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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
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第5話 幼なじみ来襲

 それは全ての授業が終り、教室を出た所だった。


「司!」


 急に大きな声で名前を呼ばれた。

 女子の声だ。

 俺は声の方向に視線を向けた。

 廊下の端、階段のところで一人の女子生徒が手を振っている。


 ……誰だ?……


 俺は疑問に思った。

 そもそも転入したての俺には、学校内に知り合いは少ない。

 クラス内でもタケ以外は、タケの知り合い数人と話した事があるくらいだ。

 いわんや他のクラスに知り合いなんている訳がない。


 ……だけど名前を知っているって事は、どこかで会っているって事だよな……


 怪訝な顔をしている俺に、その女子は走り寄ってきた。


「やっぱり司だ!この前からそうじゃないかと思っていたんだよ!」


 栗色の髪の毛をサイドポニーテールにしたその少女。

 やっぱり記憶にない。

 いや、どこかで見たような気もするが……

 そこで初めて遠い記憶とマッチする顔が思い当たった。


「もしかして、香澄?」


 俺は不確かながらも、相手の名前を口にした。


「そうだよ!アタシだよ!須藤香澄!」


 須藤香澄。

 彼女は小学校時代に仲が良かった女の子だ。

 中学は俺が公立中学に行ったのに対し、彼女は私立に進学していた。

 それがこのカイザール学園だったのだ。


「いや、久しぶりだな。まさか香澄がこの学校にいたなんて。懐かしいよ!」


「な~によ、調子のいい。その言い方はアタシがこの学校に居る事を完璧に忘れていたな!薄情なヤツ!」


 そう言って彼女は笑った。

 そう言えば卒業時に、クラス全員がどこの中学に行くか話していた気がする。


「仕方ないだろ。それに香澄はずいぶん変わったじゃないか」


 俺はそう言って、改めて彼女を見た。

 小学校時代は真っ黒に日焼けして、ショートカットの髪の毛を左側だけチョコンと結んでいた。

 今はセミロングの髪の毛を、その部分だけサイドポニーテールにしている。

 日焼けはなく女子高生らしい肌の白さだ。

 身体つきも女らしくなった。

 胸もそれなりありそうだ。

 クリッとした目は昔と変わらない。


「変わった?どんな風に?」


 香澄は目を輝かせて聞いて来た。


「どんなって、そりゃ……」


「ん?どんな?行ってみ」


「ま、まぁ、女らしくなったよ」


「やった!」


 彼女はニヘラっと笑った。

 そんな表情に俺はドキッとした。


「司、いま帰り?」


「ああ」


「じゃあ一緒に帰ろうよ。久しぶりに話もしたいし」


 香澄はさりげなく俺の左手を取った。

 そのまま引っ張るように歩いて行く。

 校舎を出る所で、香澄が聞いて来た。


「でもさぁ、私もつい最近まで、司がこの学校にいるなんて知らなかったよ」


「俺、この学校に転入して来たんだよ。だから通い始めたのはGWが明けてからなんだ」


「そうなんだ?それじゃあ一年の時に会わなかったのも当然だね」


 その後で小さな声で付け加えた。


「やっぱり、アタシがいるからこの学校に来たんじゃないのか」


「えっ?」


「でさ、前はどこに居たの?」


 香澄は話題を変えてきた。


「直近の半年はマレーシア。そこで現地のハイスクールに通っていたんだ。でも大学は日本の大学を受験するつもりだから、やっぱり日本に居たいと思って俺だけ戻ってきた」


「ふ~ん、そうなんだ?じゃあ今は一人で暮らしているってこと?」


 香澄は俺に母親がいない事を知っている。


「ああ、賃貸マンションに一人で暮らしているよ」


「いいなぁ、一人暮らしか。憧れるよ。自由だしね。あ~あ、アタシも一人暮らししたいな~」


「そんな憧れるほどイイもんじゃないよ」


「そっか、司は昔から自分で食事の用意や洗濯とかをしていたもんね」


 彼女の言う通り、俺は小学校高学年くらいから、自分で食事や洗濯はある程度できるようになっていた。

 その当時は週に二回は家政婦さんが来てくれるのだが、それだけに頼りきりと言う訳にもいかない。

 よって俺は自分の服の洗濯や、簡単な食事は一通り自分でやっていたのだ。


「ねぇ、こんど司の部屋に遊びに行っていい?」


「へっ?」


 思わず俺は香澄を凝視してしまった。

 いくら小学校時代に仲の良かった女子とは言え、男の一人暮らしの部屋に女の子が入るって言うのはどうだろうか?

 それに香澄は以前とは比べ物にならないくらい、可愛くて女らしくなっているし。


「なんで?ダメなの?」


「いや、ダメって訳じゃないけど」


「じゃあいいじゃん」


「俺はいいけど、香澄は平気なのか?その、男の部屋に来るって」


 香澄がドシンと俺に肘打ちを喰らわせた。


「な~に変な期待してんのよ!司相手に、そんな事になる訳ないでしょ!」


 俺は慌てて笑顔を取り繕った。


「そ、そうか?そうだよな。ゴメン、俺が変に意識しすぎてた」


「そうだよ。昔からよく遊んだ仲じゃん。また一緒にゲームでもしようよ!転校してきたばかりじゃ、まだ友達も少ないでしょ」


「そうだな。それも楽しそうだな」


 俺は小学校時代、香澄と遊んだ事を思い出した。

 香澄も一人っ子な上、両親が共稼ぎなので夜は遅くまで俺の家で遊んでいる事が多かった。

 一緒にゲームをしたり、アニメを見たりと、兄妹みたいに過ごしていたものだ。

 香澄が『中学は別の学校に行く』と聞いた時、俺は何だか上着を一枚剥ぎ取られるような寂しさを感じたものだ。

 その香澄とこうして再会する事が出来た。

 これも何かの縁だろう。


 ……昔のように楽しく一緒に遊べるなら、それに越したことはないな……


「じゃさ、司のSNSのIDを教えてよ」


「わかった」


 俺と香澄は、互いに電話番号・メールアドレス・SNSIDを交換しあった。

 ひとしきり小学校時代の共通の友人について話し合った所で駅に着く。


「じゃあアタシはコッチだから」


 香澄はそう言って俺とは違う電車に乗った。

 住所が変わっていなければ、俺のマンションと香澄の家はそれほど離れていないはずだが、使う路線が違うのだろう。


「ああ、今日は会えて嬉しかったよ。じゃあまたな」


 俺も片手を上げて挨拶する。

 香澄も手を振りながら、笑顔で走って行った。


「香澄か……」


 俺は胸の中がじんわりと暖かくなるような感じで、彼女の名前を呟いた。


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