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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
18/50

第18話 えっ、俺の家でテスト勉強?(後編)

 午後六時くらいになった。


「ところで二人とも、何時までウチにいるつもりなんだ?」


 俺は時間が気になっていた。

 先生が帰って来る時間と、二人が鉢合わせになってしまう事を恐れたのだ。

 そして先生は帰宅すると、俺の家に夕食を作りに来てくれる。

 コイツラの帰る時間によっては、先生に『二人が来ている』事を連絡しなければならない。


 タケが時計を見た。


「お~、もう六時過ぎか。早いな。じゃあそろそろ帰るとするか」


 俺はホッとした。


「アタシはもう少し勉強していく。アタシの家、ここからけっこう近いから」


 香澄がテキストを見たままそう答えた。


「え~、そうなの?でも暗くなって来たし、帰った方がいいんじゃないの?」


 タケが残念そうにそう言う。

 コイツ、香澄と一緒に帰れる事を期待していたな。


「ウチは晩御飯が遅めだから。それにココだとけっこう集中できるし。西君、先に帰っていいよ」


「なんだよぉ~、俺は邪魔者か?」


 タケの口調が『残念から不満』に代わった。


「別に俺も香澄もそんなつもりはないよ。だったらタケももう少し居ればいいだろ。香澄だって八時までには家に帰りたいだろうし」


 俺がそう言うと、香澄がちょっと俺を見た。

 なんか睨んだみたいに見えたけど。


「俺、トイレに行って来るな」


 俺はさりげなくスマホをポケットに入れ、トイレに入る。

 急いでSNSで鉄乃先生にメッセージを入れた。


>(司)今、俺の部屋に同じクラスのタケと、E組の須藤香澄が来ています。先生は帰りは何時くらいになりますか?


 しばらくして返信が来た。


>(真緒)そうなんだ?私の帰りはいつもと同じで八時くらいかな?


>(司)了解しました。二人が出る時は連絡しますから、顔を合わせないように注意して下さい。


 そこまでメッセージを打って、トイレを出る。

 俺がリビングに戻ると、香澄が急に顔を上げた。


「ところで司、隣の部屋ってどんな人が住んでいるの?」


 ドキッとした。

 コイツ、なんでそんな事を?


「さ、さぁ。よく解らないけど、おそらく両方とも社会人かな?朝早く家を出て、帰ってくるのも遅いみたいだから」


「ふぅ~ん、男?女?」


 俺はドギマギした。


「あ、あんまり付き合いないからよく解らないな。そもそもお隣さんが一人暮らしかどうかも解らないし」


「そうなんだ?」


「どうしてそんな事を聞くんだ?」


 コイツ、何か感づいたのか?

 俺はそれが気になった。


「いや、さっき外を見ていたらさ、ベランダの隣室との仕切りが壊れていたから。あれだとベランダが丸見えになっちゃうなって思って。移動も出来ちゃうし」


 引っ越してきて最初、初めて『隣のお姉さん』である鉄乃先生に会った時。

 緊急事態として俺はベランダの隣室との仕切りをブチ壊して、先生を助けた。

 それを大家に言うと『災害時ではない故意の破損』として、弁償させられるのではないかと心配したのだ。


 よって先生と話し合った結果、『特に問題なければ、後でブルーシートでも張っておけばいい』という事になったのだ。

 ただ互いに忙しいので、今だに穴は塞いでいないが。


「それか。アレ、俺も穴を塞ごうと思っていたんだよ。でも中々タイミングが合わなくて」


「タイミングって何の?」


「いや、お隣さんに言うタイミングって言うか」


「そんなの気にしないで、コッチからさっさと塞いじゃえばいいじゃない」


「そうだな。今度の休みにでもスーパーで材料を探してみるよ」


 香澄は俺の事を見ていたが、それ以上は何も言わなかった。



 午後八時十分前。

 そろそろ先生が帰ってくる時間だ。

 俺は二人に声を掛けた。


「悪いけどそろそろ帰ってくれないか?俺も夕食の準備があるから。香澄も八時くらいには親が帰って来るだろ?」


 タケは伸びをした。


「んだな。じゃあ帰るとするか?」


 香澄の方は無言で片付け始める。

 何か気に障ったかな?


「俺も買い物に行くからさ、一緒に出るよ」


 そう言って二人を促した。


 マンションを出るまで、鉄乃先生と合わないかビクビクした。

 マンション前でタケが「香澄ちゃん、駅まで一緒に行こう」と誘うが、香澄が


「アタシの家は、ここからなら歩いた方が早いから」


 と言って即座に断った。

 タケが残念そうなのが、手に取るように解る。

 だがマンションの前でいつまでも立ち話している訳にも行かない。


「俺が買い物するスーパーは、香澄の家と同じ方向だから。途中まで送っていくよ。じゃあな、タケ」


 そう言って香澄を引き離すようにマンションの前を立ち去る。

 タケも諦めて駅の方に向かった。

 しばらく香澄と一緒に歩く。


「ねぇ司、何か隠してない?」


 不意にそう言ってきた。


「か、隠すって、何をだよ?」


 またもや俺はドギマギする。


「何かは解らないけど。部屋に行ってからの司の様子、何かおかしくてさ」


「別にそんなこと無いよ」


「そうかな?さっきだって、やけに時間を気にしてアタシ達を帰そうとしたし。マンション内でも何かを気にしているみたいな感じだったし」


「気のせいだって。そもそも俺が隠さないとならないような事はないだろ」


 香澄は思案するように下を見た。


「そうかもしれないけど……だったら、また今度、アタシが遊びに行ってもいいよね?」


「え、また?」


「隠している事が無ければ、別にいつアタシが来ても、問題ないでしょ?」


「あ、ああ」


 俺は香澄に完全に押し切られていた。

 香澄ってこんなにカンが良かったのか?

 俺はこれ以上、香澄と一緒にいると余計にボロが出そうな気がした。


 深夜まで開いているスーパーの前で立ち止まった。


「じゃあ俺、ここで買い物するから。今日はありがとう、またな明日学校でな」


 そう言った香澄に手を上げる。


「うん、それじゃあ、また明日、学校で」


 香澄はそう答えたが、何となく普段より元気が無いような気がした。



 マンションに戻ると、もう八時半を過ぎていた。

 自分の部屋のドアを開けようとすると、隣の504号室、鉄乃先生の部屋のドアが小さく開いた。

 ひょこっと、ドアの影から先生の顔が覗く。


「西君と須藤さん、もう帰ったの?」


「ええ、八時過ぎにはここを出ました」


「部屋が暗かったから、三人でどこか行ったのかな、とは思っていたけど。ご飯は食べる?」


「あ、頂きます」


「ちょっと待っててね」


 先生の頭がひっこんだ。

 俺も部屋に入る。

 五分もしない内に、玄関のチャイムが鳴らされた。

 ドアを開けると、タッパを二つ抱えた先生がそこにいた。


「おかずはもう作ってあるから。お味噌汁だけ作っちゃうから待っててね」


 先生はそう言うとキッチンに立つ。

 二十分ほどで本日の料理がテーブルに並んだ。

 メインディッシュは回鍋肉だ。

 食事中、テーブルの横にある教科書と参考書に先生が目をやる。


「三人で勉強していたんだね」


「ハイ、『定期テストのコツと傾向を教えてくれる』って言うので」


「ウチの学校はけっこうテストの結果を重視するもんね。いい友達が出来て良かったね」


「そうですね。ちなみに先生は『テストが悪いと無情に落とす』って聞きましたけど」


 先生は軽く頬を膨らませた。


「そんなこと無いよ!ちゃんと追試だってやるし、あんまり出来ない生徒には補習でカバーできるようにしてるよ」


「そうなんですか?なら良かった。みんなが『鉄の魔女の単位消失魔法』って言っていたから、どうしようかと」


「酷いなぁ。無碍に単位を落としたりしないわよ。それに司君の学力なら、そんな心配は要らないんじゃないの?」


 俺は先生と向い合って笑った。

 なんかもうこれが日常みたいな気がしている。


 でも今は先生の好意に甘えているけど、こんな時間も俺のケガが直ったら終わるんだよな。

 俺はそう思うと、身体に一瞬だけ冷気を当てられたような錯覚を覚えた。

 それを振り払うように、一気に味噌汁を飲み干した。


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