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彼方の世界とやらについて

   彼方(かなた)の世界とやらについて


 かつて、このツァラトゥストラもまた、彼方の世界を説く全ての者のように、人間を飛び超した妄想を描いた。世界は苦しみ悩める神の作品だと、そのように見えた。

 この世界、永遠の不完全、永遠の矛盾――不完全な創造主の自己陶酔の為の(なぐさ)め――世界はかつてわたしにはこのように思われた。

 ああ、兄弟たちよ、この神は、わたしが(つく)ったのだ。それは人間による作品であり、人間による妄想だった。他の全ての神々と同様に!

 それは人間であり、一人の人間と自我の(もろ)欠片(かけら)に過ぎなかった。わたし自身の灰と燃え(かす)から、その亡霊は出てきたのだ。(まこと)に、それは彼方の世界から来たのではなかった!


 我が兄弟たちよ。わたしは悩める自己を、克服した。もっと明るい炎を、わたしは自分で創り出した。すると見よ! その神の亡霊はわたしの前から消えた!

 生きる苦しみと、世界への無力感――それが全ての彼方の世界を創り出したのだ。そして大いに苦しむ者だけが体験する、あの(つか)の間の幸福な妄想が。これが神を創り出したのだ。

 兄弟たちよ、肉体が、地上で生きる事に絶望したのだ。そうして肉体は頭を使って壁を抜け、「あの世」へと行こうとした。しかし、それは人間性の無い、天国という名の虚無なのだ。


 しかし自我は、歌い、夢想し、壊れた翼で羽ばたく時でさえ、やはり肉体を求める。

 人間の自我はやがて、より正直に語る事を学ぶだろう。そして学べば学ぶ程、意味と価値を、現実の肉体と大地から見出すのだ。

 わたしは新たな意志を人間に教えよう。それは天の何かではなく、大地の道を選び取る事、――そして二度と病人や瀕死の者のようにそこから()れない事だ!


 病人と瀕死の者――肉体と大地を軽蔑したのは、彼らである。彼らは天国や血の(あがな)いを発明した。

 彼らは自分の(みじ)めさから逃れようとしたが、星は余りに遠かったのだ。そこで彼らは溜息を()いた。「おお、天の国への道のような、別の場所に潜り込んで幸せになれるものがあればいいのに!」と。

 ツァラトゥストラは病人には優しい。真に、彼は病人たちの慰みや忘恩には腹を立てない。願わくば彼らが回復し、克服し、より良い肉体を作り出さんことを!

 ある意味で、彼らもまた肉体と、肉体が生み出す支配力を最も信じていると言える。しかしその肉体が、彼らは病んでいて、その肌の内から飛び出したいと望むのだ。それ故に、彼らは死の説教者たちの言葉に耳を傾け、自身でも彼方の世界を説くのだ。

 兄弟たちよ、むしろ健康な肉体の声に耳を傾けよ。それはもっと正直で純粋な声である。

 健康な肉体、完全で真っ直ぐな肉体は、正直で純粋に語る。そしてそれは大地の意味について語るのだ。――

 ツァラトゥストラはこう言った。

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