No.4
No4
「またクビかよ...」
一人の男が舌打ちする。
2年勤めていた会社をクビになった。
部下には優しく上司には厳しく、彼の仕事上のスタイルだ。
もちろん部下には好かれる。
だが上司はそうはいかない。
意見してくるものが好きな人もいるが、どちらかというと少数だ。
大半はプライドを傷つけられたと思い距離を置くか潰しに来る。
いわゆるパワハラというやつをしてくる。
だが彼はパワハラを逆に潰すというなかなかに攻撃的な思考を持っていた。
上司からすれば可愛げもなくやたら噛みついてくる狂犬のようなものだろう。
どうにかして排除しようとする。
先ほどクビになった会社もそうだ。
理不尽な上司からパート勤務の人を庇った。
責任は俺にあると。
「いつも本業の方がうまくいかねぇ...」
彼は常に本業の他に2つ副業をしている。
ひとつはファミレス。もうひとつは農家の手伝いだ。
月曜から金曜の日中は本業。
夜はファミレス。土日の日中は農家。
一日の睡眠時間は3時間以下。
そのくらい働かないと家族を養えない。
妻は買い物依存症で借金をし、自己破産している。
子供は3人いて食べ盛りだ。
友達からは離婚して地元に帰ってこいと言われているが、帰ったところで妻の借金は共有財産という形でついてくる。
「今週中に次、決めなきゃな」
クビになったのは水曜日だ。土日を除くと2日で決めないと生活がままならない。
夏の日差しのせいか突然視界がボヤける。
「マジでふざけんな。ボケてる場合じゃねえっての。」
足に力を入れようとしたとき、経験したことのない頭痛に襲われた。
まるでバットで思い切り殴られた感覚だ。
意識が空に吸い込まれていく感覚がした。
「あー、死ぬのか。」
だが後悔はなかった。
いつも精一杯自分の出来る最善を尽くしてきた。
出来ないことでも出来ると自分に言い聞かせて無理をしてきた。
「もしも、人生に次があるならもっと俺の好きなように生きてぇな...」
最後に思ったことは諦めと、有り得ないとわかっていても願ってしまうような虚しいものだった。




