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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
36/50

第36話 保育部、夏合宿(後編2)

「それでは失礼します。これからもよろしくお願いします」


 香澄がそう言った時だ。

 ボランティアには縁が無さそうな茶髪と金髪の派手目な男二人組が近づいて来た。

 二人とも耳にはピアス、一人は顎の部分だけ生やした髭も茶髪に染めている。

 金髪の方は一部を刈り上げたロンゲだ。


「あれあれ、香澄ちゃん、帰っちゃうの~」


 茶髪ヒゲが言い寄る。

 大学生とは思えないバカッぽい喋り方だ。


「ええ、アタシ達の合宿は今日までなんで」


「せっかく俺たちも来たんだしさぁ、もう一泊していけば?」


「アタシ達は宿もチェックアウトしちゃったんですよ」


 すると金髪が茶髪の反対側に回った。

 二人で香澄を挟むような体勢だ。


「ならコッチのホテルに泊まればいいじゃん。部屋なら余裕あるよ」


「でも親にも今日帰るって言ってあるし」


「平気だよ。電話だけしとけばいいじゃん。別に急いで帰る必要はないんだろ?」


 茶髪ヒゲが香澄の肩に手を回した。

 すると香澄はそれを潜り抜けて、俺の方に駆け寄ってくると俺の腕にしがみついた。


「なに、ソイツ、香澄ちゃんの彼氏?」


「え、そんなのがイイの?香澄ちゃん」


 香澄が俺の腕にしがみついたまま言った。


「ええ、アタシの彼氏です。だから放っておいて下さい!」


 不満そうな顔をした二人組は、今度は飯島恵と富樫由紀奈に目を付けた。


「なんだ、香澄ちゃん、もう喰われちゃったか」


「でも恵ちゃんと由紀奈ちゃんは残るよな?もう少し遊んでいこうぜ」


 そんな俺達の前に、スッと黒い影が立ち塞がった。

 鉄乃先生だ。


「ウチの生徒に何か用か?」


「あ?」と茶髪ヒゲ。


「だれ、この人」と金髪。


「私はこの子達の引率で来た教師だ。私の承諾なしに、合宿の延長など認められない」


「別に本人が残るって言ったらいいんだろ?」


「合宿はもう終わってんだろ。先生の許可なんていらねーじゃん」


 だが鉄乃先生は引かない。


「そうか。では君らの学校に苦情を入れるとするか。『嫌がる女高生を無理矢理引き止めようとした大学生がいる』ってな。確か明央大だったな。あそこには私の知り合いの職員や教授も何人かいる」


 一瞬、二人の大学生は言葉に詰まったが、すぐに虚勢を張る。


「適当なこと言ってんじゃねーよ」


「アンタにそんな力がある訳ないだろ」


 だが鉄乃先生はさらに冷たい声で言い放った。


「ならば実行してみるか?ちなみに就職課の職員には、私の大学時代の友人がいる。彼らに君達の事を話したらどうなるかな?そもそも君らがやろうとしている事は犯罪になる、と言うのは理解しているか?新聞沙汰になるぞ」


 チャラ男二人は押し黙った。

 凄い迫力だ。

 本当の先生を知っている俺でさえ、横でビビッてしまうくらいだ。


 ……鉄乃先生、これが演技なら俳優になれるんじゃないか?……


 俺はそんな事を考えていた。

 事態に気付いたのか、サークルの部長が飛んできた。


「すみません。コイツラが何かご迷惑をおかけしましたか?」


「この二人がウチの生徒を強引に引き止めようとしてな。私はそれを注意していた所だ」


「すみません、去年も迷惑をかけたって言うのに。本当に申し訳ありません」


 サークルの部長が頭をバネ仕掛けのように何度も下げる。


「解ってくれればいい。それから今後も不用意にウチの生徒に近づいたりしないで貰いたい。個人的な連絡も遠慮して貰いたいな」


 先生はそう言うと、俺と香澄に「行こう」と声をかけた。

 俺達が立ち去るその時、二人組の捨てセリフが聞えた。


「なんだよ、年増のババアには用はねーんだよ」


「自分が無視されて生徒に目を向けられて妬いてんじゃねーか。男日照りで欲求不満なら、素直に言えば触ってやるのによ」


 俺はそれを聞いた瞬間、自分の中で押えられない何かが沸き起こるのを感じた。

 思わず振り返り、二人組の方に向かおうする。

 だがその手をグッと掴まれた。

 見ると先生だ。


「止めとけ。相手にする必要はない」


 だがその時は、無性に腹が立ったのだ。

 先生が侮辱された事が……


「私の事なら言わせるだけ言わせておけ。みんなが無事ならそれでいいんだ」


 俺はそれでも悔しさを堪え切れなかった。


「さぁ、もう行くんだ」


 先生が強引に俺の手を引く。

 俺は黙って先生に引かれるままに、その場を立ち去った。


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