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金色の海

 エルムは自分のためにいくつも窓を作りました。ですが家の中が窓だらけになっても、エルムのことを一番に想ってくれる窓の外の住人に出会うことはできませんでした。


 閉じこもって窓を作り続ける日々。やがて窓作りに使える材料は少なくなってゆきました。

 エルムは残った材料を使って窓を作りました。飾り気のない、質素な作りの窓です。


 完成した窓を東の壁に取り付けます。


 こんな余り物の材料で作った窓ではエルムを見てくれる人には出会えないかもしれません。だけどエルムは窓を作るのに疲れてしまって、新しい窓を作るための材料を集めにでかける元気もありませんでした。


 きっとここにも僕を見てくれる人はいないのだろうな。エルムは憂鬱な気持ちで窓を開きます。 




 風のにおいがしました。



 窓を開けたエルムの目に飛び込んできたのは、黄金色に輝く景色でした。

 一面の麦畑。夕日に照らされ、穏やかな風に吹かれて穂が揺れる光景は金色の海を思わせます。


「こんにちは」


 エルムが窓の外の景色に見とれていると、穂をかき分けて男の子が近寄ってきました。


「おにいさん、そんなところで何してるの?」


 男の子は不思議そうに、窓の向こうにいるエルムを見つめました。


「麦畑を見ていたんだ。とても綺麗で、思わず見とれてしまっていた」

「変わってるね。麦畑なんて珍しくもなんともないでしょ?」

「ううん、今まで見てきたどの世界の景色よりも、僕は好きだな」

「世界? おにいさんは、ほかの国に行ったことがあるの?」


 男の子はエルムの話を聞いて目を輝かせました。


「いいなぁ。ぼくはこの村からも出たこともないからうらやましいよ。ほかの国の話、聞いてみたいな」

「それじゃあ、僕の家に遊びに来ないか?」

「……そうしたいけど、もう陽が沈んじゃう。そろそろ帰らないとおばさんに怒られちゃうよ」


 エルムは残念そうな顔をしました。


「そうだ、おにいさんが遊びにおいでよ! おばさんの作るシチューはとってもおいしいし、みんなもきっとおにいさんの話を聞きたがるよ!」


 男の子は嬉しそうに言いましたが、エルムは首を横に振りました。

 内側にしか開かない窓は、外から招き入れることができても自分が外に出向くことはできないのです。



「エルムー! 帰るよー!」


 金色の海の向こうから女の子の呼び声が聞こえました。エルムと同じ名前で呼ばれた男の子と同い年くらいの女の子が、弟と一緒に手を振っています。


「ぼくはもう帰らないと」


 大人のエルムはもう少しだけ話をしたくて子供のエルムを引きとめようとしましたが、背後から聞こえたノックの音に遮られてしまいました。


「誰か来たみたいだね。じゃあね、また今度話を聞かせてよ!」


 子供のエルムは背中を向けて、金色の海を泳いでいきました。

 コンコン。ノックの音が呼んでいます。

 大人のエルムは約束の返事を返せないまま、名残惜しげに窓を閉じてドアに向かいました。

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