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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
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第6話 数合わせ合コン(その1)

 カイザール学園に転入してきて二週間。

 けっこう学校の雰囲気にもクラスの連中にも慣れてきた。

 タケのお陰で、それなりに仲の良い友人も何人か出来た。

 まずまず満足の行く高校生活を送れているだろう。

 そんな土曜の午後、とつぜんSNSに連絡が入った。


>(友兄)司、今日の夜はヒマか?


 友兄こと稲村友也は俺の従兄弟だ。

 年齢は俺の四つ上で21歳。

 現在は慶麗大学理工学部の三年生だ。

 母親がいなく、兄妹姉妹もいない俺は、よく友兄の家に厄介になっていた。

 友兄は俺にとっては何でも話せる、よき兄貴分となっていた。


>(司)うん、ヒマだけど。なんで?

>(友兄)じゃあさ、メシ奢るから出て来いよ。


 友兄とはマレーシアに行く前に一度会ったきりだから、7ヶ月ぶりくらいか?

 向こうでの話を聞きたいのだろう。

 最近の俺の生活を心配しているのかもしれない。


>(司)わかった、どこに行けばいい?

>(友兄)五時に渋谷。ハチ公前でいいかな。

>(司)了解!

>(友兄)良かった、助かったよ。じゃあ後でな。


 そこでいったん、メッセージは終わった。

 今日の晩飯は友兄のオゴリとなった。

 一食分浮いたのだ。ラッキー。

 しばらくスマホで動画を見ていたら、再び友兄からメッセージが入った。


>(友兄)あ、それからちゃんとした格好をして来いよ。他の人間が後から合流するから。


 ……他の人間?……


 俺は疑問を感じた。

 なんだろう。

 友兄の知り合いが来るって意味だろうか?

 そんなはぐらかしたような言い方をするなんて、友兄らしくない。


 ……もしかして友兄の彼女とかかな?……


 おじさん、おばさんに紹介する前に、俺に会わせておきたいとか、そんな事?

 俺はけっこう人見知りする性格なので、知らない人と話すのは苦手だ。


>(司)他の人間って誰?


 俺が不安になってメッセージを返すと


>(友兄)大丈夫、変なヤツじゃないから。今さら来ないとか言い出すなよ。もう予約したんだから。


 と返事が帰ってきた。

 友兄は昔から、少し強引なところがある。

 だからこそ、クラスやサークルでも中心的な人物になれるのだろうが、俺としてはそこが少し不満だった。

 だが今さら断るのも迷惑なようだ。

 仕方ない、とりあえず行くか。



 午後四時二十分。俺は家を出た。

 504号室を見る。

 鉄乃先生には「あまり近づかない方がいい」と言われていたが、それでも俺は先生の事が気になっていた。

 部屋を出る時、偶然でもいいから彼女と出会えないかと期待してしまうのだ。

 初めて会った時の、彼女の清楚で優しそうな笑顔が忘れられない。

 彼女に恋している、って程ではないが、何か気になってしまうのだ。

 学校にいる時の鉄乃先生には、全く近づける雰囲気はない。

 俺だけじゃなく、全ての生徒がそうだ。

 『鉄の魔女』の二つ名は伊達じゃない。

 授業を受けている時、彼女のスラッとしながらも出る所は出ているボディラインを見ると、つい思ってしまう。


 ……あの豊かなバストと、あの身体を抱きしめたんだよな……


 そう思うとため息が出てしまう。


「向こうは先生だもんな、仕方ないか」


 俺は最近口癖のようになったセリフを呟くと、ドアのカギを閉めた。



 渋谷駅に着くと俺は友兄に電話した。


「お~、こっち、コッチだ。東横線の階段の横!」


 電話口からその声が響き、俺が指定された方を見ると友兄が手を振っていた。

 電話を切って彼の方に歩み寄る。


「よしよし、ちゃんとそれらしい格好をして来たな」


 別に俺はお洒落をしたつもりはないが、新し目のパンツとストライプのTシャツ、そして薄いジャケットを羽織っている。


「今日は後から来る人って誰?」


 俺が尋ねると友兄は軽い感じで答えた。


「サークル関係の友達。色んな大学のヤツラがいるからさ」


「そんな中に俺が混じっていていいのかな?」


「気にすんな。男の方には『俺の従兄弟が入る』って言ってあるから」


「男の方?」


 俺が気になって聞き返すと、友兄は意外そうな顔をした。


「あ、言ってなかったっけ?今日は合コンなんだよ、東日本女子大の子と」


 俺は友兄を睨んだ。

 ワザとらしい。


「帰る」


 俺はそう言って背を向けると、友兄が慌てて肩をつかんだ。


「待て、待てよ。ここまで来て『帰る』はないだろ?もう店も予約してあるんだしさ」


「俺がそういうの、苦手だって知ってるだろ?」


 俺は知らない人との会話が苦手だ。

 そして特にチャラチャラ系やキラキラ系の女子は苦手なのだ。


「悪かったよ。でも仕方が無かったんだ。今日になって急に一人が来れなくなっちゃってさ。急いで色んなヤツに連絡してみたんだけど、誰も都合が着かなかったんだよ」


「それにしても大学生の合コンに高校生が混じっているって、聞いた事がないよ」


「大丈夫。男側には話を通してあるから」


「つまり相手の女性陣は、高校生が一人混じっているって知らないんだろ?」


「ん~、そこは俺と同じ慶麗大理工学部の一年って事で」


 こういう所、本当にアバウトだよなぁ。

 行き当たりばったりと言うか。


 俺は迷っていた。

 正直、大学生の合コンなんかに参加したくない。

 ウソをついたままじゃ話なんか続く訳がないし、そもそも気まずい。

 やっぱり帰ろうかなと思ったら、友兄が両手を合わせて言った。


「頼む。もう4対4で相手も準備して来ているんだよ。それにこの合コンは本当はGWにやる話だったんだけど、その時もメンバーが集まらなくってさ。今回、苦労してやっと取り付けた合コンなんだ。他の連中も楽しみにしているんだよ」


 友兄は拝むようにして頭を下げた。

 仕方ない、こうまで言われては断れないだろう。

 適当にお茶を濁して話を合わせるしかないな。


「俺、二次会とかは行かないからね。それから酒も飲めないから」


 その点だけはハッキリと告げた。


「解った、解ってるよ。一次会だけで十分。それから酒のこともわかっているから」


 友兄は顔を上げて安心したようにそう言った。

 まったくいい加減な人だ。

 これさえ無ければイイ兄貴なのに。


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