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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
16/50

第16話 えっ、俺の家でテスト勉強?(前編)

 ピンポーン。

 玄関のチャイムが鳴る。

 俺は来訪者を確認せずにドアを開けた。

 朝7時、この時間に訪れる相手は決まっているからだ。


 ドアを開けると、まだメイクをする前の鉄乃先生が立っていた。

 スッピンで見ても先生はキレイだ。

 目はパッチリとしていて、鼻筋は小振りながらキレイに通っている。

 柔らかそうな唇の色も健康そうだ。


 ノーメイクの先生をこうして見ていると、本当に女子大生にしか見えない。

 いや女子高生にも見えるくらいだ。

 俺としては学校での『強面メイク』より、コッチの方が断然イイと思うんだが。


「おはよう。はい、それじゃあこれが今日の朝ごはん」


 先生がサンドイッチが並んだ皿を差し出してくる。

 中身は玉子、ツナ、ハム、トマトとレタスなどだ。


「毎日、本当にありがとうございます」


 俺は受け取りながら頭を下げた。

 俺が『勝手に先生の荷物を運び、その結果で骨折した』のに、毎日朝晩と食事を用意してもらうなんて、恐縮してしまう。


「だからいつも言っているけど、これは私の気持ちを収めるためだから。ホント、気にしないで」


 先生はちょっと困ったような顔をして、そう言った。

 これも毎日のやり取りになってしまったが。

 そう考えていたら、先生が思い出したように言った。


「あ、それで今日からは、晩御飯も私の部屋で作って持ってくるか、司くんの部屋で作らせてね」


 え、先生の部屋に行けなくなるのか?

 それはそれで寂しいのだが。


「どうしてですか?」


「あと二週間て定期テストでしょ。試験問題を作らなくちゃならないの。自分の家で作る訳じゃないけど、試験問題の元ネタとか見られちゃうと不正になるでしょ?だから試験が終わるまでは、司くんに部屋に来られるのはちょっとマズイのよ」


 そういう理由なら仕方がないだろう。

 参考書でも開かれていたら、それだけでそんな系統の問題が出るか解ってしまう。

 別に俺と先生の家が同じマンションで隣同士と学校の誰かにバレている訳ではないが、根が真面目な先生は不正に繋がる事は許さないだろう。


「解りました」


「それじゃね。遅刻しないようにしてね」


 先生は軽やかな笑顔で立ち去って行った。



 その夜から夕食は、俺の部屋で一緒に取るようになった。

 最初俺は「料理だけ置いたら先生は部屋に戻り、俺は自室で一人で食べる事になるんじゃないか」と少し寂しい気がしていたのだが、先生は俺の部屋で一緒に食事をしてくれた。

 俺がその事を聞いてみると


「だって食事だけ置いて帰ったら、司君が食器を洗わないとならないじゃない。手を骨折している人に、そんな事はさせられないよ」


 と言ってくれる。

 また煮物や和え物などの手の掛かる料理は、先生が予め自分の部屋で調理して持ってくるが、焼き物やスープなどは「出来立ての暖かい方が美味しいから」と言って、俺の部屋で作ってくれてる。

 俺の部屋でエプロン姿で料理をする先生の姿を見ながら、俺はいつも

「先生と一緒に暮らす生活」を無意識の内に想像してしまう。

 その度にその妄想を打ち消しているのだが。


「さぁ、食べましょう」


 先生がテーブルの上に料理を並べてくれる。


 これからが俺の『大好きなシーン』の一つだ。

 先生が少し横向き加減で、首の後ろと腰の後ろのエプロンのヒモを外す。

 そのうなじの辺りと、ほっそりとしたウェストのラインが、『家庭的だけど女性らしい魅力』を強く感じさせるのだ。

 俺はいつもその先生の仕草に見惚みとれてしまう。


「どうしたの?」


 俺の視線に気付いた先生が、不思議そうに俺を見た。


「い、いえ、なんでもないです」


 俺は慌てて視線を反らす。

 学校で人から視線を浴びる事に慣れている先生でも、二人きりの時に凝視されていたら、そりゃ気になるよな。



 学校の最寄り駅で降りると、見知った顔があった。


「おはよっ、司!」


 俺の小学校時代に仲の良かった女子、須藤香澄だ。

 彼女は中学から私立カイザール学園に通っており、俺が高二で編入した事で交流が再開するようになった。

 使っている路線は違うが、家は1キロちょっとしか離れていない。


「おはよう」


 香澄は俺の隣に並んで歩いた。

 互いに腕が触れ合う距離だ。


「もう少し離れて歩いた方がよくないか?」


「なんで?」


「だって歩きにくいだろ。時々手がぶつかってるし」


 俺はそう言ったが、実は周囲の目を気にしていた。


 香澄は美少女だ。

 そして学校内でもかなり人気がある。

 『学校のアイドル』と呼ばれているくらいだ。

 実際、クラスの男子は、俺と香澄が仲が良いのをうらやんでいる。

 中には妬んでいるヤツもいるかもしれない。


 転校してきたばかりの俺としては、周囲との余計な摩擦は避けたかった。

 それと……もし香澄と一緒にいる所を鉄乃先生に見られたら……

 そんな思いもあった。


「いーじゃん、別に。歩道で拡がって歩いて幅を取る方が、周囲の迷惑だよ」


 香澄は事も無げな感じでそう言った。


 香澄のこういう所が、何となく猫を思い起こさせる。

 自分の気が向いた時にやたらと距離が近くなり、じゃれ付いてくる感じだ。

 そう言えば顔も、どちらかと言うと猫タイプだしな。


「もうすぐだね、定期テスト」


 香澄が話題を変えた。


「ああ」


「司は初めてでしょ?ウチの学校でテストを受けるのは」


「そうだな」


「じゃあさ、一緒に勉強しようよ」


 俺は不思議に思って香澄の顔を見た。

 それに答えるように香澄が言う。


「ウチのテストって、ちょっと変わっているんだよ。それと先生によって傾向があるしね。コツがあるんだ」


「そうなのか?」


 俺もこの学校のテストはどんな内容なのか、実は少し気になっていた。

 解答が選択式が多いのか、それとも記述式か。

 それだけでもだいぶ違う。


「うん。司も不安でしょ。だから一緒に勉強しようって提案しているの」


「ありがとう。じゃあ頼むかな」


「今週から部活ないよね?じゃあ今日は学校終わったら司の家に行くから!」


「えっ?」


 俺は驚いて香澄の顔を二度見した。

 香澄が、俺の部屋に来る?


「なんで?部室でやればいいじゃん」


「部室は試験二週間前から、基本的に出入り禁止だよ」


「じゃあ図書室は?」


「ウチの学校の図書室は人気があるからね。同じように試験勉強している人で一杯だし。場所取りだけでも大変なんだよ」


 う~ん、そうなのか?

 でもいくら小学校時代からの仲良しとは言え、男の一人暮らしの部屋に女子と二人っきりっていいのかな?


 それと不安要素はもう一つあった。

 隣の先生の事だ。

 もし何かの弾みで、隣の部屋に住んでいるのが鉄乃先生だとバレたら……


「本当にいいのか?俺の部屋に来るって?」


「ま~たその話?変な期待すんなって言ったでしょ!」


 香澄が俺の横腹にパンチを食らわせる。


「痛てっ!いや期待はしてないけど、学校で変な噂にならないかなって」


「大丈夫だよ、そんなの」


 香澄を上を向いた。


「それに前に約束したよね?『こんど司の家に遊びに行く』って」


 え、約束まではしてないと思うんだが…


 香澄は俺の沈黙をどう解釈したのか?


「じゃあ今日の授業が終わったら、玄関の所で待ってるね。授業終わったらすぐに来てよ!」


もう決定事項として、香澄はそう言った。


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