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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
15/50

第15話 先生が食事を作ってくれる?(後編)

「折れてますね」


 レントゲン写真を見ながら、医者はアッサリとそう言った。

 アレから先生が救急で開いている病院を探し、連絡して連れて来てくれたのだ。


「この中指に繋がる中手骨が折れています。まぁキレイに折れているので、一ヶ月もすればくっつくでしょう。とりあえず今日はギブスをしておきます。あまり動かさないように」


 そうして俺は看護師に、左手を固定するように手首ごとギブスをされた。

 痛み止めの薬だけ貰って病院を出た。


「ごめんなさい。私の所為で……」


 先生は半分泣きそうな表情で、俺に頭を下げた。


「そんな、先生の所為じゃないですよ。たまたま運が悪かっただけで」


「でも生徒にケガさせるなんて。それもプライベートな事で……私、教師失格だよ。ご両親に何て謝ったらいいのか。」


 先生は顔を隠すように下を向いた。

 俺は焦った。


「いやホント、気にしないでください。そもそも俺の家、親いないですから。親父はマレーシアで俺の事なんて気にしてませんよ」


 すると先生は「あっ」とでも言うように顔を上げた。


「そうだよね、司君、ご両親がいないんだよね」


「そうです。だから『親に何か言う』とか、気にしないで……」


「食事や洗濯なんて、どうするの?」


「適当に食べてます。洗濯も別に洗濯機に放り込むだけだから」


 すると先生は、両拳を胸の前で握り締めてこう言った。


「ケガが直るまで、私が司君の夕食を作るよ!」


「え?」


 思わず俺は絶句した。


「あと洗濯とかも私がする。家事は全部まかせて!」


 先生はさらに力を込めて言った。

 そりゃあ、そうして貰えたらありがたいけど……逆に迷惑なんじゃないか?


「い、いや、そこまでして貰わなくても」


「ううん、やらせて!だって私のせいでケガさせたんだもん。このままじゃ私の気が治まらない」


「でも」


「さっきお医者さんも言っていたでしょ。『あまり動かさないように』って。ここで無理して直りが遅くなったら困るでしょ?もうすぐ定期テストもあるんだから」


「わかりました。よろしくお願いします」


 俺が頭を下げると、先生はホッとしたような顔をした。



 その晩から俺は、先生の家で夕食を取るようになった。

 マンションに戻ると先生は


「ちょっと待ってて。今すぐ作っちゃうから」


 と言うと、エプロンを着けてキッチンに立つ。

 冷蔵庫を開けると


「あ~、ひき肉とタマネギと玉子か。手早く作れるのはオムレツくらいしかないけど、それでもいい?」


 と聞いてくる。


「はい、ありがとうございます」


 俺がそう答えると、先生は手早く料理を始めた。

 鼻歌混じりにフライパンを火に掛けて、具材を炒めていく。

 その様子を見て、俺は幼い時、まだ母親が家にいた頃の調理していた姿を思い出した。


……普通の家の夕餉って、こんな感じなのかな……


 三十分ほどで先生は「出来ました!」と言って食事を出してくれた。

 オムレツにレタスのサラダ、キュウリと白菜の漬物、それとワカメと油揚げの味噌汁だ。


「ケチャップでいい?」


 そう言って先生がケチャップを手渡してくれる。


「ありがとうございます、いただきます」


 そう言って俺はまずオムレツに箸をつけた。

 黄色い卵焼き部分を切ると、ひき肉とタマネギを炒めた中身が顔を出す。

 俺は両方を一緒に口に入れた。


「美味い……」


 思わず無意識にそんな言葉が出た。

 俺は普段の食事は外食が多く、オムレツはあまり食べる機会は無いが、それでも先生のこのオムレツは絶品だろうと感じる。


「そう?良かった!」


 先生が顔を傾げてニコッと笑う。

 俺はその可愛らしい笑顔にドキッとした。


……先生と結婚した相手は幸せだろうな。毎日、こんな美味しい料理を食べられて、こんな笑顔を見られるんだから……


 俺は思わず先生から視線を反らしながらも、そう感じた。

 急いでご飯をかきこむ。


「そんなに急いで食べると消化に悪いよ。それからご飯はまだあるからお代わりしてね」


「いえ、大丈夫ですから」


 俺はそう断った。

 なんか胸が苦しいような気がしたのだ。

 味噌汁も美味しかった。

 外食やインスタント味噌汁とは根本的に違う。


 食事が終わった俺は立ち上がると、食器を片付けようとした。

 先生がそれを止める。


「食器はそのままでいいよ。ケガしているんだから。それよりご飯はもういいの?」


「はい、お腹一杯になりました。とても美味しかったです」


 本当はお腹より胸が一杯な感じだったのだ。


「そう?それならいいけど」


 先生はそう言うと、帰ろうとする俺を玄関まで見送ってくれた。


「ごちそうさまでした。それじゃ失礼します」


 そう言う俺を、先生はじっと見つめた。


「私の所為でケガしたんだし、私の気が済むためにやっているんだから、司君は遠慮しないでね」


「ありがとうございます」


「明日の朝は片手で食べられる物がいいよね?おにぎりかサンドイッチを作って持って行くから」


 朝も用意してくれるのか。

 俺は再び礼を言って、先生の部屋を出た。



 こうしてこの日から、先生は俺の朝食と夕食を準備してくれる事になった。

 それ以外に洗濯までしてくれる。

 俺は「先生に甘えっぱなしじゃいけない」と思いつつも、その状況に浸りきっていた。

 俺の身の回りの世話をしてくれる、美人で可愛らしく、しかも優しいお姉さん……


……でも相手は先生だ。変な期待をするんじゃないぞ、稲村司……


 俺は自分にそう言い聞かせていた。


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