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隣に鉄の魔女と呼ばれる先生が住んでいます  作者: 震電みひろ
第一章『鉄の魔女』と『隣のお姉さん』
10/50

第10話 そんな部活ってあるの?(前編)

 週が明けてまた学校が始まる。

 だが俺は憂鬱だった。

 理由は『鉄乃先生と顔を合わせなければならない』ためだ。

 先生もきっと俺と顔を合わせたくないだろう。

 『合コンで生徒と先生が出会う』って、どんだけレアケースなんだよ。


 それと……俺には心に引っかかっている事がもう一つあった。

 土曜の夜、先生の部屋であったあの事。

 先生の口から出たあの名前『真島』。

 そして先生は「ごめんなさい」と言って、涙を浮かべていた。

 あの感じからして『真島』という奴は、先生とは浅からぬ関係があったのだろう。


「……真島って誰なんだよ……」


 思わずそう独り言が出た。

 少なくとも、俺のクラスには『真島』なんて奴はいない。

 学校全体では解らないが。

 『真島』とは、鉄乃先生の彼氏?元彼?親しい友人?

 それとも生徒の誰か?


「お~はよっ!」


 元気のいい掛け声と共に、背中をバシンと叩かれた。

 横を見ると明るい笑顔を浮かべた須藤香澄がいた。


「おはよう」


 俺がそう返事を返すと、香澄はさらに突っ込んできた。


「な~に、な~に?その暗い挨拶は?朝からそんな調子じゃ、運気が逃げるよ!」


「そんな程度で逃げるような運気なら、もうとっくに逃げてるよ」


「いやいや、こうして朝から美少女と一緒に登校できるんだもん。まだまだ司の運気は上昇中でしょ」


「はっ?」


 俺が呆れて香澄の顔を見ると、また彼女はニヘラッと笑った。

 まぁ確かにコイツは可愛いけど。

 だがその時なぜか、またもや土曜の夜の先生の顔を思い出してしまった。


「おい、なんだよ。美少女の顔を見て、その暗い表情は?」


 香澄が口を尖らせる。


「いや、別にオマエの顔を見て暗くなったんじゃないよ」


「あったり前だろ。アタシの顔を見て暗くなる男なんて、地球上には存在しないよ!」


 俺は苦笑した。


「ずいぶんと自信アリだな」


「純然たる事実だも~ん」


 彼女は得意げに鼻を立てるようにした。


 ……まったく、コイツと話していると、何か調子を狂わされるよ……


 そう思いつつも、俺はいつの間にか気持ちが軽くなっている事に気付いた。


「それでさ、司ってクラブは何か入っているの?」


 香澄は急に話題を変えてきた。


「クラブ?部活動か?いや、何も入ってないけど」


「え~、そうなんだ?勿体ないなぁ。小学生の時、司は勉強も出来たし、運動もそれなりに出来たじゃない。司なら運動系でも文化系でも、どっちも行けるでしょ」


 確かに俺は小中学校を通して、学校の成績は良かった。

 クラスの上位五人には確実に入っていた。

 運動の方はそれほどじゃないが、まぁ悪くはないだろう。

 足の速さなど基礎体力も平均よりは上だ。


「俺はさ、一人暮らしだからあんまり部活とかに時間を取られたくないんだよ。クラブで疲れ切った身体で、家に帰ってから食事作ったり洗濯したりなんて、出来ねーよ」


「そっか、司の家はお母さんがいないんだもんね」


 香澄はちょっとトーンを下げた声で言った。

 コイツなりに悪いと思ったのだろう。

 別に今さら気にするほどじゃないが。


「じゃあさ、それほど疲れない部活ならオッケーって事?」


 香澄が明るい声で言った。


「いや、あんまり時間を取られるクラブもダメだな。夕飯の買い物とか色々あるから」


「その点も大丈夫。活動は週に一回か二回だから。あとはたまに休みの日にイベントがあるくらい」


「まぁその程度なら大丈夫だろうけど。なに、オマエ、俺を勧誘してるの?」


「えへへ~」


 香澄がまたニヘラ笑いをした。


「時間とかの条件が合っても、どんなクラブか解らないんじゃ俺は入れないぞ」


「それくらい解ってるよ。だからさ、一度でいいからとりあえず話だけ聞いてみてよ」


 香澄はすぐにそう返してきた。

 コイツ、最初から俺を誘うシュミレーションをしていたな。

 香澄はさらに俺の右腕を引っ張った。


「司、頼むよ。ね、話だけでも聞いて。アタシたち、困っているんだよ」


「何のクラブだよ」


「それは後のお楽しみ。大丈夫、変な部活動じゃないから」


 学校に『変な部活動』があったら、そっち方がおかしいだろ?


「わかった、とりあえず話だけな」


「サンキュー!じゃあ今日の放課後、授業が終わったら司のクラスに行くから」


 ちょうどその会話で、俺達の教室があるフロアにたどり着いた。

 俺はC組で階段から見て左側、香澄はE組で逆の右側だ


「それじゃあ、後でね」


 香澄はそう言って元気良く、自分の教室に向かって行った。



 六時間目が終わった時、クラスの中がちょっとざわついた。

 俺はクラスの入り口に目をやると、香澄が教室の中を覗いていた。

 俺と目が合うとニコッと笑って、手をパタパタさせて手招きする。

 カバンを持って立ち上がろうとすると、タケが俺の腕をグイと引っ張った。


「なんだよ?」


「司、おまえ、E組の須藤香澄ちゃんと知り合いなの?」


「ああ」


「マジで?転校して来てまだ一ヶ月も経ってないのに、なんでオマエは『みんなのアイドル』と!」


「アイドル?香澄ってみんなのアイドルなのか?」


「おまえこそ、香澄ちゃんを呼び捨て?いつの間にそんな仲に……」


「いつの間って前からだけど」


「前からって、なんだ、それ?」


 話すと長くなりそうだし、香澄はさらに激しく手招きしているので、俺は話を切ることにした。


「それについては、また今度話すよ。アイツが呼んでるから、もう行くな」


「おいおい、司」


 だが俺はその声を無視して、教室の出口に向かった。


「遅いぞぉ~」


「いや、それほど待たせてないだろ」


「アタシが来るって解ってるんだから、廊下で直立不動で待っていてもいいくらいだ」


「アホか」


 そんな俺と香澄のやり取りを、クラスの連中は驚きと羨望の目で見ていた。


「じゃ、ついて来て!」


 香澄が先導して前を歩く。

 俺は黙って彼女の後ろを付いて行った。

 なるほど、こうして後ろから見ていると、廊下ですれ違う男子の目が香澄を見ている事に気付く。

 香澄は確かに可愛くなった。

 いや、世間並み以上の美少女だろう。

 背はそれほど高い訳ではないが、胸は適度に形良く盛り上がっている。

 それは制服の上からでも解る。

 足もスラッと滑らかで可愛らしい。

 鉄乃先生が『完成された美貌とスタイル』だとしたら、香澄は『まだ少女らしさが残る可愛い美貌とスタイル』と言えるだろう。


 ……って俺、なんで先生と比べているんだ?……


 不意にそう思った。

 なんか常に頭の片隅に、先生の事があるみたいだ。

 香澄が振り返って、一つの部屋を指差した。


「ココ、入って」


「ここは?」


「アタシ達の部室。中でみんな待っているから」


 なるほど教室ではないエリアに来たと思っていたが、ここの一角は部室が集まっているのか。

 香澄がドアを開ける。

 俺は彼女に続いて中に入った。


「ようこそ、保育部へ!」


 中にいた二人の女生徒がそう言った。


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