憂鬱な12月23日
もうすぐでクリスマスですね。
特に予定もない僕は一日中寝ていようかと思います。
みなさんは楽しいクリスマスをお過ごし下さいね〜
「ジングルベール……ジングルベール……鈴がなる~……」
都会の夜の街を照らす、装飾されたクリスマスツリーのイルミネーション。ケーキ屋とチキン屋がやたら繁盛する時期。そして、子供たちがこの歌を歌いながら、サンタクロースのプレゼントを期待する季節になると、俺はため息をつかずにはいられなくなる。
「今年も、この季節がやってきたか……」
小さな一軒家の中、窓越しに外を眺めながら俺、仁田真司は呟いた。外には、しんしんと雪が降り積もっていた。
今日は、十二月の二十三日。クリスマスイブの前日。クリスマスイブイブとでも言っておこうか。いや、やっぱり言いにくいからやめておこう。
何にせよ、俺はクリスマスというイベントが、あまり好きではない。よって、呼び方なんて物はどうでも良いのだ。俺は、また一つ大きなため息をついた。
なぜ、クリスマスが嫌いなのかって?
答えはシンプルだ。それは、俺がサンタクロースであるからだ。
え?サンタクロースなのにクリスマスが嫌いなのはどうしてかって?
それはだな……
「ちょっと!何ダラダラしてんだよ!明日出発なんだから、今のうちから準備しておけよ!」
「そうですよ!窓なんか見てる場合じゃありませんよ!」
単純に、プレゼントを配るのが面倒臭いのだ。あとは、
「ほら早く!急げって!」
「時間が無いんです!ハリアーップ!」
ソリを引く役目を持ったトナカイ二匹が、非常にうるさいからだ。
厳しい言い方をする方がジェイ。割と丁寧な言葉使いのミル。こいつらは、トナカイのくせに、何故か人間の言葉を喋る事が出来る。
そして、八年前のある日から、クリスマスが近づくと俺の家に現れて、サンタクロースとして働く事を強要してくるのだ。
いい加減、パワハラで訴えてやりたいのだが、動物からパワハラを受けていますって言ったところで誰が信用するだろうか。おそらく、無視されるか病院に連れて行かれるかの二択だろう。そんな訳で、誰にも相談することが出来ず、八年間サンタクロースを続けているのだった。
「いやぁ……今年は別の人に頼んでくれよ。なんで毎回俺なんだよ」
「しょうがないだろ。前にサンタクロースやってた人が、跡継ぎにシンジを指名したんだから」
「その俺を指名した奴誰!?見つけ出して首絞めてやりたいんだけど!面倒な事押し付けやがってよお!」
騒ぐ俺を落ち着かせる為に、ミルが割って入ってきた。
全く、こっちは日々本業で忙しいって言うのに。
「まあまあ。シンジさんもサンタクロースとしての仕事は今年でラストなんですし、最後の思い出作りとして楽しみましょうよ」
その言葉を聞いて思い出した。昔、ジェイから聞いたのだが、どうやらサンタの仕事は八年契約らしい。
つまり、八年やれば終わりという事で、今日は待ちに待った八年目、最後の契約年だったのだ。
「やっと最後か!へへっ、やったぜ!さてと、今度は誰にこの仕事を押し付けてやろうかな~?」
「……サンタの仕事を爆弾ゲームみたいに扱うのやめろよな」
「そんなに面倒だったんですか?」
と、ミルが聞く。
そんなに面倒だったか、だって?当たり前だ。面倒に決まっている。
どうせ最後だからな。今までの不満を全部ぶつけてやろう。俺はトナカイ達に向き直って言った。
「ああ、死ぬほど面倒臭かったぜ。だって冷静になって考えてみろよ。何万といる日本中の子供達全員に一日でプレゼントを配るんだぜ?頭おかしいだろ!疲れるわ!」
「ま、まあ確かにちょっと数は多いけどさ……」
「ちょっとじゃなくて多すぎだよ!欲しいものあるなら買えよ!自分で!」
「そ、それ以上はサンタのロマンが潰れるから勘弁してください……」
その他、正装である赤い服の通気性が悪くて暑苦しいとか、白髭が邪魔だとか、ソリを漕ぐ速度が遅いなど、様々な文句を垂れた。
一通り言ったところで、俺も少し気分がスッキリしたので、嫌々ながら子供達に、プレゼントを配る為の前準備に取り掛かった。
「ところでさあ」
服やら髭やらを用意しながら、俺はこいつらに質問した。
「お前らは、この仕事が嫌になったりしないの?正直やりたくないでしょ?ひたすらにソリを漕ぎ続ける仕事なんてさ」
「嫌になった事は一度もないよ」
明日に向けたエネルギー補給の為か、ニンジンを頬張りながらジェイが言う。
「何でだよ?つまんなくないの?」
「子供達にロマンを与える仕事だからな。なんだかんだでやりがいがあって楽しいよ」
「ロマン、ねぇ……」
俺は、外に降り続ける雪を見ながら、独り言の様に呟いた。
ただの面倒で退屈な仕事だと思うサンタと、この仕事にやりがいを感じるトナカイ。積乱雲が出来そうな温度差だ。
俺に、こいつらの気持ちは一生理解出来ないだろうな、と心から思った。
「まぁ、最後に少しでもサンタの楽しさを理解して下さいよ。もし、これからも続けたい!って思ったら言って下さいね。すぐに延長しますから!」
「すんな!二度とやりたくねえ!」
ぎゃあぎゃあ騒ぎながらも、準備は着実に進んでいき、いよいよ明日プレゼントを配るだけとなった。
これが終わったら俺は自由だ。来年のクリスマスは何をして過ごそうか。と、一年後の計画を立てながら、明日に備えて俺は睡眠を取るのだった。