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サンタクロースの大仕事  作者: 真友
3/5

大労働!12月24日

「ん、準備出来た?」

「ああ出来たよ」

「シンジさんのその姿見るのも今日で最後なんですね~早いなあ」

「こっちは永遠の様に感じたけどな」


 あれから数時間が経過し、現在の時刻は午後九時。出発の時間だ。

 既に俺はパジャマを脱いで、サンタの赤い服に着替え終わっていた。頭にも同様に赤い帽子を被ったところで、すっかりとサンタクロースに変身する事に成功した。


「そろそろ出発だよ。忘れ物すんなよ」

「特に忘れる様な物無いんだけど……」


 右手にスマートフォン……ではなくサンタフォンを握りしめて俺は言った。

 昔のサンタが、こんな身軽な格好を見たらどう思うだろうか。

「ワシらがサンタの時は……」なんて言って、くどくどと過去の話をされるに違いない。そういう輩は、時代の移り変わりという言葉を知らないのだ。

 俺はトナカイ達と一緒に、家の扉を開けて外に出た。外は未だに雪が降っていて、なかなか寒かった。ブルっと、一つ身震いをしてから、俺はソリに乗り込んだ。


「あー寒い寒い……」

「じゃあ行きますよ~せーのっ!」


 ギシギシと音を立てて、ソリが動き出した。俺を乗せたソリは、重力に逆らいながら上へ上へと上がっていく。


「おお、やっぱり高い……」

「まずは九州ですね。ササっと済ませましょう!」


 こうして、俺達はプレゼント配りを開始した。

 出発してから数分で沖縄に到着した俺達は、着々と子供達が住む家を訪ねるのだった。と言っても、玄関からインターホンを押して入る。なんて事はしない。

 あくまで、サンタクロースは他人に見られてはいけないので、大体ベランダか窓からこっそり侵入するのが基本なのだ。


「ええっと、ここの子供が欲しいものは……?」

「ゲーム機だとさ。サンタフォンにそう書いてある」

「またゲーム機かよ?なんか今年ゲーム機多くない?流行ってるの?」

「知りませんよ人間の流行は……」

「まあ何でもいいけどさ。さて……」


 そう言って、俺は作業に取り掛かった。この家は、比較的窓が大きめだったので、入るならここからだと判断したのだった。

 俺は、八年間の間に培ってきたピッキング技術を上手く使い、窓の鍵を開けて中に入っていった。

 一応言っておくが、泥棒ではない。サンタクロースだ。

 忍び足で家の中を歩いていると、すぐに子供部屋らしき場所を見つけたので、そっと扉を開けた。

 中には、まだ綺麗な学習机が置いてあり、壁には戦隊ヒーローもののポスターが堂々と貼られていた。

 加えて、部屋の隅にランドセルがあることから、小学二年生くらいの男の子だろうと予想がつく。

 息を殺してベッドに近づくと、予想通りの子供がスヤスヤと寝息を立てていた。枕元には、大きめの靴下が置いてある。


「持ってきてやったぞ。大切に使ってくれよな」


 そう呟いて、俺は持ってきたゲーム機を靴下の中に詰め、この家を後にした。


「ゲームばっかしすぎるなよ。メリークリスマス」


 この様な作業を繰り返しに繰り返していった結果、数時間で九州の子供達にプレゼントを配り終えることが出来た。

 次に、四国、中国、近畿と夜空を駆け回り、無心でプレゼントを配り始めてからは関東、東北を制覇していた。最後の土地、北海道に到達した時のことはよく覚えていない。

 いや、覚える暇もない程に忙しいのだ。何故なら、何万もの子供達を相手にすると、中には訳の分からない物を欲しがったりする子が出てくるからだ。

 例えば、こんな子がいた。


「僕には好きな子がいます。その子と今度遊びに行く約束をしたのですが、どんな服装をすれば良いのか分かりません。なので、僕に似合いそうなカッコいい服を下さい。お願いします……って、なんだよこの願い!」

「めっちゃアバウトだな」

「知恵袋の質問みたいですね」

「呑気か!タンクトップに短パンで行け!」


 別の子ではこんな子が。


「身長が伸びる薬が欲しいです……だって」

「ねーよ!あるわけねーよ!」


 また別の子では。


「新しいお家が欲しいです……ですって」

「赤の他人に家を買えと!?」


 またまた別の子は。


「アンキパンが欲しいです…….だそうです」

「もうふざけてるよね!?ありません!」

「今年の子供のセンス凄いな」


 こんな風に、現代社会には存在しない空想上のアイテムを要求してくる子が少なくなかった。

 その度に、代わりになる物を即座に考えなければならないので、例年に増して頭を働かせる回数が多くなり、俺はすっかり疲労困憊だった。

 サンタクロースとて、魔法使いではない。よって、ありもしない物を作り出すことは出来ないし、疲れる時は疲れるのだ。

 ただ、どんなに大変でも仕事は仕事。いずれは終わりが来る訳で、無限に続くかと思われたプレゼント配りも、あと一軒の家で終了というところまでたどり着いた。


「最後の家はどこだ……?」

「もうちょっと奥にあるみたいですよ。早いですが、八年間お疲れ様でした」

「なんだかんだで楽しかっただろ?」

「楽しくねえよ……」


 この仕事が終わってしまえば、こいつらと会話する機会もなくなるだろう。そう考えると少しだけ名残惜しく思えた。

 ようやく終わるという開放感にも似た嬉しさと混ざり合う、複雑な感情を抱きながら、俺は最後の家にたどり着く瞬間を待った。

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