表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

音フェチ男がケモ耳TS転生する話

作者: 台拭き

「耳が......」


 ある日目覚めると、あるはずの場所に耳が無くなっていました。

 代わりに頭の上にはぴょこぴょこと動く狐耳。ついでにしっぽまで生えています。

 どうやら、ここは森っぽいです。辺りを見渡してみても、木ばかり。完全によくわからない場所にいます。

 おそらく異世界に飛ばされたのでしょう。死んだ記憶があります。思えば間抜けな死に方かもしれません。まさか耳かきが刺さって死ぬなんて...。

 新しい耳を触ってみます。手は人間のままでした。わさわさしていて触り心地がいいけど、かなりくすぐったいです。

 恐る恐る、耳の中に指を侵入させます。ごそごそ、っと音がします。めちゃくちゃくすぐったいけど、気持ちいいかも......?


ごそごそ ごそごそ


 おっかなびっくりしながら触っています。どうやらこの耳はかなり音に敏感のようです。たまに触ると全身がびくん!となる場所があります。

 耳の壁を触ってみると、ぞわぞわって体が震えます。人間だった時よりも敏感です。

 しかし、これからどうしましょう。森の中、せっかく転生したのに迷子で餓死とかなったらいやだなぁ。すぐそばに村とか街とかあればいいんですけど。


「誰だ!」

「うわぁぁ!?」


ずぼっ。

指が奥に入ってしまいました。


「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」


一瞬、前世のデジャブを感じました。







「さっきは驚かせてしまったみたいね。ごめんなさい」


 今、僕はエルフのお姉さんの家だという場所に運んでもらいました。声をかけられた瞬間、絶叫しながら腰を抜かして倒れ込んでしまったのです。死ななくて本当に良かった...。


「それで、あなた獣人よね?この辺りでは珍しいけど、あんなところで何を?」

「えっと、迷子でして...」

「迷子?そう。目的地とか教えてくれれば、私の知る範囲なら案内してあげられるけど」


 特に目的地があるわけじゃないしなぁ。

 目的、目的......。


「そういえば、耳かきってどこかで売ってますか?」

「みみかき?なにそれ?」


 あれ、耳かきを知らないご様子。



 もしかしてこの世界、耳かきない!?


「そんな...終わりだ...この世界では生きていけない......」

「えぇ!?そんなに大事なものなの!?」


 あれが無きゃ生きていけない......。あれのせいで前世では死んだんですけど。


「う〜ん、エルフの村にはないけど人間の街とか獣人の村とかにはあるかもしれないわ」

「本当!?」

「もしかしたら...ね?」


 この際、少しの可能性でもあればいいです。あれを手に入れられるのであればこの星の裏側だって行ってやりましょう!


「道案内、よろしくお願いします!」


 今すぐ行きましょう。今すぐに!






「もうむり...」


 エルフの森を出発して数日、人間の住む街へと行く途中すでに限界が来ていました。耳かき中毒の禁断症状が出てきています。

 頭についているケモ耳を触ります。少し触っただけなのに体が跳ねました。自分の体ながら敏感すぎです。今日、森を歩いていた時に耳に枝が当たっただけで声が出てしまいました。それくらいこのケモ耳は敏感なのです。


「くっ......ふぅっ.........」


 優しく耳を撫でてみます。刺激にも慣れてきました。中に指を入れます。


「はぅっ...うぅ......」


 外側を撫でている感覚とは違った快感があります。わしゃわしゃごそごそと、気持ちのいい音が頭の中に響きます。


「んんっ......んっ......」


 声が抑えられません。でも触るのもやめられない。指が勝手に動いてしまいます。壁をさわさわとすると触り心地もいいし、くすぐったいです。


 もうすこし奥に入れたらどう鳴るのでしょう。

 ですが、初日のあれを思い出します。あれは、危険でした。完全にデジャブだったのです。2度目の走馬灯が見えたほどです。


......でもゆっくりやれば?


 よし、ゆっくりやれば大丈夫。そろりそろりと、指を下ろしていきます。そして耳の壁をさらっと撫でてみました。


「ひゃうん!?」


 思わず声が漏れてしまいました。多分また、腰が抜けました。

 これは...やばいのです。

 これ以上は戻れなくな......。


 結局その日は一睡もせず、耳をいじくっていましたた。





 まずいです。とてもまずいです。


「ふぅ...ふぅ...」

「ユー、大丈夫?どこか体調悪い?」


 全然大丈夫じゃ無いです。頭の中全部気持ちよくて、音に犯されてるようで...


「大丈夫です...あぅぅ......」


 森の中はやばいです。いろんな音がそこかしこで鳴っているのです。しかもこの耳、相当遠くの音まで拾ってしまうようです。自分で開発してしまった耳では刺激に耐えられません。耳栓とかがあればいいのですが。

 そこにぺちゃん、という水音と同時に水色でジェル状のモンスターが出てきました。


「す、スライム...?」


 名前は知らなくても、直感で分かりました。

 これです!ジェル状だから耳栓の代わりになるはず!

 スライムはほぼ無害なモンスターなのだそうです。ペットとして飼う人もいるとか。


「ということで、スライムゲット!」


 エルフの案内人、ルリアさんに手伝ってもらって無事スライムを捕まえました。といってもかなり大人しくて、捕まえても嫌がられません。

 頭の上の耳に被せます。これで森に頭の中陵辱されるのともおさらばです!


 ぐちゅり...


「うにゃあ!?」


 え...?


 ぐちゅぐちゅ...


「あああああぁぁ...!」


 しまったのです!スライムの水音は森の自然音よりも気持ち良すぎるのです!


「は、離して......」


 スライムを引き剥がそうとするのですが、触れば触るほど音が頭の中に響いてしまいます。


「まって...やめへ......」


 気持ちよくて、足がガクガクしています。まともに立っていられません。


 ルリアさんによると、その後そのまま地面に倒れ込んで、全身ビクビクしたまま気絶したそうです。





 1週間とちょっとの野宿の末、人間の国の王都へとたどり着きました。

 1週間もするとこの女の子の体にも慣れてきました。意外と順応するものです。スライムもペットとして連れてきました。


「ユー。これからどうするの?」

「えっと、雑貨屋にでも行こうかと...」

「なら、ここでお別れね」


 ルリアさんも王都に用事があると言っていました。僕の我儘で連れてきてしまったと思ったけど、少し安心しました。


「はい、道案内ありがとうございました!」


 ルリアさんとお別れです。1週間過ごしてきたので少し寂しいです。

 だがしかし!今日ついにあれが手に入るかもしれないのです。テンションは最高潮!1週間も我慢していましたし。






「そんな.........」


 雑貨屋の中、膝をついて絶望している獣人が1匹。



「お金がない......」


 世知辛い......のだ。

 店に入ってあれを見つけた時は心の底から喜んだのです。しかし、買えないことがわかった瞬間、上がりきったテンションはどん底まで落ち込みました。

 だがしかし、この世界にもあることがわかりました。あとはお金だけです。頑張ればなんとかなるということ。この世に無いよりはマシです!


 まぁ目の前にあって手が届かないというのも、なかなか辛いですけど。







 数日後。

「ついにきた......!」

 あれから日雇いの仕事を何個か見つけることができました。未だに宿無し野宿ですが、慣れてきたし別にいいのです。今はそれよりあれです。この世界に来てから約2週間、あれをこんなに長い間していなかったなんて前世ではそうそうなかったです。

 ついつい早足になってしまいます。通りの右手に例の雑貨屋が見えてきました。

 チャリンチャリンとドアのベルが鳴りました、ついにそれを手に入れられます。

 見た目は元の世界のとほぼ同じです。先端が少し丸まっていて、反対端には白くて丸い梵天が付いています。


「まいどあり〜」



 ドアベルがチャリンと鳴り、中から出てきた獣人の少女は紙袋を抱え、満面の笑みを浮かべていた。


「むふふ......」


 耳かき中毒者には、2週間はかなり辛かったのだろう。少女は浮き足立って、いつも野宿をしている近くの森へ走り去っていったのだった。


 その耳かきが『人間用』と書いてあるのも気がつかずに。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ