子を見て、隣の三森さんまでが乱入して来た。


「おいおい、司君。モテモテじゃね~か。美味しい所を持って行こうとしてるな?許さんぞ。罰として俺のも飲め!」


 そう言ってやはり自分が飲んでいた『ウィスキーの水割り』が入ったグラスを突き出す。

 女性二人と隣の男性一人からアルコール満載のグラスを突きつけられ、俺はピンチに陥っていた。


「飲め」「飲んで」「一気に行けよ!」「ほら、早く!」「アタシの酒は飲めないって言うの?」「飲むまで返さないぞ」


 俺は横目で友兄を見た。

 だが友兄は前のレナさんとの話に夢中でコッチを見ない。

 いや、あえて無視しているのかもしれない。

 こういう時のために、アンタが一緒にいるんじゃないのか?

 ま、まずい、本当にまずい。

 俺は酒に弱い。

 たまに正月とかに親父の相手で飲んだ事があるが、おちょこ一杯で真っ赤になる。

 こんなの全部飲んだら、どうなるか解らない。


「私が全部飲みます!」


 突然のその言葉は天の助けか?

 いや、俺の数学担当教師。鉄乃真緒先生だ。


 彼女は立ち上がると、まずは隣の吉川さんのグラスを奪い取った。

 そのまま一気に飲み干す。

 そして次に俺の隣の三森さんのグラスを手にすると、これも一気に流し込むように飲み干した。

 最後に斉藤みなみさんのジョッキを掴み取り、グビグビと音がするかのように飲む込む。

 突然の先生の行動に、三人が、いやその場にいた全員が呆気に取られて見ていた。

 三つのグラスを空にすると、最後のジョッキを机に叩きつけるように置いた。


「私は教師を目指しています。未成年者に飲酒を勧めるような行為は絶対に許せません!これ以上、司さんに飲酒は勧めないで下さい!」


 その様子をみんなが呆然として凝視する。

 レミさんが慌てて立ち上がる。


「ちょっと、真緒さん。あなたはお酒に弱いんじゃ……」


 鉄乃先生は一気に赤い顔をしていた。

 耳たぶなんて真っ赤だ。

 苦しそうに口元を押えている。


「真緒さん、トイレに行きましょう」


 レミさんが鉄乃先生をトイレに連れて行った。

 その間、ちょっと白けた雰囲気が漂ったが、合コンに意欲的な友兄・赤城さん・三森さんのトークで再び盛り上がった。

 斉藤みなみさんも吉川愛華さんも、むしろライバルが減ったのが良かった、という感じだ。


 レミさんと先生が戻ってくると、新たにゲームをする事になった。

 合コン定番の山手線ゲームだ。

 俺は「くだらない」と思いつつも、ゲームには付き合った。

 それにこの手の記憶系ゲームは得意な方だ。

 一方で先生はヘロヘロだった。

 レミさんが言う通り、かなり酒には弱いらしい。


 合コンが始まって二時間以上が経過した時だ。

 そろそろお開きの時間だろうという時、赤城さんが

「最後に十円玉ゲームをやろう」と言いだした。

 みんな「やろう、やろう」と盛り上がっている。

 俺が「十円玉ゲームって、どんなのですか?」と聞くと赤城さんが説明した。


「それぞれが十円玉を出して『今日来てよかったと思っている人は表!』『実は恋人がいる! という人は裏!』などのお題を出して、それに答えていくゲームだよ。誰が出したのか判らないようにするために、おしぼりの下とかに入れてね」


 なるほど、ルール自体は単純なゲームだ。

 だがそれで何が面白いのだろう?


 全員がそれぞれ十円玉を用意した。


「よし、用意はいいな?じゃあお題は『今日の合コンでいいなと思った人を上げていく』だ。それぞれ男女一人ずつ名前を呼んでいくから『いいな』と思ったら表、『イマイチ』と思ったら裏を出して。誰が出したか判らないように、このおしぼりの下に入れてくれ」


 そう言ってお絞りを二枚重ねて広げた。


「ねぇ、『いいな』と思った人は一人だけ?それとも何人でも出していいの?」


 斉藤みなみさんがそう聞くと、赤城さんがちょっと考えてから答える。


「何人でもいい事にするとゲームがシラけるし、一人だけだと範囲が狭すぎるよな。じゃあ『いいな』は一人二回までとしよう。まずは俺、赤城がいいなと思う人」


 全員が順番に十円玉をお絞りの下に差し込む。


「じゃあシャッフルするぞ」


 赤城さんが十円玉がひっくり返らないようにシャッフルした。


「それではご開帳!」


 赤城さんがおしぼりを取る。

 表は二枚、残り六枚が裏だ。


「お、俺をいいなと思ってくれた人が二人もいるんだ。ラッキー!じゃあ次は柏木レナさん」


 先ほどと同じように、おしぼりの下に全員が一人ずつ十円玉を入れる。


「はてさて、今日の合コンをセッティングしてくれた、女神様に言い寄る無礼者の数は?」


 赤城さんがそう言っておしぼりを取る。

 表が二枚、裏が六枚だ。


「お~、男性陣の半分はレナさんを『いいな』と思ったんだな。じゃあ次は稲村友也」


 やはり同様に全員が一人ずつ十円玉を入れる。

 友兄が「これで五枚以上表が出たら怖いよな。野郎に『いいな』と思われたって事だからな」と笑いながら言った。

 するとレミさんが「あら、それもいいんじゃない?新たな愛の境地が見られるかもよ」と笑いながら返す。

 友兄は二枚が表、残り六枚が裏だ。


「ボーイズ・ラブの世界は免れたみたいだな」


 友兄はそう言うと、全員が笑った。

 次に斉藤みなみさんは、表が一枚、裏が七枚。

 次の三森さんは、表が一枚、裏が七枚。

 吉川さんが、表が二枚、裏が六枚だ。

 そして俺の番だ。


「司君の人気は高そうだからな」


 そう言って赤城さんがおしぼりを取る。

 表が二枚、裏が六枚だ。


「最年少参加者、けっこうやってくれるなぁ」


 三森さんが苦笑いを浮かべる。

 俺は自分を『いいな』と思ってくれた人が気になっていた。

 二枚と言うことは、さっきの流れだと斉藤みなみさんと吉川愛華さんだろうか?

 先生……って言う事はまず無いよな……


「最後は同じく臨時参加で呼び出された鉄乃真緒さん!」


 全員がおしぼりの下に十円玉を差し込む。

 俺は最後の最後ギリギリまで、どっちにしようか迷っていた。

 本心は『いいな』だ。

 だが先生に対してそんな事を思っても無駄だし、何かの拍子にそれがバレたら今後が気まずい。


 ……やっぱり『なし』で裏か?……


 だがなぜかそれも躊躇ためらわれた。

 いや、『先生はイマイチ』で出すのが、俺的に嫌だったのだ。

 俺は十円玉を表にして、おしぼりの下に差し入れた。


「よぉ~し、これで全員揃ったな」


 赤城さんがやはりシャッフルして、おしぼりを取り上げる。

 結果は……表が三枚、裏が五枚だ。


「おお、本日の最高結果が出ました!」


 赤城さんがそう言う。


 だが俺は別のモヤモヤ感があった。

 俺以外の二人が、先生の事を『いいな』と思ったのだ。


 ……それは誰だ?……


 俺は気になって仕方が無かった。

 この先、この中の誰かは先生にアタックするのだろうか?


「あ~あ、臨時参加で四人中三人を持って行くなんて、真緒さんも罪作りな女だよね」


そう言う斉藤みなみさんの声が、何か遠く感じた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ