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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
13/50

第13話 クラブ活動、第一ミッション(後編)

 パンケーキの店を出ると、香澄が


「ちょっと買い物したいから付き合ってくれない?」


 と言うのでデパート巡りをする。

 最初の三店舗くらいまでは俺も普通に付き合っていたが、五店舗目となるといい加減に嫌になって来る。

 それでいて「やっぱり最初の店のヤツの方が良かったかなぁ。でも二店舗目の方がデザインは好きだし」などと言っている。


香澄が一つの服を手に取って、俺の方を見た。


「これ、どう思う?アタシに似合いそうだと思う?」


「似合うんじゃないの」


「またぁ~、適当なことを言ってぇ~」


 香澄が不満顔になる。


「いや適当じゃないけどさ、服なんてどれも一緒じゃないか?」


 俺はお洒落にはあまり興味がない。


「そんな事ないよ。それに高校二年の夏だよ。来年は受験で遊べないじゃん。思いっきり楽しまなきゃ。イベントもあるしね」


「イベントってどんな?」


「決まっているだけでも、クラブの合宿だってあるでしょ」


「え、このクラブ、合宿なんてあるの?」


「もちろんあるよ。どこでやるかとか、まだ何も決まってないけどね」


 はぁ~、かったるそう。

 そう思っている俺に、香澄は追い討ちをかけた。


「その前に定期テストがあるんだけどね。もうすぐだから憂鬱だよ」



 五店舗目でも何も買わずに店を出た時、さすがに俺の『ウンザリ』は顔に出ていたのだろう。

 コツン、と小さく頭を小突かれた。


「痛て、なんだよ」


「なんだよ、じゃないでしょ?せっかくこのアタシと買い物デートしているって言うのに、そんな不満顔をして!」


「デート?これってデートなのか?」


 俺にはただ部活の材料調達としか思えないが。


「あ~、そんなこと言っちゃうんだ?アタシは『女っ気のない司』のために、少しでもデート気分を味あわせてあげようと思っているのに!」


「余計なお世話だ」


「でもさ、回りを見てみなよ」


 香澄の言う通り、周囲を見渡してみる。

 渋谷という街柄のせいか、カップルが多い。


「ここにいる男女のペアって、どんな風に見える?」


「まぁカップルなのかな、って思う」


「でしょ?『アレはただの男女の友達』って思わないでしょ?」


「まあな」


「つまりアタシ達も、周囲からそう見えているって事だよ。それなのに男の方がそんなツマンナそうな顔をしてたら、アタシの立場がないじゃん!」


 言われてみれば、香澄の言う事にも一理ある。


「わかった、悪かったよ」


「解ればヨシ!」


 香澄はニコッと笑った。


 ……コイツ、やっぱり可愛いよな……


「香澄はさ、彼氏とかいないの?」


「なんで?」


「そんな『俺とデート』なんて言っちゃってさ。もし彼氏がいたら悪いじゃん」


 すると香澄は興味無さそうに前を向いた。


「いないよ」


「そうなのか?でも香澄は学校のアイドルで人気があるって聞いたけど」


 実際、タケやクラスの連中は、俺と香澄が知り合いなのをうらやんでいた。


「『人気がある』って言うのと『彼氏がいる』って言うのは、結びつかないでしょ」


「そりゃそうかもしれないけどさ」


「でしょ」


「でも香澄は確かに可愛くなったし、告白された中にはカッコイイ奴もいたんじゃないかなって」


 香澄が俺を方を振り向いた。

 真剣な目で俺を見る。


「アタシの事、『可愛くなった』って、本当にそう思う?」


 俺はその目に気圧される気がした。


「ま、まぁ、可愛くなったのは確かだろ?」


「どのくらい?」


「どのくらいって?」


「『普通よりは上』『クラス一』『学校一』『めったにいないレベル』『世界一』、色々あるでしょ?」


 ……なんか、こんな風に言われると答えにくいんだけど……


「俺の主観になっちゃうけど……」


「それでいいよ」


「『学校一』ってのは、俺はまだ転校して来たばかりだから解らない。だけど俺が知っている範囲の女子では、かなり上位だと思う」


 香澄はしばらくじぃ~っと俺を見ていた。

 そしてニヘラっと表情を緩める。


「ま、今はそれでいいか。とりあえず合格にしておいてやろう」


 そう言うと香澄は、俺の右手を両手で掴んだ。


「な、なんだよ。いきなり」


「デートの予行練習をさせてあげてるの!」


「予行練習って、俺にはデートの予定なんてないぞ」


「いいから、いいから。さ、次の店に行くぞ!」


 香澄はそう言って、俺の腕を引っ張った。



 夕方六時。

 俺達は部活で必要な素材、プラス香澄の買い物を持って帰路についた。

 俺と香澄の家は路線が違うので、俺達は途中駅で降りた。


「じゃあな、香澄」


 俺はそう言うと、香澄の買い物以外の荷物を全て持った。

 けっこうな量と重さがあるので、俺が学校に持って行く事にしたのだ。


「今日はありがとう。助かったよ!」


「香澄が感謝の言葉を口にするなんて、なんだか怖いぞ」


 俺は笑いながら言った。


「なんだよ、せっかく人が『ありがとう』って素直に言ってるのに!」


 香澄は口を尖らせた。


「悪い悪い、それじゃあな」


 俺は山手線のホームに向かった。


「うん、また明日、学校で」


 香澄はそう言って、自分の使う電車の方に歩いていった。

 だが十歩も行かない内に「司!」と呼び止められた。

 振り返ると少し離れた所で、香澄が俺の方を見ている。


「司、さっきアタシに『可愛くなった』って言ってくれたよね?」


 俺は何も言えずに、ただ彼女を見ていた。


「司も、カッコ良くなったぞぉーー!」


 それだけ言うと、香澄は一目散に走り去って行った。


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