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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
14/50

第14話 先生が食事を作ってくれる?(前編)

 保育園で披露する予定の人形劇。

 そのための準備である人形制作は順調に進んでいた。

 もっとも俺は裁縫などの細かい作業は苦手なので、もっぱら舞台となる木材加工を担当していた。

 実際に人形劇を実施するのは定期テストが終わった後だ。


 なお保育園との連絡は部長である香澄が、顧問である鉄乃先生を通して行っている。

 さすがに高校生だけの言う事じゃ、保育園や幼稚園などの公的な組織は動いてくれない。

 先生を通した方が話がスムーズだ。


 鉄乃先生はごくたまに部室に顔を出している。

 だが俺が居る時は、チラッと覗くとすぐに部屋を出て行ってしまう。

 女子だけだと、少しは話をしているらしいが。

 どうやら俺は避けられているようだ。


「あの先生、本当に男子が嫌いだよね」


「かなり徹底しているもんね」


「鉄乃先生、中学から大学までずっと女子校だったらしいよ」


 香澄を始め、他の女子二人もそんな話をしていた。

 俺はそれを気にしないようにしていた。


 しかし実際には、鉄乃先生の様子がかなり気になっていた。

 合コンのあの夜以来、先生は明らかに俺を避けている。

 授業中も俺とはあえて目を合わせないようにしているし、部活でもそうだ。


 別に俺だって『先生が好きだ』なんて言うつもりはない。

 自分でもそこまでの自覚はない。

 どんなに美人でも相手は先生なんだから。

 でも先生に避けられていると思うと、何だかやるせない気持ちに捕われてしまう。



 その日は土曜日だった。

 午前中は学校の授業、午後は部活で人形劇の準備を行っていた。

 マンションに戻ってきたのは午後八時くらいだろうか?

 セキュリティなどない開放タイプのエントランスに入ると、目の前で誰かが一生懸命に大きな板を運ぼうとしいる。

 いや板じゃない。

 平たい形のダンボール箱だ。

 その人は両手で、そのダンボール箱を階段に押し上げようとしていた。

 だが中々一人では持ち上げられないようだ。


「大丈夫ですか?」


 俺が声を掛けると、ダンボールの影から相手が顔だす。

 鉄乃先生だ。

 それも『隣のお姉さんモード』の。


「あ、司君」


 先生は俺を顔を見ると、ちょっと困ったような顔をした。


「何の荷物ですか?」


「ネットで組立家具を買ったんだけど、これがエレベーターに入らなくて。仕方が無いから階段から上げようと思って」


「配送業者は部屋まで持ってきてくれなかったんですか?」


「私がいない時に配送だったらしくて、管理人さんが代わりに受け取っておいてくれたらしいの」


 このマンションには、通いの老人が管理人として日中は来ている。

 俺も配達物などは、よく預かって貰っている。


「相当に重そうですね。手伝いますよ」


 それを聞いて先生は一瞬躊躇(ためらう)うような顔をする。


「大丈夫、これくらい一人で運べるから」


 そう言いつつダンボールを持ち上げようとするが、階段を一段持ち上げるのがやっとだ。


「先生、この大きさじゃ無理ですよ。それにかなり重そうだし、この先で方向転換とか一人じゃ出来ないでしょう」


「……」


「階段一段上がるのだってやっとじゃないですか。この階段は狭いから、モタモタしていたら、通る人の邪魔になっちゃいますよ」


 先生は一瞬悔しそうな顔をしたが


「じゃ、悪いけどお願いしていい?」


 と観念して言った。


「俺が下から支えますから、先生は上の方で誘導をお願いします」


 力がある俺が下を持った方がいいだろう。

 そうして先生が上から引っ張る形で、俺が下から支える形でダンボール箱を運んだ。


 このマンションの階段はそれほど広くない。

 その上、各階の間で一度踊り場があって反転させねばならない。

 組立家具はかなりの重量があるものらしい。

 これを女性一人で部屋まで運ぶのは無理だっただろう。

 下の方が重さが掛かると言っても、上から中腰で後ろ向きに引っ張るのは、かなり骨が折れる作業だ。


 四階から五階に上がる最後の踊り場でだ。


「あっ」


 先生が小さく声を漏らしたかと思うと、後ろ向きに転んでしまった。

 その反動でダンボールが、一気に俺の方にずり落ちてきた。

 俺は全身の力を込めて、それを受け止める。


「グッ!」


 ズキン、と頭に響くような、激しい痛みが左手に走る。

 踊り場の壁とダンボールの角に、左手を挟まれてしまったのだ。


「ごめんなさい!大丈夫?」


 先生がすぐに身体を起して、そう尋ねた。


「大丈夫です。それより先生の方はどこもケガをしていませんか?」


「私は大丈夫。でも司くんは下にいたから、どこかケガしたんじゃないの?」


「平気です。それより早くコレを運んじゃいましょう」


 俺はそう言って再びダンボールを持ち直した。

 ズキン、とまた強い痛みが左手から脳天にまで響く。


「っん!」


 俺は辛うじて声を堪えた。

 そんな俺を先生は心配そうに見つめながら、ダンボールを持って立ち上がった。


 俺と先生は、何とか組立家具を先生の部屋まで運び込んだ。

 その時にはもう左手には、ほとんど力が入らなかった。

 五階に上がってからは平坦な廊下を運ぶだけだから問題なかったが。

 組立家具をリビングまで運び入れると、


「それじゃ、俺はこれで失礼します」


 と言って先生の部屋を出て行こうとした。


「待って!司君、ケガしているでしょ」


 先生が素早く俺を呼び止める。


「平気です。大したことありませんから」


「だけど血が出ているじゃない。ダメよ、消毒くらいしなくちゃ」


 先生はそう言って俺の左手を取った。

 確かにさっきぶつけた所為で、左手はかなり擦りむいて血が出ていた。

 とは言っても流れ出る程ではない。


……別にこれくらい、放って置いても明日には直っているんじゃないかな……


 俺はそう思っていたが、先生は俺の手を取って消毒をし始めた。

 しかし……


「うっ!」


 俺は顔をしかめた。

 消毒が傷に沁みたのではない。

 手を動かされた時、また頭に響くような痛みが走ったのだ。

 すると先生が顔色を変えていった。


「これ、だいぶ腫れているじゃない」


「そうですか?」


 見ると確かに左手の中央部分が、ボコッと盛り上がっている。


「もしかして骨折しているんじゃない?」


 心配顔でそう言う先生に

「まさかぁ」と俺は答えた。


「ともかく病院に行ってみましょう。救急で開いている所に連絡するから」


 先生はそう言うとスマホを開き、救急病院を探し始めた。


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