孤独な青年
とある小さな村の片隅に、エルムという名前の青年が住んでいました。
エルムは手先がとっても器用で、木を削ったり組み立てたりして、家具や小物を作る仕事をしていました。
中でもエルムの作る窓は大評判で、村の外からも買いにくる人たちがたくさんいました。
エルムの作る窓にはガラスがはまっていないので、窓を開けなければ外の景色を見ることはできません。
ですがひとたび窓を開くと、すばらしい景色が目の前に広がります。
窓職人エルムの作る窓は不思議な窓。エルムの作る窓からは、ここではないどこかの世界の景色を見ることができます。
半透明の動物たちが跳ね回る果てのない大草原。
砂の巨人が石のオブジェを建造する砂漠の国。
一日中太陽が昇ることのない夜の国の空に広がる色とりどりの星たち。
壁に取り付けた窓からは、この世界の誰もが見たことのない不思議な景色を見ることができるのです。
たくさんの人たちがエルムの作る不思議な窓を欲しがりました。エルムは自分が必要とされるのが嬉しくて、たくさんの窓を作り上げてみんなに与えました。
窓を手に入れた人たちはみんな「これはすばらしいものだ」と、とても喜んでくれました。
望まれるままに窓を作り続ける毎日が続きます。
いくつもいくつも窓を作り上げる毎日。ある日、エルムは気が付いてしまいました。
エルムの家には毎日のように窓を求める人たちが訪れますが、窓を買っていった人たちはそれっきり顔を見かけることがなくなるのです。
窓を欲しがってエルムに近付いてきた人たちはみんな、窓を手に入れるとエルムには見向きもしなくなるのです。
みんなが求めているのはエルムの作る不思議な窓。
みんなが求めていたのはエルム自身ではなかったのです。
エルムは悲しい気持ちになって、誰かのために窓を作ることをやめてしまいました。
だけど、窓を作ることをやめたわけではありません。
自分の家に閉じこもって、エルムは窓を作ります。
この世界に、エルムを見てくれる人は誰もいません。
だけどきっと、ここではないどこかの世界になら、エルムのことを見てくれる誰かがいるはすです。
窓のない四角い家の中で、エルムは自分自身のためだけに窓を作り続けました。